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クリミア・コンゴ出血熱

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(IDWR 2002年第31号掲載)

クリミア・コンゴ出血熱(Crimean‐Congo Hemorrhagic Fever:CCHF)は、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスによる急性熱性疾患であり、エボラ出血熱、マールブルグ出血熱、ラッサ熱とともにウイルス性出血熱(Viral Hemorrhagic Fever:VHF)4疾患のひとつである。この疾患はダニ(Hyalomma属)が媒介する。上記4疾患の中ではラッサ熱についで多く、アフリカ大陸から東欧、中近東、中央アジア諸国、中国西部にかけて広く分布している。

アメリカ大陸には存在しない。人獣共通感染症(zoonosis)として最も重要な位置にある。臨床症状として発熱や、点状出血から大紫斑に至る多彩な出血像が特徴的である。近年はダニの体内での垂直伝播も知られ、今後疫学的にも最も注意していくべき感染症のひとつである。

疫学

CCHFが世界中に知られるようになったのは、中央アジアのクリミア地方で野外作業中の旧ソ連軍兵士の間で、1944~45年にかけて重篤な出血を伴う急性熱性疾患が発生した時のことである。この折に患者血液やダニからウイルスが分離され(クリミア出血熱ウイルス)、そのウイルスが1956年アフリカのコンゴで分離されたウイルス(コンゴウイルス)と同一であることがCasals博士により明らかにされた。そのため、CCHFウイルスの名前がつけられた(米国ではCongo‐Crimeanと称されている)。

クリミア・コンゴ出血熱の分布領域を示す世界地図。アフリカ大陸全域、中東、中央アジアの一部が薄いピンク色で着色され、分布地域として示されている。その他の地域(南北アメリカ大陸、ヨーロッパ、東アジア、オーストラリアなど)は白色で示されている。地図は輪郭線のみのシンプルな表現で、国境線は描かれていない。

図1.クリミア・コンゴ出血熱の分布領域

ちなみにCasals博士は、CCHFウイルス以外に1969年にラッサウイルスを初めて分離した人としても知られている。
現在患者発生が知られている地域は、アルバニア、ブルガリア、ユーゴスラビアなどの東欧、中央アジア、ロシア、パキスタン、イラク、イラン、サウジアラビア、ドバイ、オマーンなどの中近東、中国(新疆ウイグル自治区)、アフリカ全域(南アフリカ、コンゴ、モーリタニア、ウガンダ、セネガルなど)である。このウイルスがダニや哺乳類から分離されている地域は、ギリシャ、ナイジェリア、中央アフリカ共和国、ケニア、マダガスカル、エチオピア、ブルキナファソなどの国々である。
CCHFウイルスのヒトへの感染経路は、(1)感染マダニに咬まれたりダニをつぶしたりして感染ダニから感染する経路、(2)感染動物の血液や組織と接触して感染する経路、(3)感染者や患者の血液、血液の混入した排泄物、汚物などに接触して感染する経路がある。つまり、流行地の羊飼い、キャンパ-、農業従事者、獣医師等家畜などのダニと密接に接する人や、病院で患者に接する医療関係者、および介護にあたる家族などはCCHFウイルスに感染するhigh riskグループと考えられる。院内感染はしばしば起こっている。パキスタン、ドバイなどの病院での院内感染は、いずれも手術に伴う(急性腹症として開腹されることが多い)血液との直接接触により発生し、医師、看護師が感染している。他の出血熱ウイルス同様、空気感染は否定されている。
1985年の南アフリカで発生したCCHFの31例では、曝露された感染源と潜伏期間はそれぞれ、ダニ咬傷の場合が3.2日、家畜などの血液との接触の場合が6日、患者や感染者との接触の場合では5.6日であった。19/31例でウイルスが分離され、IgM抗体は5例のみで検出された。

