IDWR 2018年第37号<注目すべき感染症> 腸管出血性大腸菌感染症
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、Vero毒素(Vero toxin:VT または Shiga toxin:Stx)を産生、またはVT遺伝子を保有するEHECの感染によって起こり、主訴は腹痛、水様性下痢および血便である。EHEC感染に引き続いて発症することがある溶血性尿毒症症候群(HUS)は、死亡あるいは腎機能障害や神経学的障害などの後遺症を残す可能性のある重篤な疾患である。
2018年のEHEC感染症報告数は、診断週で第19週(2018年5月7~13日)から増加し始め、第23週(同6月4~10日)に週当たりの報告数が100例を超えた。第35週は264例が報告された。 本年第37週(同9月10~16日)までの累積報告数3,002例は、直近5年間(2013~2017年)の各年同週までの累積報告数と比較して、2014年に次ぐ報告数であった(2013年2,950例、2014年3,226例、2015年2,758例、2016年2,705例、2017年2,957例)。患者(有症状者)のみに限定した本年第37週までの累積報告数は2,035例であった(2013年1,963例、2014年2,305例、2015年1,878例、2016年1,709例、2017年2,038例:以上、各年同週まで)。第1~37週の累積報告数を都道府県別にみると、東京都(356例)が最も多く、次いで埼玉県(242例)、神奈川県(236例)、千葉県(174例)、大阪府(172例)の順であった。なお、推定感染地域が国外と報告された症例は70例(EHEC感染症累積報告数の2%)であり、大半がアジア地域だった。
集団発生(食中毒を含む)事例としては、第22週に埼玉県から報告された高齢者施設(O157 VT1・VT2)、第23週に千葉県の飲食店の弁当(O103 VT1)、第33週に静岡県の研修施設の食堂(O157 VT1・VT2)、第33週に東京都の飲食店(O157 VT1・VT2)、第37週に長野県の飲食店(O121 VT2)などがそれぞれ報告されている。その他、東京都(O121 VT2)、大阪府(O26 VT1)、茨城県(O26 VT1)の保育施設などを中心に、全国の複数の自治体から集団発生の報告があった。
性別では、男性が1,312例(44%)、女性が1,690例(56%)で、年齢中央値25歳(範囲0~98)であった〔男性:22歳(0~96)、女性:28歳(0~98)〕。年齢群別では0~9歳が747例(25%)、20~29歳が559例(19%)、10~19歳が398例(13%)、30~39歳が335例(11%)、40~49歳が253例(8%)の順であった。
EHEC感染症の重篤な合併症であるHUSの発症は、第37週までに累計52例〔うち、女性36例(69%)〕が報告された。届け出時点で患者全体に占めるHUS発症者の割合は、2.6%であった。直近5年間の同週までのHUSの累積報告数と届け出時点で患者全体に占めるHUS発症者の割合は2013年58例(3.0%)、2014年81例(3.5%)、2015年59例(3.1%)、2016年69例(4.0%)、2017年83例(4.1%)、であった。2018年第1~37週のHUSの年齢中央値は6歳(範囲1~79)であった〔男性:4歳(1~77)、女性:12歳(1~79)〕。年齢群別では0~9歳が31例で、HUS症例全体の60%を占めた。例年同様、女性と低年齢の小児で発症が多く報告されている。判明した血清群別ではO157が25例で、そのうち、O157 VT1・VT2が12例、O157 VT2が11例であった。EHEC感染症届出時点における脳症の発症は4例(全例でHUS発症)であった。
食肉の十分な加熱処理、食材・調理器具の十分な洗浄や手洗いの励行などを行うことにより、EHECによる食中毒の予防を徹底することが重要である。EHECは少量の菌数(10~100個程度)でも感染が成立し、特に、低年齢の小児はEHEC感染とその後のHUS発症のリスクが高い。低年齢の小児やお年寄りなど、抵抗力の弱い者は肉(レバーなどの内臓肉を含む)の生食を避け〔牛レバーや豚肉・豚の内臓(レバーを含む)を生食用として販売・提供することは禁止されている〕、十分に加熱してから喫食することが重要である。なお、EHECを死滅させるには、食べ物を単に温めるだけでは不十分であり、中心温度が75℃で1分間以上の加熱が必要である。ハンバーグなどの挽肉を使った食品を調理する際は、中心部まで十分に加熱することが重要である。さらに、焼く前の生肉などに使用する箸などの調理器具を使い分けることにも注意が必要である。
また、野菜が原因とされるEHECの感染例も報告されており、野菜の衛生管理にも十分な注意が必要である。家庭内での注意点として流水で十分に洗浄することが挙げられている。また、大量調理施設において野菜及び果物を加熱せずに供する場合には、食品製造用水(以下、流水)で十分洗浄し、必要に応じて次亜塩素酸ナトリウム等で殺菌した後、流水で十分すすぎ洗いを行うことなどが求められている。特に高齢者、若齢者及び抵抗力の弱い者を対象とした食事を提供する施設で、加熱せずに供する場合については、殺菌を行うこととしている。
さらに、調理後の食品は速やかに喫食する、保管する場合は長時間室温放置せずに10℃以下で保存する等の食品の衛生的な取り扱いを心がけることが予防の観点で重要である。
毎年、保育施設においてはEHECの集団発生が多くみられており、日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、簡易プールで集団発生が起こることがあり、衛生管理に注意を払う必要がある。下痢など症状のある子供は、プールの利用を控えさせるとともに、特に、低年齢児の簡易ミニプールには十分注意し、塩素消毒が必要である。さらに、過去には動物とのふれあい体験での感染と推定される事例も報告されており、動物との接触後の十分な手洗いや消毒が必要である。
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の感染症発生動向調査に関する背景・詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●感染症発生動向調査週報(IDWR)
国立感染症研究所 感染症疫学センター |