炭疽
更新日 (last updated):2025年5月23日
概要
炭疽は炭疽菌(Bacillus anthracis)による動物由来感染症である。感染経路により、皮膚炭疽、腸炭疽、肺炭疽に分かれ、それぞれで症状や致命率が異なる。炭疽菌から形成される芽胞は、高い環境耐性を持つ。
病原体
原因菌は炭疽菌(Bacillus anthracis)である。炭疽菌は芽胞を形成する通性嫌気性グラム陽性桿菌で、毒素(浮腫毒・致死毒)と莢膜を病原因子とする。芽胞は熱や乾燥、消毒薬などに強い抵抗性をもち、土壌中などで長期間生存し、動物に感染を繰り返す。
疫学
炭疽は世界中で発生しており、特にスペイン中部からパキスタンまでの地域に集中している。日本では近年の発生はないが、芽胞に汚染された動物由来の輸入製品による感染のリスクがある。
感染経路
感染経路は、芽胞に汚染された動物や動物由来製品を介した接触感染、経口感染、菌の吸入である。ヒトからヒトへ感染することはほとんどない。
臨床像
皮膚炭疽、腸炭疽、肺炭疽の3型があり、致命率は病型により異なる。
皮膚炭疽は自然感染の95%を占めており、芽胞が創傷部から感染する。感染から1から10日後に丘疹が出現し、周囲の浮腫やリンパ節腫脹を伴う。未治療時の致命率は10から20%である。
腸炭疽は芽胞に汚染された食品を摂取することで発症し、悪心、嘔吐、発熱等の初期症状の後、2から3日後に激しい腹痛と血液を含む下痢を呈する。未治療時の致命率は25から50%である。
肺炭疽は芽胞の吸入により感染し、発熱、倦怠感、筋肉痛、呼吸困難、咳、胸腹部の疼痛などがみられる。未治療時の致命率は90%以上である。
病原体診断
病原体の分離・同定、抗原検査、遺伝子の検出等による。
治療
抗菌薬による治療が行われる。必要に応じて全身管理や抗毒素治療を併用する。
予防法・ワクチン
炭疽菌に汚染された肉、臓器、皮や毛を避けることが推奨される。芽胞の消毒はきわめて困難である。承認されたワクチンはない。
法的取り扱い
感染症法では四類感染症に定められている。