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IASR 45(9), 2024【特集】麻疹 2024年7月現在

公開日:2024年9月20日

(IASR Vol. 45 p147-149: 2024年9月号)

麻疹は麻疹ウイルス感染により引き起こされる急性感染症であり、主な症状は発熱、発疹、カタル症状である。麻疹ウイルスの感染力は極めて強い。感染経路としては、飛沫感染、接触感染のほか空気感染も成立する。また麻疹ウイルスは免疫細胞にも感染するため、ウイルスは感染者の免疫機能を抑制し、様々な臓器に合併症を引き起こす。呼吸器〔肺炎、中耳炎、喉頭気管気管支炎(クループ)〕、消化器(下痢、口内炎)における合併症の頻度が高い。神経系合併症は、頻度は低いが重篤であることが多く、感染から約2週間以内に発症する麻疹脳炎(1,000症例に1例程度)、感染・回復後数年~十数年後に発症する予後不良の亜急性硬化性全脳炎(SSPE)(数万症例に1例程度)が知られている。世界保健機関(WHO)は2022年には麻疹により推定で13.6万人が死亡し、そのほとんどが5歳未満の子どもであると報告している(https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/measles(外部サイトにリンクします))。

一方麻疹は、安全で有効なワクチンが利用可能なこと、不顕性感染が少なく正確な診断法が利用できること、自然宿主がヒトのみであること等から、排除が可能な感染症と考えられており, WHOでは麻疹の排除を目指している。2005年に、日本が所属するWHO西太平洋地域(WPR)の地域委員会は、2012年までにWPRから麻疹を排除することを決議した。これを受け日本では、2006年から麻しん含有ワクチンの2回接種(第1期、第2期)を導入、さらに2007年12月に厚生労働省(厚労省)は「麻しんに関する特定感染症予防指針」(2019年4月最終改正、以下指針)を告示し、当時の国内流行の中心であった10代の集団免疫を強化するため、中学1年生(第3期)、高校3年生相当年齢者(第4期)を対象に、5年間(2008~2012年度)の補足的ワクチン接種を予防接種法に基づく定期接種として実施するなど、麻疹排除に向けた対策を強化した。これらの対策により2009年以降、国内麻疹患者数は大幅に減少し、2015年にはWPR麻疹排除認証委員会より日本は麻疹排除状態であると認定された。排除状態の維持は2022年までは確認、認定されており、2023年の状況については、現在、同委員会による検証が行われている。

感染症発生動向調査

麻疹は感染症法上の5類感染症である(届出基準・病型はhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-03.html(外部サイトにリンクします))。麻疹が全数届出になった2008年の年間届出数は11,013例であった。それ以後2019年までは35-744例で推移し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにより渡航制限などの各種対応が取られていた2020~2022年の年間届出数は10例以下であった(図1)。COVID-19対応としての水際対策が完全に解除された2023年の年間届出数は28例と増加した(図1, 本号4ページ)。

2023年に届出された患者(n=28)を病型別でみると、修飾麻疹(発熱、発疹、カタル症状の3主徴のうち1ないし2症状のみの非典型例かつ検査陽性例)が28例中5例であり、5例すべて検査診断が実施されていた。推定感染地域が国外であるものは7例〔インドネシア(2例)、モザンビーク、タイ、シンガポール、インド、スリランカ〕であった。患者の年齢群別にみると、1~4歳の患者が5例、20歳以上の患者が23例であり、患者の多くは成人であった(図2)。

