 注目すべき感染症
◆ パラチフス2013年-カンボジア渡航後の感染者増加-(2013年9月11日現在)
パラチフスはパラチフスA菌(Salmonella Paratyphi A)の感染によって起こる全身性感染症であり、通常は1~10日間の潜伏期の後、徐々に発症する。症状は発熱の持続、頭痛、倦怠感、比較的徐脈(高熱のわりに脈拍数が増えない)、バラ疹(高熱時に出現して数時間で消える)、脾腫などがある。また、成人では下痢よりも便秘の頻度が高い。重症度は軽症から重症まで様々である。感染可能な期間は、菌の排出が続く発症から回復期の間(通常1~2週間)である。チフス菌よりも頻度は低いが、胆のうへの感染が持続しキャリアとなる症例も存在する1) 。
現在、日本におけるパラチフスは感染症法に基づく3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の届出(疑似症患者は対象外)が、診断した全ての医師に義務づけられている。近年は、毎年20~30例前後が報告されており、その9割は直近の海外渡航歴が明らかにされ、国外感染が強く疑われた症例である(以下、国外感染例とする)。2013年は8月末までで既に累積36例(うち国外感染35例)が報告されており(注:うち1例は2012年12月31日の診断であり、ここでは疫学週である2013年第1週として数えた。ただし、図2は月別の報告数であり、2012年12月に含めた)、過去数年と比較して国外感染例が増加している(図1)。推定される国外の感染地域は、大多数はアジアで、特にインド、バングラデシュなどの南アジアが従来は多かったが、2013年はカンボジアでの感染が15例と急増し、例年最も多い感染地であるインドを上回っている。カンボジアでの感染は、2009年以降2009年3月に1例あったがそれ以降は報告がなく、2012年12月に1例報告された後増加し始め、2013年5月の5例をピークに、8月までで計16例の集積が報告されている(図2)。
 |
 |
|
図1. パラチフスの年別・感染地域別報告数(2009年~2013年8月) |
図2. パラチフスの診断年月別・国外感染報告数(2009年1月~2013年8月) |
|
2012年12月~2013年8月までの16例の内訳は、男性10例、女性6例(男女比1.7:1)、年齢中央値が41.5歳(範囲:23~76歳)である。これらの症例について、同一旅行ツアーの参加者、あるいはカンボジア国内の共通した地域や観光地、レストラン等へ行ったなどの疫学的関連性は今のところ不明である。なお、分離されたパラチフスA菌のファージ型(phage type;PT)別検査がこれまでに14株に対して行われており、そのほとんどの株がPT2であった。
2013年1月以降、ヨーロッパ諸国(フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、英国)やニュージーランドにおいても、カンボジアへの渡航者で、帰国後パラチフスを発症したという患者が増加しているという報告がされている。こちらも、現地での感染原因・感染経路は不明で、引き続き調査中とのことである 2), 3) 。パラチフスA菌の感染はヒトに限って起こり、患者および無症状病原体保有者の糞便と尿、それらに汚染された食品、水、手指が感染源となり、経口的に感染する。流行地への渡航、とりわけカンボジアへ渡航を予定されている方々は、日頃から手洗いの励行を心がけ、現地で生水、氷、生の魚貝類、生野菜、カットフルーツなどの飲食を避けることが肝要である。また、発熱を主訴に受診した帰国者を診察した医師は、患者の渡航先などの情報から、鑑別診断のためにパラチフスも念頭に置く必要がある。
1)APHA:Typhoid Fever/Paratyphoid fever, Control of Communicable Disease Manual 19th Ed.P664-667
2)ECDC:RAPID RISK ASSESSMENT http://www.ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/paratyphoid-fever-cambodia-rapid-risk-assessment.pdf
3)ECDC:Communicable Disease Threats Report Week 36, 1-7 September 2013 http://www.ecdc.europa.eu/en/publications/Publications/Communicable-disease-threats-report-01-sep-2013.pdf
国立感染症研究所 感染症疫学センター 齊藤剛仁 島田智恵 金山敦宏 八幡裕一郎 牧野友彦 砂川富正 大石和徳 細菌第一部 森田昌知 泉谷秀昌 大西 真
|