 注目すべき感染症
◆ A型肝炎(2014年3月13日現在)
2014年のA型肝炎の報告数は、第3週以降急増している(IDWR感染症週報2014年第7号参照)。3月13日までは177例で、過去3年のそれぞれの年間報告数(2011年176例、2012年157例、2013年128例)を超えていた(図1)。報告は28都府県から行われ、10例以上の集積は鹿児島県(21例)、大阪府(20例)、福岡県(20例)、宮城県(15例)、広島県(14例)、宮崎県(10例)で認められた。直近(2月17日~3月13日)の都道府県別報告数の分布(図2)から、流行は東北から西日本に移っている。なお、図1および図2は週別の表示であり、第11週分については3月13日現在の途中集計である。
 |  |  | 図1. A型肝炎の週別報告数(2012年1月2日~2014年3月13日) | 図2. A型肝炎の都道府県別報告数の週別分布(2014年2月17日~3月13日まで) | 表. A型肝炎報告例の属性・感染経路・診断(2014年3月13日現在) |
3月13日までに報告された2014年の177例の基本情報を表に示した。年齢中央値は52歳(範囲:0~93歳)で、年齢階級別では60~69歳が47例(27%)と最も多く、次いで50~59歳が38例(21%)であった。性別は男性が99例(56%)、女性が78例(44%)で、国内が推定または確定感染地域として報告された症例が163例(92%)であった。国外が推定感染地域として報告された症例は13例(カンボジア、パキスタン、フィリピン各2例、インドネシア、エチオピア、韓国、カンボジアまたはタイ、タイ、米国、モロッコ各1例)であった。1例は感染地域不明であった。劇症肝炎の報告が1例あり、死亡例の報告はなかった。感染経路は、経口感染が推定された149例(84%)のうち、24例(16%)で生カキ、2例(1%)で生ホタテ、8例(5%)で刺身を喫食したとの記載があった。診断方法は、177例中175例(99%)が血清IgM抗体検査によるもので、2例(1%)はPCR法によるウイルス検出、19例(11%)では血清IgM抗体検査およびPCR法によるウイルス検出が行われた。遺伝子型別は、感染症発生動向調査(3月13日現在)および病原微生物検出情報(3月14日現在)の情報を合わせると38例に行われていることが判明した。内訳はIAが21例、IIIAが15例、IBが2例であった。IAは大阪府9例、福岡県5例、宮城県、和歌山県各2例、埼玉県、新潟県、山口県各1例、IIIAは宮城県9例、山形県3例、東京都、大阪府、福岡県各1例、IBは東京都2例から報告された。
A型肝炎はA型肝炎ウイルス(HAV)による疾患で、一過性の急性肝炎をきたす。2~7週間の潜伏期間ののち、発熱、全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐、黄疸などの症状を起こす。特異的治療はなく、治療法は安静や対症療法が中心であるが、多くは1~2カ月の経過で回復し慢性化しない。まれに劇症化(0.1%)して死亡することがある。治癒後には強い免疫が残される。小児では不顕性感染が80~95%と多いため、時に無症状のまま、集団発生の感染源となることもある。一方、成人では顕性感染が75~90%と多い。通常、年齢が上がるに従い、重症度も上昇し、A型肝炎の症例全体の致死率は0.1%以下であるが、50歳以上では2.7%に達する。2003年に実施された血清疫学調査の抗A型肝炎ウイルス抗体保有率から推測すると、現在の55歳未満のほとんど全員が免疫を持っていないと考えられる。したがって、今後急速な高齢化が予測されるわが国では、A型肝炎の症例数および重症例の増加が懸念される(参考情報1)。HAVは糞便中に排泄され糞口感染によって伝播する。国内の感染経路としては、魚介類の生食などによる経口感染や、性的接触などが報告されている。 A型肝炎は潜伏期が長いことから、聞き取りによる食材などの感染源についての調査は非常に困難である。2014年に入ってからの例年を超える報告数の増加に対して、現時点で広域に分布する患者発生を共通の感染源として説明しうる情報は収集出来ていないが、広域散発の集団発生の可能性も含めて感染源の共通性を検討する必要がある。我が国でA型肝炎の診断は、ほとんどの場合血清IgM抗体検査が行われているが、感染源の共通性の検討には、ウイルス学的検査による分子疫学的手法を用いた方法による確認が非常に有用である(参考情報1、2)。我が国のA型肝炎の遺伝子型はIAが主流であるが、2010年に複数の自治体でIIIAが報告された(参考情報3)。また、海外でも2009年にIIIAのアウトブレイクが報告されている(参考情報2)。2014年、一部自治体で積極的疫学調査として行われている遺伝子検査は、全国的には自治体あたりの患者数が少ないためあまり実施されていない状況である。なお、地方衛生研究所より国立感染症研究所ウイルス第二部へウイルス解析の依頼とともに検体送付があれば遺伝子検査の実施は可能である。
医療機関においては、問診などによりできる限り具体的な情報を収集し、その後の保健所等の調査に繋げることが望まれる。保健所、地方衛生研究所等においては、医療機関と連携して個々の事例の原因究明にあたるとともに、食材・食品の広域流通という観点も併せ、ウイルス学的検査の実施を含めた事例調査と対策における広域の連携が、対策上重要であると考えられる。
