ペスト
更新日 (last updated):2025年5月23日
概要
ペストはペスト菌(Yersinia pestis)による重篤な動物由来感染症である。感染経路と臨床像により腺ペスト、肺ペスト、敗血症型ペストに分けられる。過去には「黒死病」として流行し、現在も国外の一部地域に常在している。
病原体
原因菌はペスト菌(Yersinia pestis)である。ペスト菌はグラム陰性桿菌であり、げっ歯類を保菌宿主とし、節足動物(主にネズミノミ属のノミ)によって伝播される。
疫学
現在は主にアフリカ、南北アメリカ、アジアで患者が報告されている。日本では1927年以降、発生例の報告はない。
感染経路
主な感染経路は、ノミ咬傷による経皮感染、感染動物との接触、飛沫感染である。肺ペストではヒト−ヒト間の飛沫感染が生じる。
臨床像
腺ペストは、ノミ咬傷や感染動物との接触で経皮感染した場合に見られる。潜伏期間は3から7日間で、リンパ節腫脹、発熱、頭痛、倦怠感を呈する。
適切な治療が行われなかった場合、ペスト菌がリンパ流、血流を介して全身播種することで、敗血症型ペストに移行するが、腺ペストを経ない場合もある。急激なショック症状、昏睡などの症状を呈し、死亡に至る。
肺ペストは腺ペスト末期や敗血症型ペストの経過中に、肺に菌が侵入することで生じる場合がある。また、肺ペスト患者からの飛沫感染による原発性肺ペストの場合、通常2から3日の潜伏期間ののちに生じる。症状は、強烈な頭痛、嘔吐、40℃前後の高熱、呼吸困難、鮮紅色の泡立った血痰を伴う重篤な肺炎像を示す。適切な抗菌薬による治療が行われなかった場合、発病後24時間以内に死亡する。
病原体診断
病原体の分離・同定、遺伝子の検出、抗体の検出による。
治療
抗菌薬による治療が行われる。
予防法・ワクチン
ペストが常在する地域では、ネズミやノミとの接触を避ける。肺ペスト患者と接触する際は、飛沫感染対策が有効である。曝露後の予防的抗菌薬投与も検討される。承認されたワクチンはない。
法的取り扱い
感染症法では一類感染症に定められている。学校保健法上では第一種感染症に定められている。