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国立健康危機管理研究機構
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急性ウイルス性肝炎

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(IDWR 2002年第3号)

疫学

肝臓を炎症の主座とするウイルスとしてはA型(HAV)、B型(HBV)、C型(HCV)、D型(HDV)、E型肝炎ウイルス(HEV)がある。新たな非A-E型肝炎ウイルスとして1995年にSimonsら、1996年にはLinnenらがGBV-C/HGVを報告した。また、1997年には輸血後急性肝炎例の血中からTTVが発見されたが、これらはこれまでのところ肝炎ウイルスと認知されるに至っていない。一方、急性肝炎を惹起するウイルスとしてはEpstein-Barrvirus(EBウイルス)、cytomegalovirus(サイトメガロウイルス)など様々なウイルスが知られている。

我が国における輸血後肝炎は1972年にHBs抗原、1989年にHBc抗体とC100-3抗体(第一世代HCV抗体)、さらに1992年から第二世代HCV抗体の測定が行われるようになってから減少の一途をたどっている。しかしながら、極めて稀であるが、抗原抗体測定では検出できないことがありうることも問題となった。そこで1999年日本赤十字は世界に先駆けて、HBV、HCV、HIVの3ウイルス核酸を検出するNAT(核酸増幅検査)を導入した。全国で献血された血液は各地の血液センターでスクリーニングされ、血清反応で陰性の血液すべてを東京(大田区)、京都(福知山)、北海道(千歳)のNATセンターで核酸レベルの検査を行い、現在では、輸血用血液製剤を含むすべての血液製剤がNATを実施後出荷されている。2001年12月末の時点で12,668,198件のNATを行い、HBV224例(約1/6万)、HCV43例(1/29万)、HIV4例(1/317万)のウイルス核酸陽性の血液を検出し、それら血液製剤(血小板を含む)による感染の危険性を排除できた。このNATの導入により、血液製剤の安全性が格段に高まったといえる。

感染症法施行以来の発生動向調査では急性ウイルス性肝炎として、1999年4~12月に1,487例、2000年1~12月に980例が報告されている。2000年の報告での内訳をみるとA型379例、B型417例、C型118例、D型なし、E型4例、その他40例、不明22例となっている。

病原体

A型肝炎ウイルス

1947年にMacCallumらが潜伏期の異なる2種類のウイルス肝炎を区別し、潜伏期の短い方をA型肝炎、長い方をB型肝炎と命名した。その後、KrugmannらはHAVを含む感染性血漿MS-1を分離、さらにBoggsらはMS-1の経口継代に成功し、1973年にFeinstoneらが糞便中に排泄されたMS-1ウイルス粒子を検出した。HAVは直径27nmの正20面体粒子で、ウイルス遺伝子は1個のORFを持つ約7,500塩基長のプラス鎖RNAである。HAV粒子の蛋白質には4種類のキャプシド蛋白質(VP1,VP2,VP3,VP4)と、ゲノムRNAの5'末端に共有結合する蛋白質VPgがある。ピコルナウイルス科、ヘパトウイルス属に分類される。

B型肝炎ウイルス

1963年にBlumbergが、オーストラリア原住民の一人の血清がたびたび輸血を受けている血友病患者の血清と寒天ゲル内で沈降反応を起こすことを見いだし、オーストラリア抗原と名付けた。

1968年にはPrince、大河内がそれぞれ独立して血清肝炎と密接な関係のある抗原を発見したが、それはオーストラリア抗原と同じであることが確認され、HB抗原として統一された。HBVは直径42nmの球形粒子で、7nmの外被(エンヴェロープ)と環状2本鎖DNAとDNAポリメラーゼ、逆転写酵素などを包む直径27nmのヌクレオキャプシドからなるDNAウイルスである。HBV-DNAは約3,200塩基対からなる環状2本鎖DNAであり、1)外被蛋白をコードしているpreS/S遺伝子、2)コア蛋白(HBc抗原)とHBe抗原をコードしているpre-C/C遺伝子、3)DNAポリメラーゼ・逆転写酵素・5'末端結合蛋白(primase)などをコードしているP遺伝子、4)X蛋白をコードするX遺伝子の4種類のORF(オープン・リーディング・フレーム)からなる。ヘパドナウイルス科に分類される。

C型肝炎ウイルス

1989年にカイロン社の研究グループが米国CDCの研究者らとともに同定したHCVゲノムは、約9.5k塩基からなるプラス鎖RNAであり、そのなかに各蛋白質をcodeする一本のORFが存在する。
ゲノムの両端の非翻訳領域には二次構造に富む領域があるが、5'末端側にはIRES(internal ribosome entry site)が存在し、翻訳反応の開始に重要な役割を持つ。3'末端(3'X)は5'末端とともにウイルスの複製に寄与するとの報告がある。ウイルス蛋白質は前駆体蛋白質として翻訳され、宿主細胞由来のシグナルペプチダーゼにより、構造蛋白であるコア蛋白質、外被蛋白質(E1,E2)が産生される。その後ウイルスのプロテアーゼによって、非構造蛋白質NS2,NS3,NS4A,NS4B,NS5A,NS5Bに切断される。フラビウイルス科に属する。

D型肝炎ウイルス

1977年Rizzettoらにより、HDVがコードする唯一の蛋白であるδ抗原抗体系が発見された。HDVはhepadonavirus遺伝子、または蛋白質の存在下でその生物活性を示す特殊な肝炎ウイルスである。直径36nmの大きさでHBVの表面蛋白抗原で覆われ、約1.7kbの環状一本鎖RNAとδ抗原蛋白質を内蔵している。D型肝炎はHDVがB型肝炎ウイルスキャリアーに重感染するか、あるいはB型急性肝炎に同時感染して生じる。