国立感染症研究所 感染症疫学センター 金山敦宏 八幡裕一郎 中島一敏 山岸拓也 松井珠乃 高橋琢理 有馬雄三 木下一美 齊藤剛仁 大石和徳 砂川富正 ウイルス第二部 石井孝司 脇田隆字 【参考情報1】 ●病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルスによる家族内での集団感染事例-川崎市」 http://www.niid.go.jp/niid/ja/2014-02-19-09-27-24/973-disease-based/a/hepatitis/hepatitis-a/idsc/iasrin/3983-pr4049.html ●病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルスによる食中毒事例-千葉市」 https://idsc.niid.go.jp/iasr/32/373/pr3733.html ●病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルスによる食中毒事例-新潟市・新潟県」 https://idsc.niid.go.jp/iasr/27/317/pr3171.html ●病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎ウイルス(HAV)による食中毒2事例について-東京都」 https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/273/dj2731.html ●病原微生物検出情報(IASR)「A型肝炎患者(寿司店主)が感染源と思われるA型肝炎ウイルスによる食中毒-岐阜県」 https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/268/kj2683.html ●病原微生物検出情報(IASR)「大アサリの喫食を原因とするノーウォーク様ウイルスとA型肝炎ウイルスによる食中毒事例-浜松市」 https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/267/kj2672.html ●中島一敏 A型肝炎とA型肝炎ワクチン. 臨床とウイルス38(5): 415-420, 2010. ●Kiyohara T et al. Shifting Seroepidemiology of Hepatitis A in Japan,1973-2003. Microbiol.Immunol., 51(2), 185-191, 2007.
【参考情報2】 ●Nordic Outbreak Investigation Team. Joint Analysis by the Nordic Countries of a hepatitis A outbreak, October 2012 to June 2013: Frozen Strawberries Suspected. Eurosurveillance, Volume 18, Issue 27, 04 July 2013 http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20520 ●Lee H, Jeong H, Yun H et al. Genetic Analysis of Hepatitis A Virus Strains That Induced Epidemics in Korea during 2007-2009. J. Clin. Microbiol. 50(4): 1252-1257, 2012 http://jcm.asm.org/content/50/4/1252.full ●Health Protection Agency. Hepatitis A outbreak in France. Health Protection Report Vol 4 No.10-12 March 2010 http://www.hpa.org.uk/hpr/archives/2010/hpr1010.pdf ●Petrignani M, Verhoef L, van Hunen R et al. A possible foodborne outbreak of hepatitis A in the Netherlands, January-Feburary 2010. Eurosurveillance, Volume 15, Issue 11, 18 March 2010 http://www.eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=19512
【参考情報3】 ●病原微生物検出情報(IASR)特集:A型肝炎2010年9月現在 https://idsc.niid.go.jp/iasr/31/368/tpc368-j.html ●病原微生物検出情報(IASR)特集:A型肝炎・E型肝炎2002年9月現在 https://idsc.niid.go.jp/iasr/23/273/tpc273-j.html ●病原微生物検出情報(IASR)特集:急性ウイルス性肝炎1999.4~12 https://idsc.niid.go.jp/iasr/21/242/tpc242-j.html ●注目すべき感染症:2014年のA型肝炎の増加 感染症週報2014年第7週:第16巻第7号 https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/IDWR2014/idwr2014-07.pdf ●注目すべき感染症:A型肝炎2010年第1~13週 感染症週報2010年第13週:第12巻第13号 https://idsc.niid.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2010/idwr2010-13.pdf ●速報:A型肝炎2006~2008年 感染症週報2009年第12週:第11巻第12号 https://idsc.niid.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2009/idwr2009-12.pdf ●速報:A型肝炎2005年 感染症週報2006年第20週:第8巻第20号 https://idsc.niid.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2006/idwr2006-20.pdf ●速報:A型肝炎2004年 感染症週報2005年第6週:第7巻第6号 https://idsc.niid.go.jp/idwr/kanja/idwr/idwr2005/idwr2005-06.pdf ●感染症の話:A型肝炎 http://www.niid.go.jp/niid/ja/encycropedia/392-encyclopedia/320-hepatitis-a-intro.html
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