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IDWR 2025年第22号<注目すべき感染症> 百日咳

IDWRchumoku.gif 注目すべき感染症 注意:PDF版よりピックアップして掲載しています。

百日咳 2025年第1~21週(2025年5月28日現在)

 百日咳は主に百日咳菌(Bordetella pertussis)を原因菌とする急性気道感染症であり、主な感染経路は飛沫感染および接触感染である。パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)も原因となるが、感染症法では百日咳菌による感染のみが届出の対象となる。経過はカタル期(かぜ症状)、痙咳期(特有の発作性けいれん性の咳、吸気性の笛声など)、回復期(発作の減衰)の3期を経て、通常2~3カ月かけて回復するとされている。乳児期早期では特徴的な咳嗽がみられないことがある。また、無呼吸発作から呼吸停止に至る場合もある。さらに、肺炎や脳症などの合併症も報告されているため、特に注意が必要である。成人では軽症であることが多く、咳が長期間続いても見過ごされることがある。治療としては主にマクロライド系抗菌薬が使用される。小児期の予防の中核となるのは定期接種としての五種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)等の4回接種であり、これに加えて、基本的な手指衛生や感染予防策も有効である。

 わが国において、百日咳は2017年まで感染症法上の5類感染症小児科定点把握対象疾患であったが、2018年1月1日から5類全数把握疾患に指定され、国内においてより正確な疫学や発生動向の把握が可能となった。百日咳は、特有の咳嗽などの臨床的特徴を有し、病原体の分離・同定、核酸増幅法、イムノクロマト法による抗原検出、抗体検出のいずれかの検査で診断された場合、または検査所見がなくても検査確定例との接触があり臨床的に疑われる場合(臨床決定)に届出対象となる。加えて学校保健安全法における第二種感染症にも指定されている。本稿は、感染症発生動向調査に基づき、国内における百日咳届出症例の最新の疫学的状況を報告することを目的としている。

 2025年第1~21週に診断された百日咳の累積報告数(2025年5月28日現在)は22,351例であり、全数把握疾患としての報告が開始された2018年以降、同時期で最多を記録した。2024年の年間報告数は4,096例であり、2025年は第21週までの累積報告数が昨年の年間報告数の5倍以上となっている。また、2018~2024年の第1~21週では診断週別報告数が500例を超えた週はなかったが、2025年は第10週に571例が報告された。特に第15週以降の報告数の増加が顕著であり、第15週の報告数は1,611例で、さらに第16週以降は毎週2,000例を超える症例が報告されている。

 報告された22,351例のうち、臨床決定で報告されたのは662例(3%)であった。それ以外の21,689例では何らかの検査が実施されていたが、うち、PCR法やLAMP法などの核酸増幅法で病原体遺伝子が検出された症例は13,501例(62%)であった。性別では男性11,366例、女性10,983例、不明2例であり、年齢中央値は12歳(範囲0~99歳)であった。年齢群別では、2025年第1~21週の累積報告数では10代が全体の58.7%を占めており、例年の水準と比較して顕著な増加となっている。また、20代以上の年齢群が占める割合は例年と比較して低い。2018~2025年の第1~21週における年齢群別の累積報告数(n)と割合は表1のとおりであった。

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 2025年第1~21週の累積報告数の上位3都道府県は新潟県(1,473例)、東京都(1,448例)、大阪府(1,276例)であったが、人口10万人当たりの報告数は、宮崎県(81.1例)が最も多く、次いで新潟県(70.2例)、高知県(68.9例)の順であった。届出に記載されたワクチン接種歴については、接種歴なしが581例、1回が188例、2回が98例、3回が592例、4回が13,072例、不明が7,820例であった。

 また、2018~2025年の各年で第1~21週に診断された百日咳の累積報告数、報告医療機関数、そして医療機関当たりの報告数は表2のとおりであった。

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 2025年第21週までの報告医療機関数は4,198に達し、医療機関当たり報告数は5.32であった。報告医療機関数の大幅な増加は、2025年第15週から開始された急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランスの導入に伴い、国内における呼吸器感染症への関心が高まったことが一因と考えられる。一方、同時期に他の呼吸器感染症においては同様な増加は見られておらず、医療機関当たりの報告数も過去7年間の水準を大きく上回っていることから、報告医療機関の増加のみでは十分に説明できない百日咳の全国的な流行が示唆される。

 近年は治療の第一選択薬であるマクロライド系抗菌薬に耐性を示す百日咳菌(MRBP:macrolide-resistant B. pertussis)が日本を含む世界各国で問題となっている。日本では2024年以降、東京都、大阪府、鳥取県、沖縄県からMRBPに感染した症例が報告されている。2025年4月には、基礎疾患のない生後1カ月の女児がMRBP感染により呼吸不全、肺高血圧、腎不全を呈し亡くなった例が報告されている。今後も細菌学的・疫学的解析を継続することで、百日咳菌の薬剤耐性の動向を把握していくことが重要である。

 百日咳の流行は国外でも拡大しており、2021年以降、世界保健機関への報告数は欧米諸国を含む世界各地で増加傾向を示している。2025年5月31日には、アメリカ大陸地域の複数の国で報告が大幅に増加していることを受け、汎米保健機構/世界保健機関が疫学的アラートを発した。本警告では、百日咳のサーベイランスを強化するとともに、特に1歳未満および5歳未満の小児に注意しながらワクチン接種率を継続的に監視するよう、加盟国に対し要請している。

 百日咳の報告数は今後も増加していく可能性があり、全年齢にわたって注意が求められる。2025年5月21日には予防接種推進専門協議会から「百日咳流行に伴うワクチン接種に関するお願い」が公開されているが、乳児を中心とした小児期の感染予防策としては、生後2カ月から定期接種として接種可能な5種混合ワクチンの接種を受けることが最も重要である。また、近くに乳幼児や妊婦がいる場合は特に、飛沫・接触感染の予防に注意することが求められる。ワクチン接種から年数が経過した青年・成人も感染する可能性があるため、マスクの着用や咳エチケット、手洗いなどの基本的な感染対策を徹底することに加えて、咳が持続する場合は百日咳の可能性を考慮して医療機関を受診し、予防行動をとることも重要である。

 百日咳の感染症発生動向調査等に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい( 引用日付2025年5月28日)



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 国立感染症研究所 応用疫学研究センター
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