予防接種歴は未接種が6例、1回接種が11例、2回接種が4例、接種歴不明が7例であり、定期接種対象年齢に達していない1歳未満の症例の届出はなかった()。

検査診断の状況

指針では、原則、すべての麻疹疑い症例に対してIgM抗体検査とウイルス遺伝子検査を実施することを求めている。IgM抗体検査用検体は医療機関から民間検査機関に、遺伝子検査用検体は医療機関から主に地方衛生研究所(地衛研)に送られ検査が行われている。2023年は全28例が検査診断例として届け出された。遺伝子検査は24例で実施され、陽性となったのは22例であった。ウイルス遺伝子検査はreal-time RT-PCR法で遺伝子の検出を試み、陽性であった検体は麻疹ウイルスN遺伝子上の遺伝子型決定部位450塩基の解析をすることを指針で推奨している。得られた塩基配列情報は遺伝子型の確認のみでなく、ワクチン株との鑑別、集団発生時のリンクの確認や輸入例かどうかの鑑別のためにも利用されている。

ウイルス検出状況

2023年に地衛研でウイルス遺伝子が検出され、感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報に報告されたものは22例(全症例数28例)であり、遺伝子型決定部位450塩基の遺伝子配列まで報告されたものは7例であった。報告されたウイルス遺伝子型はいずれもD8型に分類された。

ワクチン接種率

2006年度より1歳児(第1期)ならびに小学校就学前1年間の児(第2期)に対し、麻疹の定期接種が実施されている。2022年度の定期接種率は第1期が95.4%、第2期が92.4%と、第1期は2021年度より1.9ポイント上昇し、目標とされる95%の接種率を上回ったものの、第2期は1.4ポイント低下し95%を下回っていた(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou21/hashika.html(外部サイトにリンクします))。

抗体保有状況

2023年度の感染症流行予測調査において、21都道府県の地衛研で、酵素免疫測定(EIA)法による麻疹抗体価測定が行われた(本号6ページ)。麻疹EIA抗体価2以上の陽性率は全体で96.2%であり、流行阻止に必要とされる95%を上回っていた(図3)。

今後の対策

2019年には世界で約54万例報告されていた麻疹症例は2020年および2021年はそれぞれ約9万例および約6万例と大きく減少していたが、2022年には約17万例と増加に転じ、2023年にはさらに増加し約32万例となり、在も多くの国で流行している(本号8ページ)。2020~2021年の麻疹症例報告数の減少は、世界的なCOVID-19の流行による人の往来の減少や基本的な衛生対策が一定程度寄与したものと考えられる。わが国においても2020~2022年までの3年間は麻疹年間症例数は10例以下で推移したが、COVID-19対策としての水際対策が解除された2023年は28例と増加した。麻疹排除状態にあるわが国においては、麻疹の発生は海外からの輸入症例を発端とすることが多く、訪日客や海外渡航者の増加は麻疹発生リスクを上昇させると考えられる。日本政府観光局の集計によると、COVID-19流行前の2019年には約3,200万人を数えた来日客数が2021年は約25万人と大きく減少したものの、2023年には約2,500万人、2024年は4月までに約1,160万人と回復しており(https://statistics.jnto.go.jp/graph/#graph--inbound--travelers--transition(外部サイトにリンクします))、輸入症例による麻疹の発生リスクが上昇していると考えられる。実際、2023年の麻疹28症例のうち7例は発症前に海外渡航歴がある輸入症例である。また2024年には、外国発の航空機搭乗者を発端とする広域発生も確認されている(本号9ページ)。麻疹ウイルスが海外から持ち込まれた場合でも、感染が拡大しない環境を整えておくことが求められる。そのためには指針に示されるように、1)2回の定期接種の接種率を95%以上に維持し、抗体保有率を高くすること、2)早期に患者を発見して適切な感染拡大阻止策が行えるように、迅速かつ確実な検査法に基づくサーベイランス体制を維持すること、3)感染するリスクの高い医療関係者、空港等不特定多数と接する機会の多い職場や、ウイルスが持ち込まれた場合に多数の患者が発生することが懸念される児童福祉施設、学校などで働く人等に対して、必要に応じたワクチン接種を勧奨すること、等が求められる。

また、不特定多数が利用する施設・交通機関での麻疹発生の場合、広域での対応が必要となる可能性がある。このため自治体間に加え、厚労省、国立感染症研究所等での情報共有を含めた連携体制の構築(本号9ページ10ページ)も必要となる。

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