循環式気泡浴槽を感染源としたレジオネラ症発生事例における菌株解析―神戸市
(公開日:2024年7月31日)
(IASR Vol. 45 p111-112: 2024年7月号)
はじめに
令和4(2022)年3月中旬に宿泊施設大浴場を利用した神戸市外の2名を診察した医師からレジオネラ症発生届出があった。患者1名の喀痰から複数のLegionella pneumophila serogroup 1(SG1)sequence type(ST)138が分離された。当該浴場は、 かけ流し温泉浴槽と循環式気泡浴槽の2つの浴槽を有しており、 浴槽水、 浴槽内部や気泡板のふきとり、 ヘアキャッチャー、 ろ過器等の検査を実施したところ、 14カ所からレジオネラ属菌を検出した。また、 気泡浴槽水、 ヘアキャッチャー、 ろ過器から患者株と同一遺伝子型の株が分離された。患者由来株と環境由来株のL. pneumophila SG1 ST138について、 同一性をより詳細に調べるため、 全ゲノム解析を実施した。
対象と方法
菌株は、 同一患者喀痰由来14株、 環境由来18株(気泡浴槽水由来5株、 ヘアキャッチャー由来5株、 ろ過器由来8株)、 および2013年に当該施設の気泡浴槽水から分離された1株を加えた計33株を解析対象とした。NucleoSpin Tissue kit(MACHEREY-NAGEL)を用いてゲノムDNAを抽出し、 QIAseq FX DNA Library Kit(QIAGEN)によるライブラリ調製を行い、 MiSeq(Illumina)によりリードデータを取得した。菌株の同一性を調査するため、 L. pneumophila、 Paris株(Accession no.: CR628336.1)をリファレンスとして、 BactSNPを用いてsingle-nucleotide variant(SNV: 一塩基多型)解析を実施した1)。組み換え領域の除去はGubbinsを用いた2)。
結果と考察
本事例において分離された菌株間のsingle-nucleotide variants(SNVs)は0-42個であった。同一患者由来株は大きく3つのクレードに分かれた(図)。クレード1は、 SNVsが0-1個の患者由来株のみで構成された。一方、 クレード2・3には、 患者由来株と気泡浴槽水やヘアキャッチャー由来株の両方が含まれ、 それら株間のSNVsは4個以下であった。疫学的に関連のある菌株間のSNV数は5個以下との報告があることから3)、 循環式気泡浴槽が感染源であると判断した。
同一患者由来株間のSNVsは0-41個と多様であったことから、 浴槽などエアロゾルが発生する環境に長時間滞在することで、 環境に存在する多様な株に曝露された可能性が考えられた。その一方で、 患者株と近縁な環境由来株が分離できていないクレードが存在していたことから、 感染源特定のためには、 種々の環境からレジオネラ属菌を分離することに加え、 状況に応じて複数の患者分離株を解析に加える必要があると考えられた。
さらに、 2013年の当該施設分離株(KL0954)との比較においては、 いずれの患者由来株ともSNVsは30個前後であり、 浴槽由来の一部およびろ過器由来株とのSNVsが10個以内であった。したがって、 少なくとも2013年から施設内に定着し、 多様にクレードが分岐した可能性が考えられた。
本事例では、 疫学調査、 施設の衛生管理の実態、 レジオネラ属菌検出状況と合わせて、 分離菌株の全ゲノム配列のSNV解析が感染源特定の判断に有用であった。今後、 レジオネラ症事例においても、 全ゲノム解析を用いた菌株同一性の確認が必要な場合が増えていくと考えられた。
参考文献
- Yoshimura D, et al., Microb Genom 5: e000261, 2019
- Croucher NJ, et al., Nucleic Acids Res 43: e15, 2015
- Raphael BH, et al., Appl Environ Microbiol 82: 3582-3590, 2016
- Nakanishi N, et al., Microorganisms 11: 28, 2022
神戸市健康科学研究所感染症部
小松頌子 田中 忍 野本竜平 向井健悟 中西典子