ロタウイルス胃腸炎サーベイランス ~エビデンスに基づいたワクチンの導入と評価を目指して~
(IASR Vol. 35 p. 71-73: 2014年3月号)
はじめに
ロタウイルスは乳幼児の重症急性胃腸炎の主要な原因であり、世界的にワクチンを用いて重症化、合併症予防を行う取り組みがなされており、すでに53カ国でロタウイルスワクチンが定期接種として導入されている。今後ロタウイルスワクチンを国内で活用していくうえで、ワクチン導入前のわが国におけるロタウイルス胃腸炎の疾病負荷(ベースライン)を把握しておくことは、ワクチン効果の評価等を行う上で重要である。我々は2007年以降ロタウイルス胃腸炎の入院例、外来受診例の状況を把握するためのサーベイランスを実施している。
方 法
以下の方法で、入院例、外来例に分けてサーベイランスを実施した。なお、入院例、外来例ともに生後14日以上5歳未満の児で、下痢(受診前24時間以内に3回以上の便)、または嘔吐(受診前24時間以内に1回以上)を認め、医師が急性胃腸炎と診断した症例のみを対象としている。
i) 入院例
三重県内の3市(津市、伊勢市、松阪市-前向き調査のみ)における5歳未満小児の急性下痢症入院例を後ろ向き(2003~2007年)と前向きの観察研究として調査した。なお、前向き調査は現在も同地域で継続中であるが、本稿には2007年11月1日~2010年10月31日までの結果を示した。後ろ向き調査は入院例の性別、年齢、入院月別にロタウイルス検査の実施の有無を調べ、それぞれのグループの検査陽性率を検査未実施群に適応してロタウイルス胃腸炎入院例を推測した1)。前向き調査は急性胃腸炎入院例に対し、便サンプルを採取しロタウイルス迅速検査を実施するとともに、陽性例についてはPCR法にてロタウイルスの遺伝子型(GタイプおよびPタイプ)を決定した2)。
ii)外来例
三重県津市における5歳未満小児の急性下痢症の前向き観察研究であり、観察期間は2011年1年間で実施した。三重県津市内で小児科を標榜する医療機関から急性胃腸炎と診断した患者の性別、月齢、受診月情報を収集し(津市周辺の小児科標榜施設からは津市在住の患者が受診した場合報告)、さらに、津市内の定点医療機関では、急性胃腸炎と診断された患者に関して可能な限りロタウイルス迅速検査を実施、性別、年齢、入院月別に得られた検査陽性率を検査未実施群に適応し、ロタウイルス胃腸炎患者数を推測した。なお、定点医療機関(三重県津市、岡山県倉敷市、千葉県いすみ市)では現在も便サンプル採取を継続している。
iii) 遺伝子型調査
外来例、入院例を問わず、本サーベイランス参加医療機関でロタウイルス陽性便サンプルを採取できた場合、遺伝子型を決定した。具体的には便サンプルよりRNAを抽出し、すべてのGタイプ、あるいはPタイプに共通のプライマーを使用して逆転写反応を用いた1st PCRを行い、続いて各遺伝子型に特異的なプライマーを用いた2nd PCRを行い、生成物をアガロースゲル電気泳動にて泳動し、増幅長を確認することで遺伝子型を判定した。
結 果
i) 入院症例
国立病院機構三重病院の例を用いて後ろ向き調査の結果を示す(図1)。急性胃腸炎入院患者のうち、おおよそ75 %が冬季(12月~翌年5月)に入院していた。このうちほぼ3/4の症例に対してロタウイルス迅速診断キットでのロタウイルス感染の有無が検査されており、55%が陽性であった。これらの結果を、同時期に入院し、検査を受けていない症例に適応し、オフシーズンも同様の方法を用いることで実際の患者数を推計した。この結果から、5歳未満児のロタウイルス胃腸炎入院例は1,000人当たり3.8人(津市)、4.9人(伊勢市)と推測された。松阪市も加えた前向き調査でも同様の方法を用い、各市における罹患率を求めた(表)。
ii)外来症例
入院例と同じ手法を用いて定点医療機関の検査結果をもとに外来でのロタウイルス胃腸炎患者数の把握を試みた。ロタウイルス胃腸炎外来受診例は1歳に最も多く、5歳未満の人口に基づいた受診率は134.8/1,000 人/年であった。従って入院例の結果と合わせると、三重県津市のロタウイルス胃腸炎入院率は発症者の約4%と考えられた。
iii) 遺伝子型調査
それぞれの地域から集められたロタウイルス陽性例の便サンプルを用いたPCR法による遺伝子型の分布状況は、年次、地域によって異なるものであった。前向き調査開始時(2007年)はG3タイプが優位であったが、地域によっては次第にG1タイプが優位となっていった。2011年シーズンの遺伝子型の分布状況を図2に示した。
考 察
本サーベイランスにより、ロタウイルスワクチン導入前のわが国のロタウイルス胃腸炎の疾病負荷が示された。入院例の結果は、ロタウイルスワクチンをすでに導入している先進国のワクチン導入前の入院率と大差はなかった(アメリカ2.7、イギリス5.2/1,000人/年)。これらのサーベイランスを継続し、ワクチン導入後の結果と比較することで、ワクチンの効果評価を実施できる。また、本サーベイランスにより、国内の遺伝子型の分布が時間、地域で異なることが示されたため、ワクチン導入後の遺伝子型変化のモニタリングは、接種率も含め、それぞれの地域でサーベイランスを実施する必要性を示すデータとなった。さらに、入院、外来例のエビデンスが出そろったことで、ワクチンのcost effective analysisの実施も可能となるため、ワクチン定期接種化の議論にも参考となると考えられる。
謝辞:本調査にご協力いただいた医療機関の皆様に深謝いたします。
参考文献
1)Kamiya H, et al., J Infect Dis 200(Suppl 1): S140-146, 2009
2)Kamiya H, et al., Jpn J Infect Dis 64(6):482-487, 2011
国立感染症研究所感染症疫学センター 神谷 元 河野有希 伊東宏明
国立病院機構三重病院 庵原俊昭 神谷 齊 浅田和豊 菅 秀 木下麻衣子 藤澤隆夫 長尾みづほ 根来麻奈美 谷口清洲
川崎医科大学小児科 中野貴司 田中孝明
藤田保健衛生大学ウイルス・寄生虫学講座 油井晶子 谷口孝喜
うめもとこどもクリニック 梅本正和
外房こどもクリニック 黒木春郎
東京医科歯科大学 Francis Dennis
山田赤十字病院 井上正和 東川正宗 伊藤美津江
松阪中央総合病院 神谷敏也
国立病院機構三重中央医療センター 井戸正流 田中滋己