IDWR 2012年第20号<注目すべき感染症>A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 LINEで送るシェアツイート 注意:PDF版よりピックアップして掲載しています。 注目すべき感染症◆ A群溶血性連鎖球菌咽頭炎 A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)はその侵入部位や組織によって多彩な症状を引き起こす。また、時に稀ながら発症機序がまだ不明である劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因となることがあるが、本項では、通常主に小児の間で発生する疾患であり、感染症法によって5類感染症定点把握疾患と定められているA群溶血性レンサ球菌咽頭炎について述べる。 A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、本邦を含めた温帯地域を中心に広く世界的に分布している感染症である。潜伏期間は2~5日であり、突然の発熱、咽頭痛、全身倦怠感によって発症し、しばしば嘔吐を伴う。通常発熱は3~5日以内に下がり、主症状は1週間以内に消失する予後良好の疾患であるが、菌が産生する毒素に免疫のない場合は猩紅熱に発展する場合がある。治療にはペニシリン系抗菌薬が第1選択薬とされているが、ペニシリンアレルギーがある場合はマクロライド系やセフェム系の抗菌薬が投与される。いずれの薬剤も少なくとも10日間は確実に投与することが必要である。 感染経路はヒトからヒトへの飛沫感染や接触感染が主であるが、食品を介する経口感染もあるといわれている。通常は患者との接触を介して伝播するため、ヒトとヒトとの接触の機会が増加するときに発生しやすく、家庭での兄弟間や、学校、幼稚園、保育園などの小児の集団生活施設内での感染も多い。感染性は急性期に最も強く、その後徐々に減弱する。無症候性病原体保有者も存在するが、症状のない保菌者からの感染は稀であると考えられている。 予防としては、患者との濃厚接触を避けることが最も重要であり、うがい、手洗いなどの一般的な予防法も励行すべきである。マスクを用いた咳エチケット(咳やくしゃみを発する者が周囲への感染予防のためにマスクを着用すること)も効果が期待できる。 全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づく感染症発生動向調査によると、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の発生報告数は例年学校、幼稚園等の春期休暇の終了後に増加し、ゴールデンウイーク期間中に一旦減少がみられるものの、その後再び増加し、第22週か第23週に春期~夏期期間中の流行のピークを迎える場合が多い。2012年第20週の定点当たり報告数は2週連続で増加して2.56(報告数8,073)となり、過去10年間の同時期の報告数では2008年に次ぐ高い値である(図1)。都道府県別では富山県(5.21)、大分県(4.94)、宮崎県(4.14)、福井県(4.09)、北海道(4.01)、愛媛県(3.92)、山形県(3.83)の順となっている。38都道府県で前週より増加がみられた(図2)。累積報告数の年齢群別割合をみると、4~5歳、6~7歳、2~3歳、8~9歳の順に高く、2~9歳が発生の中心であり、9歳以下で全報告数の85%前後を占めているのは例年と同様である(図3)。図1. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の年別・週別発生状況(2002~2012年第20週)図2. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の都道府県別定点当たり報告数の推移(2012年第18~20週)図3. A群溶血性レンサ球菌咽頭炎年別・年齢群別割合(1999年~2012年第20週) A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の患者発生数は更に増加し、間もなく春期から夏期の期間中での流行のピークを迎えるものと予想される。今しばらくはA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の発生動向に対する注意が必要である。