サーベイランスデータに数理モデルを適用することによる新型コロナワクチンBNT162b2(Pfizer/BioNTech)の有効性の推定(第1報)
要約
新型コロナワクチンBNT162b2(Pfizer/BioNTech)の有効性(vaccine effectiveness, VE)をサーベイランスデータ等を利用して推定した。VE推定値は、20-59歳の1回接種で男性47.5-55.4%、女性37.9-50.2%、60歳以上では1回接種で男性73.7-83.9%、女性75.7-81.2%であった。2回接種を完了後2週間以上経過した者の間では、20-59歳で男性89.6-93.4%、女性85.4-91.8%、60歳以上で高齢者では高い値が得られ2回接種で男性94.7-96.9%、女性92.6-96.1%であった。20-59歳の推定値は英国の既報と同程度であった。
1.背景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンのひとつであるBNT162b2 (Pfizer/BioNTech)を利用して2月以降に医療従事者と高齢者を対象に優先接種が行われた。mRNAワクチンの有効性(vaccine effectiveness, VE)は一般的に非常に高いと考えられているが、変異株、特にデルタ株に対して十分でないことが報告されている。例えば、英国では1回接種で30.7%の有効性、2回接種で88.0%の有効性が報告されてきた(1)。
本報告では、本邦における性・年齢別の有効性を理解するために、サーベイランスデータとワクチン接種者数データに数理モデルを適用してBNT162b2 (Pfizer/BioNTech)のVEを推定した。
2.方法
性・年齢別の観察データを利用して、性・年齢別のハザード比を利用して予防接種を推定する仕組みを数理モデルで構築した。新規感染者数の情報に関しては、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)によるサーベイランスデータ(6/21-7/20診断、性・年齢別感染者、予防接種歴情報)を利用した。また、各時刻における性・年齢群別の予防接種率を知るためにワクチン接種記録システム(VRS)のデータを用いた。
現状の観察データだけでは、(1)ハザード比を利用したVEの推定が求められるが、それに直接的に対応した観察データがないこと、(2)時々刻々と予防接種者が増えていくこと、(3)アルファ株やデルタ株に限定したリアルタイム推定が困難であること、などの問題がある。そこで、以下の数理モデルを用いてハザード比を推定した。
時刻tにおける年齢群aの未接種者、1回接種者、2回接種者の新規感染者数を とする。同様に当該接種歴の曝露される者を
とする。推定したいVEを1回接種・2回接種それぞれで
とし、未接種者のハザードを
とすると、以下で新規感染は定式化される:
日本では感染規模は未だ小さく、感受性を持つ者の割合は主に予防接種率で大きく変動する。つまり、以下を想定する:
ここで
は1回接種の免疫完了(接種2週後)、2回目接種の免疫完了(接種2週後)にある者の比率である。VRSから算出される を利用して
と計算した。
ここで、新規感染者数の式について、接種者の式を両辺ともに未接種者のそれで割る。すると、未接種者の新規患者数 と接種率情報およびVEの不明パラメータを利用すれば1回接種者と2回接種者の間の新規患者数は以下のように期待される:
以下では1回接種者と2回接種者の間の新規患者数がポアソン分布に従うと仮定して と
の最尤推定を実施した。
3.結果
表1に性・年齢別のVE推定結果を示す。20-59歳の1回接種で男性47.5-55.4%、女性37.9-50.2%、60歳以上では1回接種で男性73.7-83.9%、女性75.7-81.2%であった。2回接種を完了後2週間以上経過した者の間では、20-59歳で男性89.6-93.4%、女性85.4-91.8%、60歳以上で高齢者では高い値が得られ2回接種で男性94.7-96.9%、女性92.6-96.1%であった。
表1.2021年6月21日から7月20の間に診断された者の間におけるワクチン有効性(vaccine effectiveness, VE)の推定値
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男性 |
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女性 |
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VE (95%信頼区間) |
VE (95%信頼区間) |