病原体

CCHFウイルスはブニヤウイルス科(Bunyaviridae)のナイロウイルス属(genus Nairovirus)のメンバーである。粒子の径は90‐110nmの球形で、3分節(L‐RNA、M‐RNA、S‐RNA)からなる1本鎖RNAをもつエンベロープウイルスである。L‐RNAがL蛋白を、M‐RNAが膜蛋白を、S‐RNAが核蛋白を発現する。自然界では野生、家畜などの哺乳動物(ウシ、ヤギ、ヒツジなど)が自然宿主で、マダニ(Hyalomma)が媒介する。ウイルスは経卵巣伝搬経路で、成虫ダニから幼ダニへ伝搬されている。つまりダニ‐ダニ間で維持されている。また、動物‐ダニ間でも維持されている。現在27種のマダニがこのウイルスを媒介することが知られている。感染マダニが渡り鳥により遠隔地へ運ばれる可能性も指摘されている(流行地の拡大)。

臨床症状

潜伏期間は2~9日である。症状は表に示したように非特異的である。発生は突発的で、発熱、頭痛、筋肉痛、腰痛、関節痛がみられ、重症化すると種々の程度の出血がみられる(点状出血から大紫斑まで)。死亡例では肝腎不全と消化管出血が著明である。致命率は15~40%で、感染者の発症率は20%と推定されている。

  • 「ウイルス性出血熱と出血を生ずるウイルス病」の一覧表。4列構成(疾患名と確認年、ウイルスと科、自然宿主と感染経路、分布地域)。ラッサ熱(1969年)から始まり、エボラ出血熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱、南米出血熱、黄熱、腎症候性出血熱、ハンタウイルス肺症候群、リフトバレー熱、デング出血熱までの10疾患を収録。各疾患のウイルス科、感染経路(げっ歯類やヒトからヒトへの感染など)、地理的分布を詳細に記載。

    表1.ウイルス性出血熱と出血を生ずるウイルス病

  • ウイルス性出血熱の臨床症状、診断、治療」を示す表。4列構成(疾患、潜伏期間/症状、診断法、治療法)で、ラッサ熱、エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、マールブルグ病の4疾患について詳細を記載。

    表2.ウイルス性出血熱の臨床症状、診断、治療

病原診断

正確な診断のために最も重要なことは、発症1週間以内にウイルスを分離することである。RT‐PCRで血中からCCHFウイルス遺伝子を検出する、抗原検出ELISAでウイルス抗原を検出する、などで診断を行う。血清学的にはIgG‐ELISA、免疫蛍光法、補体結合反応などで有意の抗体上昇を確認することで診断できる。迅速診断には、IgM‐捕捉ELISAなどによりIgM抗体を検出するのも有用である。現在、国立感染症研究所ではこれらの診断は可能である。発症21日(3週)でCCHFウイルスに対するIgG抗体が陰性の場合、この疾患を否定できる。

治療・予防

特異的治療法はない。治癒例では後遺症はみられない。鑑別診断は全ての急性出血性感染症が対象となる。
抗RNAウイルス薬であるリバビリンはCCHFウイルスの増殖を抑制する。実際にリバビリンがCCHF患者に投与され、効果が認められたとする症例報告があるが、その効果は実証されていない。
ワクチンはない。感染予防には基本的バリア(ガウン、手袋、マスク等の装着)で十分である。

感染症法における取り扱い(2012年7月更新)

全数報告対象(1類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら(外部サイトにリンクします)

学校保健安全法における取り扱い(2012年3月30日現在)

第1種の感染症に定められており、治癒するまで出席停止とされている。
また、以下の場合も出席停止期間となる。

  • 患者のある家に居住する者又はかかっている疑いがある者については、予防処置の施行その他の事情により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで。
  • 発生した地域から通学する者については、その発生状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間
  • 流行地を旅行した者については、その状況により必要と認めたとき、学校医の意見を聞いて適当と認める期間

(国立感染症研究所 ウイルス第一部 西條政幸)

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