ブルセラ症
更新日 (last updated):2025年5月23日
概要
Brucella属菌による動物由来感染症である。牛、豚、山羊、めん羊などの家畜からヒトへ感染する。家畜でブルセラ症が発生している国や地域を中心に、多くの患者が発生している。
病原体
原因菌はBrucella属菌で、グラム陰性の細胞内寄生菌である。ヒトへの感染が報告されている主要なものは、B. melitensis biovar melitensis(自然宿主:ヤギ、ヒツジ)、biovar suis(ブタ)、biovar abortus(ウシ)、biovar canis(イヌ)の4菌種がある。公衆衛生的にはB. melitensis biovar melitensis感染が最も重要である。
疫学
動物での感染対策が不十分で、家畜での発生が多い地域を中心に、世界で年間約210万人が新たに感染していると推定される。日本では家畜のブルセラ症は撲滅されており、感染症法施行以降、家畜由来のヒトでのブルセラ症はすべて輸入症例である。一方、B. canisは、国内のイヌの約1から3%が感染歴を有し、感染症法施行以降のB. canis感染例は全て国内感染例である。また、海外ではげっ歯類が保菌しているとされるB. suis biovar 5感染例が、2017年以降長野県で3例報告されているが、その感染源は不明である。
感染経路
感染動物の加熱殺菌が不十分な乳・乳製品や肉を介した経口感染が一般的である。家畜が流産した時の汚物・流産胎仔への直接接触、汚染エアロゾルの吸入によっても感染する。病原体の不適切な取扱いによる検査室・実験室内感染も多い。
臨床像
潜伏期間は通常1から3週間であるが、数カ月に及ぶ場合もある。発熱や倦怠感、筋肉痛、関節痛などを伴い、波のように熱が上がったり下がったりする「波状熱」が特徴である。未治療では心内膜炎など重篤な合併症を起こすことがある。B. canis感染は一般的に軽症で感染に気付かない場合もある。
病原体診断
菌の分離・同定、血清学的検査による。
治療
抗菌薬の併用療法により治療を行う。
予防法・ワクチン
乳・乳製品の適切な加熱処理を行う。また、動物の検査・検査陽性動物の殺処分、群に新たに動物を導入する前には検査を実施し群を清浄に保つなど獣医学的な対策が有効である。承認されたワクチンはない。
法的取り扱い
感染症法では四類感染症に定められている。