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アニサキス症

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(2014年05月13日改訂)

海産魚介類の生食を原因とする寄生虫症の中でも、我が国で最も多発するものがアニサキス症である。日本人の食習慣からみて、アニサキス症は我が国でかなり古くからあった病気と考えられるが、原因となる虫種が確定されたのは1960年代である。当初は診断の方法がなく、激しい腹部症状から開腹して患部が切除され、病理学的に初めてアニサキス症であると証明された事例がほとんどであった。しかし1970年代以降には内視鏡検査の普及とともに、生検用鉗子での虫体摘出が可能となり、予想外に多数の本症例が発生していることが明らかにされた。このような診断技術の高度化に平行するように、生鮮食料品の輸送体系が近代化されてきたことが、現在に至るアニサキス症発生の増加と広域化の前提となっている。

疫学

アニサキス症の発生は、刺身や寿司など海産魚介類の生食を嗜好する食習慣と強く関連することから、諸外国に比して圧倒的多数の症例が我が国で発生している。この症例数は、33万人規模のレセプトデータを用いた試算で、年間に7,147件と推計されている(2005年から2011年の年平均、なおレセプトとは医療機関が健康保険組合等に提出する診療報酬明細書のことである)。一方で海外での報告数は、1960年に本症の発生がオランダで報告されてから2005年までに、欧州で累計約500件、米国で同約70件とされる。

人への感染源となる魚介類は、我が国の近海で漁獲されるものでも160種を超える。この中でも患者の食歴から、サバ(マサバおよびゴマサバの総称、加工品としての「しめ鯖」を含む)が最も重要な感染源と考えられる。この他、アジやイワシ、イカ、また最近ではサンマなどが感染源になる機会の多い魚介類として、注意が必要となる。なお海産魚介類はアニサキスの幼虫が寄生する中間宿主・待機宿主であり、終宿主はクジラやアザラシなどの海生哺乳類で、その消化管に成虫が寄生する。

病原体

アニサキス亜科に属する線虫の総称がアニサキスで、その第3期幼虫が魚介類に寄生し(体長は2~3cm)、アニサキス症の病原体となる(図1)。人体症例から摘出される虫体も多くが第3期幼虫であるが、時に第4期幼虫も検出される。この症例由来の幼虫は、形態学的特徴からAnisakis Type 1、Anisakis Type 2、Pseudoterranova spp.の3群に便宜的に大別されるが、Anisakis Type 1がその大多数を占める。遺伝子解析を実施した成績では、症例由来のAnisakis Type 1のほとんどがAnisakis simplexA.simplex sensu stricto、すなわち狭義のAnisakis simplex)で、ごく少数がAnisakis pegreffiiと分子同定されている。なお遺伝子解析により、症例由来のAnisakis Type 2はAnisakis physeteris、またPseudoterranova spp.はPseudoterranova azarasiと分子同定されている。

魚に寄生するアニサキス幼虫の画像

図1.魚に寄生するアニサキス幼虫

左上:スケトウダラの肝臓に寄生するアニサキスの幼虫(リング状のもの)。
左下:スケトウダラから取り出したアニサキスの幼虫。体長は2~3cmで、肉眼でも十分に見える。活発に運動する(が写真では動きは分からない)。
右上:サバの身に寄生するアニサキスの幼虫。矢印の先端が虫体を示すが、肉眼で確認するのは容易ではない。
右下:右上写真の矢印部分のサバの身を切り出し、顕微鏡下にアニサキスの幼虫を確認した。

臨床症状

  1. 胃アニサキス症
    魚介類の生食後数時間して、激しい上腹部痛、悪心、嘔吐をもって発症するのが胃アニサキス症の特徴で、人体症例の大半がこの症状を呈する(劇症型胃アニサキス症)。食歴に関する問診と臨床症状から劇症型胃アニサキス症が疑われる場合は、胃内視鏡検査で虫体を検索し(虫体1匹の穿入で発症することも多い、図2)、検出虫体の形態と遺伝子配列から確定診断する。しかし健康診断時等の内視鏡検査で、胃粘膜に穿入する虫体が見つかる無症候例もある(緩和型胃アニサキス症)。

