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長崎市に停泊していたクルーズ船内で発生した新型コロナウイルス感染症の集団発生事例:最終報告


長崎市に停泊していたクルーズ船内で発生した新型コロナウイルス感染症の集団発生事例:最終報告

(掲載日 2020/8/11)
 

本稿では、長崎県長崎市で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のクラスター感染が確認されたイタリア籍のクルーズ船「コスタ・アトランチカ」の情報還元を行う。令和2年5月22日の中間報告の続報であり、初期の検査結果や船内の状況については、中間報告を参照されたい(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9622-covid19-20.html)。

コスタ・アトランチカは、令和2年1月29日に長崎港に入港し、2月20日からドックに入り、5月31日にフィリピンに向けて出港するまで停泊を続けた。搭乗者は乗員のみで、4月20日時点623人であった。その後、船内の医療班増援のため、4月26日に看護師1⼈、5月15日に医師1 ⼈と看護師2 ⼈の計4人が乗船し、船内で医療支援を行った(表、何れも外国籍)。

4月21日~5月31日迄に、計502人が、帰国(491人)或いは入院(11人(退院後帰船してから帰国した1人含む))のため下船し、出港時の乗員数は126人であった(表。乗船した医療従事者4人含む)。5月3日~31日に、4月下旬のスクリーニング検査陰性者を優先し、段階的に乗員を下船、帰国させた(帰国した乗員は、全員スクリーニング検査陰性、或いは帰国前検査陰性が確認された)。5月31日現在、退院後、帰船せずに直接帰国した4人を含めると、計495人が帰国した。

乗員の性別と年齢分布に於いては、出港時も大半は男性であったが、若年層が多く帰国した為、30代以下が457人(73%)から73人(58%)と減った。4月27日時点では、男性523人(84%)で、20~30代が454人(73%)と、若い成人男性が多かった(367人(59%)が20~30代男性。性別年齢の詳細は中間報告参照)。5月31日出港時は、男性が112人(89%)、20~30代が72人(57%)で、若い成人男性が減少していた(59人(47%)が20~30代男性)。

乗員の国籍分布に関しては、上位5カ国は出港時も同じであった。上位5カ国は、4月21日時点は、フィリピン(206人)、インド(104人)、インドネシア(84人)、中国(82人)、イタリア(40人)で、出港時は、フィリピン(36人)、イタリア(20人)、中国(17人)、インドネシア(15人)、インド(9人)であった。一方、乗員の国籍の数は、4月21日時点は36カ国、5月31日は19か国と大きく減少していた。

表. 4月21日~5月31日出港迄の乗下船の推移(人数)

 下船
(入院)
下船
(帰国)
乗船船内人数乗船の理由
4月21日000623 
4月22日100622 
4月26日001623外国籍の看護師1人乗船
4月27日200621 
4月28日100620 
4月29日0016214月27日に入院した患者が退院、帰船
5月2日100620 
5月3日0440576 
5月4日170568 
5月5日01300438 
5月6日0190419 
5月7日0170402 
5月8日050397 
5月9日100396 
5月10日020394 
5月13日0610333 
5月14日020331 
5月15日003334外国籍の医師1人看護師2人乗船
5月17日0110323 
5月18日040319 
5月19日010318 
5月20日020316 
5月21日0190297 
5月22日050292 
5月23日010291 
5月24日030288 
5月25日010287 
5月26日100286 
5月27日0270259 
5月28日1950163 
5月29日1180144 
5月30日030141 
5月31日1140126 

体調不良を理由とした下船に於いては、4月21日~5月31日迄に、計11人が病院に搬送された(表; 水中毒疑い1人と精神的不調2人含む。20代~60代の男性8人と女性3人)。肺炎と診断された患者は、6人であった。5人は軽快かつ陰性確認後、退院し帰国した(水中毒疑い1人、新型コロナウイルス感染症4人。水中毒疑いの患者は、退院後一時帰船)。5月31日現在、入院中の6人は、精神的不調2人、血痰2人、入院時に肺炎を認めたが改善している新型コロナウイルス感染症2人であった。死亡した乗員はいなかった。