VE (95%信頼区間) |
VE (95%信頼区間) |
年齢(歳) |
1回接種 |
2回接種 |
1回接種 |
2回接種 |
20–29 |
53.6 (38.3, 66.1) |
89.6 (84.8, 93.3) |
50.2 (36.8, 61.6) |
91.8 (89.2, 94.0) |
30–39 |
48.8 (32.0, 62.7) |
93.4 (89.1, 96.4) |
32.5 (11.3, 50.0) |
85.7 (80.7, 89.7) |
40–49 |
47.5 (31.6, 60.8) |
90.8 (84.8, 94.9) |
38.0 (19.2, 53.6) |
85.4 (80.5, 89.5) |
50–59 |
55.4 (42.2, 66.4) |
91.5 (84.3, 96.1) |
37.9 (21.3, 52.0) |
89.1 (84.3, 92.8) |
60–69 |
81.0 (76.7, 84.8) |
95.3 (92.1, 97.5) |
81.2 (76.0, 85.5) |
92.6 (88.4, 95.7) |
70–79 |
73.7 (69.0, 77.9) |
96.9 (95.1, 98.2) |
76.4 (72.2, 80.1) |
95.4 (93.1, 97.1) |
80–89 |
79.7 (74.7, 83.9) |
94.7 (92.1, 96.6) |
80.3 (75.9, 84.1) |
96.1 (94.1, 97.5) |
90+ |
83.9 (73.4, 91.1) |
95.9 (91.1, 98.5) |
75.7 (67.7, 82.3) |
92.6 (88.7, 95.5) |
4.考察
20-59歳のVE推定値は英国の既報と同程度であった。デルタ株に対する有効性は従来株やアルファ株と比して低いと考えられ、今後も予防接種の有効性について継続的に検討していくことが求められる。
高齢者の推定値のほうがより高いことに関してはいくつかの理由が考えられる。1つは、感染者の医療や介護状態に偏りがあることである。例えば、医療機関や高齢者福祉施設では入院患者・入所者に集団で予防接種が行われるが、未接種者は自ら足を運んで接種をする必要があった。もしも、日常生活が独立している者に未接種者が多く、生活が独立しているそれらの者で感染頻度が高い場合、未接種の感染者がより接触頻度が高い場合、その高い曝露頻度によって見かけ上、予防接種者がより防がれて見えた可能性がある。もう1つの仮説は予防接種の時期が年齢によって異なることである。20-59歳の接種者は多くは医療従事者であり2月に接種を開始し、60歳以上の多くは4月以降(主に5-7月期)に接種した。ワクチン免疫の失活度が生産年齢人口のほうが高いことがあるとすれば、この要因でも説明が可能である。
本報告の分析ではHER-SYSに入力されたワクチン接種歴を用いた。原則的に陽性者のワクチン接種歴はすべて入力されることになっているが、実際には流行拡大による医療機関および地域保健の業務負荷の増大が入力率に影響している可能性がある。またVRSについても入力の遅れが確認されており、これについては補正したうえで分析を行った。本報告の分析はサーベイランスの精度に影響を受けるため、推定値の解釈に際してはその点に留意を要する。
HER-SYSによるサーベイランスデータでの予防接種歴およびVRSの入力は医療機関や地域保健の現場の努力に帰することができるものであり、重要なデータとして継続的な入力が求められる。今後、予防接種による防御の程度を国内で定量化・モニタリングするために、同情報の保持のための確立した仕組みが必要である。また、英国におけるテスト陰性症例対照研究のように、その他の方法論を用いて継続的に予防接種の有効性評価を行うことが求められる。
5.文献
1.Bernal JL, Andrews N, Gower C, et al. Effectiveness of Covid-19 vaccines against the B.1.617.2 (Delta) variant. N Engl J Med. 2021 Jul 21;doi:10.1056/NEJMoa2108891external icon.
謝辞:
本報告書の分析に用いたデータの収集にご協⼒いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に⼼より御礼申し上げます。
報告書作成:
京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻環境衛生学分野
国立感染症研究所 感染症疫学センター