2014年8~9月にかけて沖縄本島北部訓練場で発生した米軍海兵隊員におけるレプトスピラ症のアウトブレイク

2014年8~9月にかけて沖縄本島北部訓練場で発生した米軍海兵隊員におけるレプトスピラ症のアウトブレイク
(IASR Vol. 37 p. 106-107: 2016年6月号)
2014年8~9月にかけて, 沖縄本島内の北部訓練場にあるジャングル戦闘訓練センター(Jungle Warfare Training Center: JWTC)において, 2つの異なる演習期間のグループ(Group 1, Group 2)でレプトスピラ症のアウトブレイクが発生した。このアウトブレイクでは, 計239人の米国海兵隊員が曝露された。本稿では, 本事例に関する疫学的および細菌学的な概略を提示することを目的とし, 原則的に公開されている情報および沖縄県衛生環境研究所において行われた微生物学的検査について紹介する。
概 要
Group 1: 2014年8月上旬に海兵隊員Group 1(人数の内訳不明)が水耐久訓練(water endurance course)に取り組んだ。このうち22%の隊員がレプトスピラ症と考えられる症状を発症したことが後方視的に分かっている。Group 1のうち1人は入院していた。症例は, 北部訓練場にあるJWTCにおいて水耐久訓練を受け, レプトスピラ症に合致する臨床症状(発熱, 頭痛, 悪寒, 筋肉痛, 結膜充血等)を呈した者であり, 一部検査診断がなされた。検査についてはペア血清を用いた顕微鏡下凝集試験(MAT)(=血清学的診断)が米国内検査機関で実施された。本稿では, 便宜上, 症例を臨床診断例, 検査診断例に分類する(以下, Group 2に同じ)。
Group 2: 2014年8月下旬に, 海兵隊員Group 2(人数の内訳不明)がGroup 1と同様に水耐久訓練に取り組み, 42%の隊員が中等度から重度のレプトスピラ症の症状を発症した。うち, 44例が入院した。この訓練で, 両グループの計90人以上が発症した。
微生物学的検査の状況
沖縄県衛生環境研究所では, 海兵隊からの依頼を受け, 上記のGroup 2からの2例に加えて, 11月25日に入院した1例(レジャーで北部の滝を訪問して発症)の計3例について, 病原体検査に関する協力を行った。Group 2の2例について, 急性期および回復期の血清を用いて抗体検査を実施した(急性期の血液あるいは尿は入手できなかったため, これらの検体から培養およびPCR検査ができなかった)。いずれもペア血清において有意な抗体価上昇が認められた。推定感染血清群は, 1例はAutumnalis, もう1例はAutumnalisとIcterohaemorrhagiaeで同程度の抗体価上昇が認められたため, 判定不能であった。
11月25日に入院した1例については, 急性期の血液および尿のPCR検査を実施したところ, いずれも陽性であったが, 分離培養はいずれも陰性であった。血清診断においては有意な抗体価上昇が認められ, 推定感染血清群はAutumnalisであった。
考 察
沖縄本島北部訓練場において野外演習に参加した米国籍の若い海兵隊員によるレプトスピラ症の集団発生が経験された。曝露した239人全員について, 最も頻度の高かった症状は, 発熱, 頭痛, 嘔吐・嘔気, 悪寒, 発汗, 筋肉痛, 腹痛, 褐色尿であった。検査所見で頻度が高かった結果は, 一過性蛋白尿, 中等度血小板減少症, 肝機能異常であった。腎機能異常を示唆する所見はほとんどみられなかった。入院についてはGroup 2で多く観察された。胆嚢摘出術については, 強い腹痛を伴う急性胆嚢炎を呈した症例に対して行われたもので, 過去にもレプトスピラ症患者における同様な報告は散見される。両グループにおける発症日の情報については不明であるが, 平均9.6日後の発症であるとの情報があり, レプトスピラ症の潜伏期間が一般的に5~14日であることと合致することや, 沖縄本島北部はレプトスピラの侵淫地であることを考えると, JWTCにおける水耐久訓練においてレプトスピラに曝露した可能性が非常に高いと考えられた。
両グループを総合した検査診断率は,臨床症状がレプトスピラ症に合致するとされた者の33%との情報があるが, 詳細は不明である。米国への検体搬送に時間がかかることもあり, 沖縄県衛生環境研究所への協力依頼がなされ, 11月の診断例を含めた3例について検査が実施されたところ, いずれも血清学的検査において陽性と診断された。うち2例は血清群Autumnalisの感染が推定されているが, 本血清群は過去の沖縄本島北部河川での感染事例において多く検出されており, 8~9月のアウトブレイクも土着の株による可能性が示唆された。
リスク要因として考えられるのは, ため池に完全にもぐり水を飲み込んだことである。兵士の中には水に入らなかった者もおり, そのような兵士は未発症であったとの情報がある。皮膚に潰瘍があった者はいなかった。兵士のユニフォームはペルメトリン(ピレスロイド系殺虫剤の一種)加工されており, 曝露する皮膚はDEETを塗布してあった。Group 1とGroup 2については重症度が異なる可能性があるが, その理由は必ずしも明らかではなく, 報告者によるバイアスの可能性も否定できない。
過去の沖縄本島北部におけるレプトスピラ症多発時の気候的特徴として, 曝露疑い時期の降水量が通常より多かったことが記述されている。ただし, JWTCでは水耐久訓練はほぼ毎月行われているということで, 今回これだけの大きなアウトブレイクに至った特異的かつ直接的な理由を降水量のみで説明することは困難かもしれない。ため池には自然の水(川など)は流入しない構造となっていたとのことである。他にGroup 2において重症度を高めた因子の可能性としては, 曝露された菌量がより多かったこと, より病原性を増悪させる不明の因子の影響があったこと, 予防内服が十分に徹底されていなかったこと, などが考えられるが不明である。
米軍では1987年にもアウトブレイクがあったため, ジャングル戦闘訓練終了1週間前に200 mg?のドキシサイクリンを1回, 訓練終了日かその前日に200 mgを1回, その1週間後にさらに200 mgを1回の, 計3回を服用することにしているが, 今回, Group 2では曝露後の服用が徹底されていなかった可能性があるとの情報がある。Group 2のアウトブレイクは, 指示された曝露後予防薬のレジメンを守ることが必須であることを知らしめた。
今後の予防対策として, 米軍人・軍属に対しては, 沖縄本島での公私における淡水での活動の際には, 曝露前のドキシサイクリンの予防内服をDOT法で行うように指示が出され, 淡水でのレジャーの際にも予防内服が強く推奨されている。また, 犬の罹患に対する懸念もあることから, 現在野外訓練において犬は同行させていない。今後の地域的なリスク評価の重要性が示唆されている。
参考文献
- U.S. Naval Hospital Okinawa Public Affairs, Several cases of leptospirosis illness reported in Okinawa, September 11, 2014 http://www.med.navy.mil/sites/nhoki/Documents/14091101%20-%20Leptospirosis.pdf
- PRO/AH/EDR>Leptospirosis-Japan:(ON)military, 2014-11-12 http://www.promedmail.org/(同URLに他2報のコメントあり)
- Guarner J, et al., Hum Pathol 32(7): 750-752, 2001