 注目すべき感染症 ◆ 2014年のA型肝炎の増加 (2014年2月21日現在)
2014年のA型肝炎の報告数は、第3週以降急増し、例年を超える報告数で推移している。2月21日までの報告数は44例で、過去2年の同時期と比較して約2倍の報告数であった(図1)。報告は18都府県で、多い順に宮城県が11例、大阪府が6例、埼玉県が4例、東京都が4例で3例以下の報告数が14府県であった。44例のうち発症日の明らかな37例について流行曲線を図2に示した。2月21日時点で1月下旬に報告数のピークがみられた。これは2011年の千葉市での集団発生事例以来のピークである。
 |  |  | 図1. A型肝炎の週別報告数(2012年1月2日~2014年2月21日) | 図2. A型肝炎の感染地域別・発症日別報告数の流行曲線(2013年12月20日~2014年2月11日) | 表. A型肝炎報告例の属性・感染経路・診断(2014年2月21日現在) |
2014年に報告された44例の基本情報を表に示した。年齢中央値は46.5歳(1~81歳)で、年齢階級別では50~69歳が18例(41%)で最も多く、次いで20~39歳が14例(32%)であった。性別は男性が26例(59%)、女性が18例(41%)で、国内が推定または確定感染地域として報告された症例が31例(70%)であった。国外が推定感染地域として報告された症例は12例(カンボジア2例、タイ2例、パキスタン2例、フィリピン2例、インドネシア1例、エチオピア1例、韓国1例、モロッコ1例)であった。1例は感染地域不明であった。合併症、劇症型肝炎および死亡例の報告は2月21日時点ではない。感染経路は、経口感染が推定された40例(91%)のうち、15例(38%)で生カキ喫食の記載があった。診断方法は、44例すべてが血清IgM抗体検査によるもので、このうち2例はPCR法によるウイルス検出も行われた。遺伝子型別は2月21日時点で12例に行われ、IAが5例、IIIAが7例であった。IIIAの7例はすべて宮城県内の症例であった。
A型肝炎はA型肝炎ウイルス(HAV)による疾患で、一過性の急性肝炎をきたす。2~7週間の潜伏期間ののち、発熱、全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、黄疸などの症状を起こす。特異的治療はなく、治療法は安静や対症療法が中心であるが、多くは1~2カ月の経過で回復し慢性化しない。まれに劇症化(0.1%)して死亡することがある。治癒後には強い免疫が残される。小児では不顕性感染が80~95%と多いため、時に無症状のまま、集団発生の感染源となることもある。一方、成人では顕性感染が75~90%と多い。通常、年齢が上がるに従い、重症度も上昇し、A型肝炎の症例全体の致死率は0.1%以下であるが、50歳以上では2.7%に達する。HAVは糞便中に排泄され糞口感染によって伝播する。国内の感染経路としては、魚介類の生食などによる経口感染や、性的接触などが報告されている。
A型肝炎は潜伏期が長いことから、聞き取りによる食材などの感染源についての調査は非常に困難である。広域集団発生の可能性も含めて感染源の共通性を検討するには、ウイルス学的検査による分子疫学的手法を用いた方法による確認が極めて重要である。過去の我が国における事例は、海産物の生食や輸入貝による集団発生が報告されており、これらの原因調査は分子疫学検査が重要な役割を果たした(参考情報1)。また、2009年からオーストラリアやフランス、オランダなどではセミドライトマトに関連したA型肝炎の集団発生があり、2012年から2013年にかけては、北欧で発生した冷凍イチゴに関連するA型肝炎の集団発生事例が報告され、それぞれ分子疫学検査によって症例間の関連性が明らかとなった(参考情報2)。我が国でA型肝炎の診断は、ほとんどの場合血清IgM抗体検査が行われている。我が国のA型肝炎の遺伝子型はIAが主流であるが、2010年に複数の自治体でIIIAが報告されている(参考情報3)。また、海外では2009年にIIIAのアウトブレイクが報告されている(参考情報2)。2014年、一部自治体では遺伝子型別が積極的疫学調査によって行われている。一部の地域でのみ行われている遺伝子検査は、全国的には自治体あたりの患者数が少ないためあまり実施されていない状況である。なお、地方衛生研究所より国立感染症研究所ウイルス第二部へウイルス解析の依頼とともに検体送付があれば遺伝子検査の実施は可能である。
医療機関においては、問診などによりできる限り具体的な情報を収集し、その後の保健所等の調査に繋げることが望まれる。便や血清中にウイルスが検出される期間は、黄疸発症、または肝機能を表す酵素(ALT、AST)の値のピーク時から数日間である。ウイルスの検出は発症早期の短期間に限られているので、A型肝炎が地域で流行している場合や、広域集団発生が疑われる事例においては、その対策に資するべく検体採取に適した時期に積極的な検体確保・検査の実施が重要である。保健所、地方衛生研究所等においては、医療機関と連携して個々の事例の原因究明にあたるとともに、食材・食品の広域流通という観点も併せ、事例調査と対策における自治体間の連携が、対策上重要と考えられる。 国立感染症研究所 感染症疫学センター 金山敦宏 八幡裕一郎 中島一敏 山岸拓也 松井珠乃 高橋琢理 有馬雄三 木下一美 齊藤剛仁 大石和徳 砂川富正 ウイルス第二部 石井孝司 脇田隆字