また、入院は必要としなかったが(船内で健康観察と隔離)、5月2日にエッセンシャルクルー1人が発熱を認め、5月3日にLAMP検査で陽性が確認された。当患者の濃厚接触者6人を検査した結果、陽性者はいなかった。また、5月14日~22日の間に、症状を認めた乗員3人に検査が行われたが、何れも陰性であった。

この様な発症者を早期に探知し適切に対応する為、また、発症者の動向を継続的に監視する為には、系統的なサーベイランスシステムの整備が不可欠であった。船内で既に行われていた毎日の検温に加え、4月28日から、スマートホンアプリを利用して健康状態を自己報告するシステムを導入した(4月30日にWIFIアクセスが全乗員に可能になった)。これらのデータは、毎日監視、集計、還元され、状況把握・リスク評価、そして早期探知・対応の意思決定の材料となった。また、船医は、これらの情報と検査結果、診察の情報を包括的に検討し、帰国する乗員の適否を判断した。

検温によるデータでは、4月中旬から新規発熱者、有熱者(何れも37.5C以上)は増加傾向であったが、4月28日をピークに減少し、5月2日以降、一日当たりの有熱者数は1人以下で推移した。また、アプリによる症状の有無の監視に於いても、4月下旬以降、発熱以外の症状に関しても減少し、5月中旬以降、少数で推移していた(図)。4月28日~5月29日のアプリの入力割合は、開始の4月28日(57%)後は、最小値が74%で、約8割を安定して維持していた(中央値82%、四分位範囲80~86%)。乗員数は下船により減少していたが、船内の乗員数のうち何等かの症状を報告した人数の割合も減少傾向を認めた(図)。

 

図.  何らかの症状、熱、咳、倦怠感、呼吸困難をアプリで自己報告した人数と割合の推移:4月28日~5月29日  covid19 20 final fig1

船内のこの状況も踏まえ、4月下旬のスクリーニング検査陰性かつ無症状で経過した者を5月3日より帰国させた。さらに5月12日からは、帰国・出港に向けて、乗員全員に対して帰国前検査(PCR或いはLAMP)が実施された。その結果、4月下旬のスクリーニング検査陽性であった142人中105人(74%)が陰性であった(スクリーニング検査陽性であった残りの6人は、入院の為、既に下船していたので乗員の帰国前検査には含まれない)。スクリーニング、帰国前検査共に陽性の37人と、5月3日に陽性が確認されたエッセンシャルクルー1人は、出港迄に再検査され、全員陰性化が確認された。クルーズ船は、入港時の約2割の乗員126人を乗せて、5月31日にフィリピンに向けて出港した。

コスタ・アトランチカは、船内で感染が拡がっていた状況が4月下旬に判明したが、死亡例は発生せず、重症患者も少数で抑えられ、大半の乗員が帰国出来た。幸い、搭乗者の多くが健康な若い乗員であった為、重篤な患者発生は少数であったと考えられた。また、探知早期からの乗員の個室収容をはじめとする、経過中の船医らの対応、高感度で早期探知を可能にしたサーベイランス体制と、現地活動チームの迅速な対応が、適切な医療対応に繋がり、患者の重症化リスクを最小限にしたと考えた。また、スクリーニングの結果も考慮し、感染予防・管理に関する様々な対応と対策(中間報告参照)が、5月以降の感染拡大を抑えたと思われた。実際に、個室管理が整備されてから、発熱・有熱者は減少した。最後に、系統的に継続されたサーベイランスが、意思決定の為には不可欠であった。サーベイランスからの情報は、検査結果と併せて、船内に於ける日々の状況把握・リスク評価の材料となり、帰国と出港の根拠としても活用され、検査・サーベイランス整備の重要性が改めて示された。

 

参考文献
 
謝辞:検体採取等調査と対応に御協力いただきました医療機関、自衛隊、および行政機関の関係者、港湾で対応にあたるすべての関係者、コスタ・アトランチカ号の乗員の方々に深謝致します。
 
 
長崎県新型コロナウイルス感染症対策本部
長崎市保健所
クルーズ船現地活動チーム(長崎大学、国立感染症研究所、国立国際医療研究センター、厚生労働省DMAT事務局、香焼現地活動各救護班)

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