COVID-19患者における中和抗体の特性について

COVID-19患者における中和抗体の特性について
(IASR Vol. 42 p147-148: 2021年7月号)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の多様な病態や防御免疫を解明すべく, 最新の解析技術を駆使したヒト免疫研究は驚異的なスピードで進められてきた。特に, 血液中に含まれる中和抗体は, 感染防御能と相関する免疫指標候補として, また感染歴を把握するための1つの指標として, 様々な重症度の患者検体を用いて解析されてきた。本稿では, COVID-19患者が獲得する中和抗体に関して, これまでの研究から明らかとなった病態や防御免疫の理解に役立つと思われる基礎情報について, 5つの項目に分けて紹介する。
1. 急性期における中和抗体の特徴について
COVID-19患者における中和抗体価は, COVID-19の多様な病態と同様, 患者ごとに大きなばらつきがある1)。有症患者では発症後平均して10日前後から抗体が陽転化し2), 重症度に比例して中和抗体のピーク値が高くなることが知られている3)。ただし, 急性期の中和抗体価と患者の予後は相関しない一方, 抗体当たりの中和比活性(中和抗体の質)が重症患者の予後と相関するとの報告がある4)。重症度の高い患者では, 炎症促進作用のある糖鎖修飾を受けた抗体の頻度が高く5), 特殊な抗体遺伝子を使用する抗体が誘導されるなど6), 病態との関連が疑われる抗体の構造的特徴が見出されている。ただし, これらの抗体が実際の病態形成に関与するかどうか, 現時点では証明されていない。
2. 回復期における中和抗体の持続性について
当初, COVID-19発症後3カ月以内の中和抗体を解析することで, 中和抗体が減衰することに注目が集まった。その後, より長期的に抗体価をフォローアップした研究データの蓄積により, 中和抗体の正確な半減期が明らかとなってきた1)。今日では中和抗体は二層性に減衰すると考えられており, 例えば発症後3カ月程度までは抗体の半減期は短く, それ以降では半減期が長くなる7)。中国で実施された抗体フォローアップ研究(感染後9カ月以上)でも, 抗体陽性率の大幅な低下は観察されていない8)。抗体タンパク自体の半減期はせいぜい2週間程度と短いため, 持続的な抗体価の維持は骨髄などに存在する長寿命の抗体産生細胞によって担われる9)。今後, この長寿命の抗体産生細胞が, 数年以上といった長い期間生存できるかどうかにより, 中和抗体の持続性が大きく左右されることになる。
3. 感染防御に必要な中和抗体価について
中和抗体が一定期間維持されることは分かったものの, どれくらいの濃度の中和抗体が感染防御に必要なのか, 現時点で得られているデータは実験動物由来のものに限られている。代表的なデータとして, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染から回復したサルの血漿抗体を様々な濃度で別のサルに移入し, 感染防御に必要な中和抗体の濃度が解析されている10)。その結果, 感染前に血液中の中和抗体価が50(IC50)以上あると, 上気道でのウイルス量が対照群に比べて低下するなどの防御効果が確認されている10)。
4. 変異ウイルスへの中和効果について
2021年5月末の時点で, 4種類が懸念される変異ウイルスとして分類されている。これら変異ウイルスの免疫逃避に関する情報は, Centers for Disease Control and Prevention(CDC)ホームページ11)に要約されているため, そちらを参照されたい。ただし, 免疫逃避能の評価に使用された回復者由来の抗体は, 回復後3カ月以内の早期のものが使用されていることに注意が必要である。なぜなら, 免疫反応は時間とともに抗体の結合性を成熟させることが可能であり, 同一ドナーから発症後の異なる時期に単離されたモノクローナル抗体では, 変異ウイルスへの中和活性に経時的な改善がみられることがある12)。国内回復者の中和抗体を経時的に解析した研究でも同様な現象が確認されており13), 変異ウイルスへの中和抗体を評価する上で, 発症からの経過時間を考慮する必要がある。
5. 中和抗体価測定法の国際標準品について
中和抗体の測定法は, 用いるウイルスの種類, 細胞株, 中和力価の確認法に複数の選択肢がある。その結果, 各研究グループが使用している測定法は, 感度や特異度の点でそれぞれ差異が生じるため, 報告された中和抗体の数値を横並びで比較することには注意が必要である。この測定法のばらつきを補正することを1つの目的として, 新型コロナウイルス抗体の国際標準品制定に向けた国際共同研究が実施された。国立感染症研究所を含む15カ国44研究室が参加し, 様々な抗体測定法により国際標準品候補の値付けがされた。収集された測定結果を基に, 2020年12月10日の世界保健機関(WHO)会議(Expert Committee on Biological Standardization)において新型コロナウイルス抗体の国際標準品が制定された14)。この国際標準品は, The National Institute for Biological Standards and Control(NIBSC)から購入可能であり, 中和抗体に限らず様々な抗体測定法の物差しとしての活用が期待されている。
参考文献
- Dan JM, et al., Science 371, eabf4063, 2021
- Iyer AS, et al., Sci Immunol 5, eabe0367, 2020
- Seow J, et al., Nat Microbiol 5: 1598-1607, 2020
- Garcia-Beltran WF, et al., Cell 184: 476-488, 2021
- Larsen MD, et al., Science 371, eabc8378, 2021
- Woodruff MC, et al., Nat Immunol 21: 1506-1516, 2020
- Pradenas E, et al., Med 2: 1-8, 2021
- He Z, et al., Lancet 397: 1075-1084, 2021
- Turner JS, et al., Nature, doi: 10.1038/s41586-021-03647-4, 2021
- McMahan K, et al., Nature 590: 630-634, 2021
- 米国CDC
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/variants/variant-info.html - Gaebler C, et al., Nature 591: 639-644, 2021
- Moriyama S, et al., Sneak Peak sspn.3831465
- Kristiansen PA, et al., Lancet 397: 1347-1348, 2021