【参考情報1】 ●病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルスによる家族内での集団感染事例-川崎市」 http://www.niid.go.jp/niid/ja/2014-02-19-09-27-24/973-disease-based/a/hepatitis/hepatitis-a/idsc/iasrin/3983-pr4049.html ●病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルスによる食中毒事例-千葉市」 https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/373/pr3733.html ●病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルスによる食中毒事例-新潟市・新潟県」 https://idsc.niid.go.jp/iasr/27/317/pr3171.html ●病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルス(HAV)による食中毒2事例について-東京都」 https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/273/dj2731.html ●病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎患者(寿司店主)が感染源と思われるA型肝炎ウイルスによる食中毒-岐阜県」 https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/268/kj2683.html ●病原微生物検出情報(IASR)「大アサリの喫食を原因とするノーウォーク様ウイルスとA型肝炎ウイルスによる食中毒事例-浜松市」 https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/267/kj2672.html
【参考情報2】 ●Nordic Outbreak Investigation Team. Joint Analysis by the Nordic Countries of a hepatitis A outbreak, October 2012 to June 2013: Frozen Strawberries Suspected. Eurosurveillance, Volume 18, Issue 27, 04 July 2013 http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20520 ●Lee H, Jeong H, Yun H et al. Genetic Analysis of Hepatitis A Virus Strains That Induced Epidemics in Korea during 2007-2009. J. Clin. Microbiol. 50(4): 1252-1257, 2012 http://jcm.asm.org/content/50/4/1252.full ●Health Protection Agency. Hepatitis A outbreak in France. Health Protection Report Vol 4 No.10-12 March 2010 http://www.hpa.org.uk/hpr/archives/2010/hpr1010.pdf ●Petrignani M, Verhoef L, van Hunen R et al. A possible foodborne outbreak of hepatitis A in the Netherlands, January-Feburary 2010. Eurosurveillance, Volume 15, Issue 11, 18 March 2010 http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19512
【参考情報3】 ●病原微生物検出情報(IASR)特集:A型肝炎2010年9月現在 https://idsc.niid.go.jp/iasr/31/368/tpc368-j.html ●病原微生物検出情報(IASR)特集:A型肝炎・E型肝炎2002年9月現在 https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/273/tpc273-j.html ●病原微生物検出情報(IASR)特集:急性ウイルス性肝炎1999.4~12 https://idsc.niid.go.jp/iasr/21/242/tpc242-j.html ●注目すべき感染症:A型肝炎2010年第1~13週 感染症週報2010年第13週:第12巻第13号 https://idsc.niid.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2010/idwr2010-13.pdf ●速報:A型肝炎2006~2008年 感染症週報2009年第12週:第11巻第12号 https://idsc.niid.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2009/idwr2009-12.pdf ●速報:A型肝炎2005年 感染症週報2006年第20週:第8巻第20号 https://idsc.niid.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2006/idwr2006-20.pdf ●速報:A型肝炎2004年 感染症週報2005年第6週:第7巻第6号 https://idsc.niid.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2005/idwr2005-06.pdf ●感染症の話:A型肝炎 http://www.niid.go.jp/niid/ja/encycropedia/392-encyclopedia/320-hepatitis-a-intro.html |