食品衛生におけるサポウイルス
(IASR Vol. 45 p211-212: 2024年12月号)
食中毒統計資料
厚生労働省(厚労省)は食中毒統計資料1)として 、1996(平成8)年から現在までの食中毒発生状況と2000(平成12)年からの食中毒事件一覧を公開している。食中毒事件一覧は 、各自治体より報告された食中毒事件について都道府県名等 、発生月日 、発生場所 、原因食品 、病因物質 、原因施設 、摂食者数 、患者数 、死者数をまとめたものとなっており 、食中毒事件一覧を基に都道府県 、月 、原因食品 、病因物質 、施設別の集計データとなる食中毒発生状況が作成されている。
2019(令和元)~2023(令和5)年までの食中毒発生状況から 、ウイルス性食中毒の発生状況を抜粋した数値を表1に示した。日本では食中毒事件の主な発生施設が飲食店と報告されており 、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を大きく受けた2020~2022年はウイルス性食中毒事件数も減少している。ウイルス性食中毒について 、原因となるウイルスはノロウイルスがほとんどであり 、ノロウイルス以外の「その他のウイルス」による食中毒事件報告数は5年間で全618件のうち9件と報告され 、これにはロタウイルスやサポウイルスが含まれる。
食中毒事件発生時には 、厚労省の「食中毒処理要領・食中毒調査マニュアル2)」に準じて調査が行われ 、各自治体から「食中毒統計作成要領3)」にしたがって事件票として報告される。食中毒統計作成要領には 、ウイルスについて以下の箇所で示され 、ウイルス性食中毒の病因物質としてノロウイルスの他に 、サポウイルス 、ロタウイルス 、A型肝炎ウイルス 、E型肝炎ウイルスについては 、聞き取り調査等と合わせて 、検査等にて病因物質であるウイルスの特定が求められている。
別添 6 調査事項の記入要領
1 調査票の記入要領
A欄に関する事項
(16)微生物学的検査の結果 ノロウイルス等と記入すること
B欄に関する事項
(5)病因物質 ウイルス性については 、ノロウイルス等を記入すること
3 事件票の記入要領
推定 (11)病因物質 ウイルスについて 、遺伝子型等が判明している場合は 、ウイルス名とともに遺伝子型を記入すること
別表2 食中毒病因物質の分類
17 ノロウイルス 、18 その他のウイルス(サッポロウイルス 、ロタウイルス 、A型肝炎ウイルス 、E型肝炎ウイルス)
一方で 、保健所から厚労省へ提出される様式第十四号(第七十五条関係)食中毒事件票では 、(12)病因物質の種別では「17 ノロウイルス 、18 その他のウイルス」となっており 、様式第十五号(第七十六条関係)食中毒事件調査結果報告書にて 、その他のウイルスについて詳細なウイルス名が報告されている。食中毒統計資料において(2)過去の食中毒発生状況および(3)過去の食中毒事件一覧では 、その他のウイルスについて詳細な情報が公開されていないため 、これまでサポウイルスなど 、その他のウイルスがどの程度食中毒事件へ関与しているのかは公開資料からは把握できない。
サポウイルスによる食中毒事件に関する情報の得にくさ
サポウイルスによる食中毒事件の情報を探すのは容易でない。食中毒統計ではその他のウイルスによる食中毒事件について情報を得ようとする場合 、食中毒事件一覧に記載の都道府県名 、発生月日等の情報でウェブ検索を行うと 、運良く該当自治体の発表資料をみつけることができる場合もあるが 、サポウイルスではなくロタウイルスなどの情報であることもある。
比較的アクセスしやすい情報源としては 、国立保健医療科学院が公開している健康危機管理支援ライブラリー(H-CRISIS)4)があり 、健康危機管理事例データベースにてサポウイルスやウイルス性食中毒として情報の絞り込みを行えば 、6件のサポウイルスによる食中毒事件に関する情報を得ることができる(表2)。また 、病原微生物検出情報 月報(IASR)にて過去にいくつかサポウイルスによる食中毒事件は報告されている5,6)が 、サポウイルスによる食中毒事件に関する情報は検索 、入手が簡単ではない状況にあり 、食品衛生上の課題の1つとして 、サポウイルスの認知度を高めるためには情報の入手性についても容易にしていく必要がある。
食品衛生上のサポウイルスの重要性は未知
長野県7) 、宮城県8) 、埼玉県9)は下水中の腸管ウイルスについて 、ノロウイルスと同程度の検出率 、ゲノムコピー数をサポウイルスが示すことを報告している。このことは 、ノロウイルスと同程度に市中にサポウイルス感染者がいることを示唆するが 、表1に示すように 、ウイルス性食中毒のほとんどはノロウイルスを病因物質として説明がついており 、サポウイルス単独での食中毒事件は非常に少なく 、病原性も低い可能性も考えられる。サポウイルスの病原性 、食中毒への関与について 、ノロウイルスとの混合感染なども含めた積極的な調査による実態把握による検証が必要である。
参考文献
- 厚生労働省, 食中毒統計資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/04.html(外部サイトにリンクします) - 厚生労働省, 「食中毒処理要領」及び「食中毒調査マニュアル」の改正について
https://www.mhlw.go.jp/content/000496802.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:692 KB) - 厚生労働省, 食中毒統計作成要領の改正について
https://www.mhlw.go.jp/content/000496391.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:423 KB) - 国立保健医療科学院H-CRISIS
https://www.niph.go.jp/h-crisis/(外部サイトにリンクします) - 宇宿秀三ら, IASR 28: 294-295, 2007
- 辰己智香ら, IASR 40: 90-91, 2019
- 塚田竜介ら, 長野県環境保全研究所報告 第17号: 39-46, 2021
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010941409.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:1,104 KB) - 菅原直子ら, 宮城県保健環境センター年報 第35号: 31-35, 2017
https://www.pref.miyagi.jp/documents/1979/727169.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:894 KB) - 宮下広大ら, 埼玉県衛生研究所報 55号: 29-48, 2021
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/228943/55_2021_08kenkyuu01.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:1,034 KB)
国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部
上間 匡