IDWR 2012年第20号＜速報＞コレラ 2011年

　速報

◆ コレラ 2011年（2012年2月17日現在）

　コレラは1～5日（通常1日以内）の潜伏期の後に、下痢や嘔吐で急激に発症する腸管感染症である。殆どの場合、腹痛や発熱はみられない。典型的症状は激しい水様性下痢（重症例では米のとぎ汁様）と脱水であるが、近年の報告症例では軽症であることが多い。しかし、胃腸の弱い人（胃切除者など胃酸の働きが低下している人）や高齢者、乳幼児では重症化して死亡することもあり、軽視できない疾患である。

　コレラは1999年4月施行の感染症法に基づく2類感染症として、疑似症患者、無症状病原体保有者を含む症例の届出が、診断した全ての医師に義務づけられた。2007年4月施行の法改正により、コレラは3類感染症に変更され、患者及び無症状病原体保有者が届出対象（疑似症患者は対象外）となった。また、WHOの報告基準では、コレラ毒素産生性のO1血清型コレラ菌およびO139血清型コレラ菌によるものと定義されており、わが国でも同じ定義を用いている。

　過去の年間報告数は1999年（4月～）39例、2000年58例、2001年50例、2002年51例、2003年24例、2004年86例、2005年56例、2006年45例、2007年13例、2008年45例、2009年16例、2010年11例で、2011年は12例であった（図1）。

図1. コレラの年別・感染地域別報告数（2000～2011年）

　2011年の12例は全例が患者（有症状者）であった。性別は男性7例、女性5例で、年齢中央値は34.5歳（20～61歳）であった。確定または推定として報告された感染地域は、国内が1例、国外が11例であった。死亡の報告はなかった。ただし、届出時点以降での死亡については十分反映されていない可能性があり、発生があった場合の追加・修正報告を自治体に依頼している。

　12例について報告された症状としては、下痢・軟便は全例にあり、そのうち、米のとぎ汁様の下痢は4例（33.3%）にみられ、他に嘔吐が4例（33.3%）、脱水が3例（25.0%）、体重減少が2例（16.7%）であった。チアノーゼ、頻脈、血圧低下、無尿、虚脱、筋痙攣、胃切除歴の報告はなかった（以上は届出様式に記載されていて選択された症状）。また、その他の症状として、2例に発熱、1例に腹痛、1例に食欲不振の自由記載があった。

　診断のための検査は、届出基準に従い、全例が便からの菌分離と毒素の確認がなされていた。毒素確認方法は、毒素産生の確認10例、PCRによる毒素遺伝子の確認2例であった。

　国内を感染地域とする1例は、50代男性であった（図2）。感染した都道府県（推定または確定として報告されたもの）は、神奈川県であった。発症月は9月で、届出内容や報告自治体への問い合わせの結果、感染原因・感染経路は不明で、散発例と考えられた（図3）。コレラ菌の型はO1エルトール稲葉型であった。

図2. コレラの感染地域別・性別・年齢群別報告数（2011年）	図3. コレラの感染地域別・発症月別報告数（2011年）	図4. コレラの感染国割合（2011年）

　国外を感染地域とする11例は、性別では男性6例、女性5例であり、年齢群別では20代5例、30代2例、40代1例、50代2例、60代1例で、年齢中央値は30歳（20～61歳）あった（図2）。発症月別にみると、8月が3例で最も多く、次いで7月、10月、12月が各2例、3月と5月が各1例であった（図3）。感染国別では、フィリピンが5例で最も多く、次いでインド4例、インドネシアとウズベキスタンが各1例であった（図4）。コレラ菌の型は、11例中10例がO1エルトール小川型であり、残りの1例はO1だが抗原型と生物型の検査未実施であった。

　報告数の増減は、流行の発生、流行地への渡航、集団感染の発生など様々な要因が関与すると考えられる。検疫法改正により2007年6月以降は原則的には検疫所で検便が実施されなくなったことも一要因として考慮する必要がある。検疫所からの報告は、2006年（4～12月）5例、2007年1例（5月に診断）であったが、2008年以降は報告がない〔届出医療施設名が国まで報告されるようになったのは2006年4月以降〕。

　予防策としてのワクチンは、コレラの高度流行地域へ出かける援助関係者などが接種の適応者と考えられ、一般の海外旅行者での必要性は通常高くはない。わが国には従来不活化注射ワクチンがあったが、現在は販売されていない。海外では経口ワクチンが販売されており、必要に応じて接種機関の輸入などにより、接種されている。

　コレラは途上国において未だくりかえし流行し、時に多くの命をうばっている疾患である。渡航に際しては、各種感染症の流行情報を把握し、コレラ流行地域へ渡航する場合には、生水、氷、生の魚介類、生野菜、カットフルーツなどを避けることが肝要であり、また、無理な旅行日程などによって体調をくずし、抵抗力を落とさないよう心がけることも大切である。