    胃の内視鏡検査の画像
    図2.胃の内視鏡検査(写真提供:立川相互病院消化器内科・浦崎裕二先生)

    左:胃の粘膜に潜入するアニサキスの幼虫
    右:内視鏡の先端に装着された鉗子でアニサキスの幼虫を摘出する(診断と治療を兼ねる処置)。
  2. 腸アニサキス症
    虫体が腸に穿入する腸アニサキス症では、腹痛、悪心、嘔吐などの症状が見られ、時に腸閉塞や腸穿孔を併発する。腸閉塞などで手術を受けた例では、摘出部位の病理組織標本に虫体を検索し、原因を確定する。
  3. 消化管外アニサキス症
    まれに虫体が消化管を穿通して腹腔内へ脱出後、大網、腸間膜、腹壁皮下などに移行し、肉芽腫を形成することもある。虫体寄生部位に応じた症状が現れる。
  4. アニサキスアレルギー
    魚介類の生食後に蕁麻疹を主症状とするアニサキスアレルギーを認めることがある。更に血圧降下や呼吸不全、意識消失などのアナフィラキシー症状を呈した症例も報告されている。クローニングを含めたアニサキスアレルゲンの性状解析が進んでいるが、アレルゲンに対するIgE抗体の検出が症例の診断に役立つとされる。

予防・治療

海産魚介類の生食を避けること、あるいは加熱後に喫食すること(60℃で1分以上)が、確実な感染予防の方法となる。また冷凍処理(-20℃、24時間以上)によりアニサキス幼虫は感染性を失うので、魚を冷凍して解凍後に生食することは感染予防に有効である。オランダでは1968年に、酢漬けで生食するニシンを調理前に-20℃以下で24時間以上冷凍するよう法律で義務付け、アニサキス症の患者を激減させている。また米国のFDA(食品医薬品局)は生食用の魚について、-35℃以下で15時間、または-20℃以下で7日間の冷凍処理するよう勧告している。EU(欧州連合)の衛生管理基準では、海産魚類の視認による寄生虫検査を義務付け、生食用の海産魚に関しては冷凍処理(-20℃以下で24時間以上)を指示している。

加熱や冷凍以外の方法として、新鮮なうちに魚介類の内臓を摘出するなどの工夫も、感染予防に適用できる。内臓に寄生する幼虫が漁獲後に筋肉へ移行することもあるからである。なお、醤油、わさび、酢がアニサキス症の予防に有効ではないかと期待されてきた。しかし料理で使う程度の量や濃度、処理の時間では虫体は死なない。

治療法に関しては、胃アニサキス症では胃内視鏡検査時に胃粘膜に穿入する虫体を見つけ、これを鉗子で摘出する。腸アニサキス症では対症療法が試みられ、場合により外科的処置が施される。なお現在のところ、幼虫に対する効果的な駆虫薬は開発されていない。

食品衛生法での取り扱い

2012年12月28日の食品衛生法施行規則の一部改正で、アニサキスが食中毒の病因物質の種別として、食中毒事件票に新たに追加された(クドア、サルコシスティス、その他の寄生虫(クリプトスポリジウム等)も同様に種別として追加された)。既に1999年12月28日の同法施行規則の一部改正で、アニサキスは食中毒の原因物質として食中毒事件票に例示されていたが、食中毒患者の発生状況を的確に把握する等を目的に、新たな改正が行われた。従って、アニサキスによる食中毒が疑われる患者を診断した医師は、24時間以内に最寄りの保健所に届け出ることが必要である(食品衛生法第58条・中毒に関する届出)。医師以外の者からの苦情や報告は、食中毒疑いの事案として保健所が受け付ける。なお上述の法改正により、厚生労働省の食中毒事件一覧速報で2013年以降、アニサキスによる食中毒の発生状況を閲覧できるようになった。2013年のアニサキスによる食中毒の件数は88件(患者数は89人)で、件数ではノロウイルス(328件)およびカンピロバクター・ジェジュニ/コリ(227件)に次いで、第3位に位置付けられている。

(国立感染症研究所寄生動物部 杉山広 森嶋康之)

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