医療施設の無症状調理従事者から分離されたCitrobacter属菌がパラチフスA菌と誤同定された事例

医療施設の無症状調理従事者から分離されたCitrobacter属菌がパラチフスA菌と誤同定された事例
(IASR Vol. 37 p. 112-113: 2016年6月号)
腸チフス, パラチフスはそれぞれチフス菌(Salmonella Typhi), パラチフスA菌(Salmonella Paratyphi A)によって引き起こされる。感染症法において3類感染症に指定され, 一般のサルモネラ感染症と区別される。パラチフスは一般的には腸チフスに比較して症状は軽いとされるが, 重症時には意識混濁, 腸出血, 腸穿孔等の重篤な症状を示す。また, 発生時には就業制限がかけられるなど社会的な影響が大きい感染症である。今回, 医療施設の無症状調理従事者から分離されたCitrobacter属菌がパラチフスA菌と誤同定された事例を報告する。
2016年2月3日, 医療施設の調理従事者から施設内の定期的な検便検査によってS. Paratyphi Aが分離され, 管轄保健所に対し発生届がなされた。当該医療施設細菌検査室での生化学的性状検査結果を表1に示す。BD BBLCRYSTAL E/NF同定検査試薬および自動同定機器WalkAway40SIにて同定検査が行われ, S. Paratyphi Aと同定された(表1)。管轄保健所では, 当該医療施設への聞き取り調査および当該調理従事者への就業制限の通知といった初期対応が行われ, 2月10日に当所に菌株が搬入された。なお, この調理従事者は海外渡航歴がなく無症状であった。
当所に搬入された菌株の確認検査を実施したところ, DHL培地上に無色透明で中心部黒色集落, クロモアガーサルモネラ培地上に青色集落を形成し, S. Paratyphi A特異的遺伝子検出PCR1)陰性であった。生化学的性状試験結果を表2に示す。血清型別試験を行ったところ, 本事例株はO群別およびH型別試験ともサルモネラ免疫血清に対して凝集反応を示さなかった。以上の検査結果から, 2月15日管轄保健所にS. Paratyphi Aではないとの報告を行った。
以後本事例株の同定を行った。硫化水素産生, リジン脱炭酸酵素陰性, IPA反応陰性からCitrobacter属菌およびSalmonella属菌の鑑別を行った2)。api20Eを実施したところ, Salmonella spp.(%ID=48.4, 非典型反応LDC), S. Paratyphi A(%ID=46.3, 非典型反応H2S), Citrobacter braakii(%ID=4.8, 非典型反応CIT, AMY)と判定された(表2)。遺伝子および血清型別試験でSalmonella属菌が否定されたことからC. braakiiと推測された。api50CHを実施したところ, C. braakii(%ID=99.9, 非典型反応2KG, CIT), Salmonella spp.(%ID=0.1, 非典型反応DUL, CEL, GEN, LDC, CIT)と判定された(表2)。D-xylose発酵試験についてC. braakiiは100%陽性, S. Paratyphi Aは100%陰性であるが2), api50CHのDXYL項目陽性であったためC. braakiiと推測された。16S rRNA遺伝子1,504 bpの塩基配列解析3)を行いBLAST検索を行ったところ, Citrobacter freundii strain P10159, complete genome(accession No. DQ294288), C. braakii CDC 80-58 16S rRNA gene(accession No. AF025368)等と99%の相同性を示した。C. braakiiは, C. freundiiと分類されていた菌種がDNA hybridization法によりC. freundii genomo-species 6と分類されC. braakiiと名付けられた4)。以上のことからS. Paratyphi Aと誤同定された本事例株は総合判定によりCitrobacter属菌C. braakiiと同定した。
本菌は, 日和見感染症としての報告はあるが5,6), 環境, 食物, 動物やヒトの腸管内に広く存在し4), 本事例においても無症状であった。本事例ではCRYSTAL(89.4%)およびWalkAway(90.6%)と高い同定率, api20Eでは硫化水素非産生とした場合S. Paratyphi A(%ID=99.5, 非典型的反応なし)と判定されるため, 本菌同定のための項目が不十分で誤同定される菌種と考えられる。当所で実施した検査では, サルモネラ血清型別試験やD-xylose発酵試験が両菌の鑑別に非常に有用と考えられた。また, 本事例株についてO.B.I.S.サルモネラ(Thermo SCIENTIFIC)を試したところ, 鑑別が可能であったため有効性が示唆される。
本事例では医療施設細菌検査室, 管轄保健所および当所において迅速な情報共有が行われたため, 確認検査の初期から自動同定機器による誤同定が疑われ, 速やかな菌種同定に繋がった。このような事例においては, 第一義的に自動同定機器による誤同定であるか否かの判定が重要であるため, 関係機関の迅速な情報共有が大切である。
参考文献
- Hirose K, et al., J Clin Microbiol 40: 633-636, 2002
- Manual of clinical microbiology, 9th edition, ASM Press, Washington, DC, 2007
- Jiang H, et al., Appl Environ Microbiol 72: 3832-3845, 2006
- Brenner DJ, et al., Int J Syst Bacteriol 43: 645-658, 1993
- Carlini A, et al., Perit Dial Int 25: 405-406, 2005
- Gupta R, et al., South Med J 96: 796-798, 2003