E型肝炎ウイルス

HEVのウイルスゲノムは1989年、HCVとほぼ時期を同じくして同定された。直径約30nmのウイルス外被を持たない小型のRNAウイルスである。患者あるいは感染サル糞便を用いた免疫電子顕微鏡では、27~34nmの粒子として観察される。HEVゲノムは約7.2kbのプラス一本鎖RNAで、3'末端にポリアデニル基を持っている。この中には、5'末端からORF1,ORF3,ORF2の順にORFが一部重複しながら配列している。ORF1は非構造蛋白質をコードし、N末端側からメチルトランスフェラーゼ、システインプロテアーゼ、RNAヘリカーゼ、RNA依存RNAポリメラーゼのモチーフがある。ORF2は構造蛋白をコードしている。

診断

A型急性肝炎

HAVは経口感染性であることから、貝類の生食などの病歴聴取は重要である。血清学的診断としてはIgM型HAV抗体の測定が有用である。IgM型抗体は発症後1週間目から出現し(60~70%)、3~4週間目に抗体価が最高値となり、以後次第に低下する。また、糞便中のHAV、あるいはHAV-RNAの検出によっても同定可能である。

B型急性肝炎

B型急性肝炎では、潜伏期間中にHBs抗原、HBe抗原,HBV-DNA,DNAポリメラーゼなどが検出される。発症後、トランスアミナーゼの上昇とともにIgM型HBc抗体、IgG型HBc抗体の順に血液中に出現する。B型急性肝炎の早期診断にはHBs抗原、IgM型HBc抗体の検出が有用であるが、両マーカー陰性例において(TMA法による)HBV-DNAの陽性例が半数近く認められたとの報告もある。また、IgM型HBc抗体の測定はキャリアーの急性発症とB型急性肝炎との鑑別に有用とされているが、鑑別に苦慮する症例も散見され、臨床経過の追跡が重要である。

C型急性肝炎

A型やB型急性肝炎と異なり、C型急性肝炎については未だIgM系抗体の有用性が認められておらず、抗原-抗体系での診断法が確立してない。従来より主としてIgG型抗体を測定するものとしてcore蛋白質に対する抗体(JCC-2,C22c)、NS4蛋白に対する抗体(C100-3)が用いられてきたが(第一世代)、現在ではC100-3とコア蛋白質領域およびNS3領域を抗原として組み合わせ検出感度が上昇した第二世代、さらにNS5領域の抗原も含めた第三世代の抗体測定系がスクリーニング検査としてきわめて有用となっている。しかし、C型急性肝炎では、HCV抗体が陽性化する以前にHCVのゲノムであるHCV‐RNAを検出し得ることから(window period;ウインドウ期)、HCV-RNAの測定(RT-PCR法)がその早期診断に必須である。

D型急性肝炎

臨床所見のみから他のウイルス性肝炎と鑑別するのは困難で、HDVの血清動態を十分理解した上での血清マーカー測定が重要である。通常、同時感染(coinfection)ならびに重複感染(superinfection)とも血清HBs抗原陽性、anti-HD陽性であるが、同時感染ではIgM型anti-HBc陽性・anti-HBc陰性または低力価陽性であり、血清anti-HDは発症早期には低力価である。一方、重複感染では血清IgM型anti-HBc陰性・anti-HBc高力価陽性であり、血清anti-HDは発症早期から高力価となる傾向にある。また、HDVのゲノムであるHDV-RNAの検出は早期診断に有用である。

E型急性肝炎

肝炎発症時の糞便あるいは血清からHEV‐RNAを抽出し、ORF1のRNA依存性RNAポリメラーゼ領域、あるいはORF2の3'末端をPCRで増幅して検出する方法が一般的である。さらに武田らは、HEVのVLP(virus-like particle;ウイルス中空粒子)を免疫抗原として作製した高度免疫血清を用いて、ウイルス抗原検出に有用なELISAを開発した。

臨床症状

A型肝炎、E型肝炎では突然発熱し、それが数日間持続し、その間食欲不振、全身倦怠感、悪心・嘔吐、右季肋部痛、濃色尿、下痢などが見られ、引き続き黄疸も認められるようになる。これらの症状は1~2週間程度で軽減する。一般的に、A型肝炎では38度以上の高熱になることが多い。

B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎では比較的徐々に食欲不振、全身倦怠感、悪心・嘔吐、右季肋部痛、上腹部膨満感、濃色尿などが見られるようになり、引き続き黄疸も認められるようになる。一般的に、C型肝炎では黄疸などの症状が軽く、D型肝炎では発症が比較的急である。

A型肝炎、E型肝炎では通常AST、ALTは単峰性の上昇を示して1~2カ月で正常化し、一過性感染である。しかし、A型肝炎の約1%が劇症化し、その約4割が死亡する。E型肝炎では妊婦で劇症化しやすく、その1~3割が死亡する。B型肝炎は感染年齢により予後が異なり、乳幼児の感染では無症状のままキャリア化することが多い。一方、成人の感染ではそのほとんどが一過性で1~2カ月で治癒する。しかし1%は劇症化し、その約6~7割は死亡する。免疫状態が正常な成人で感染した場合にはキャリア化することは少ない。乳幼児および成人のキャリアの一部が慢性肝炎となる。

C型肝炎では通常AST、ALTは多峰性の変動を示し、6割以上がキャリアとなり、数十年かけて肝硬変、肝癌へと進展する。C型肝炎で治癒する例は急性肝炎で認められているものの、一度慢性肝炎になってから自然治癒する例はまれである。D型肝炎はB型肝炎とともに存在するが、D型肝炎とB型肝炎と同時に感染した場合には、まずD型肝炎、続いてB型肝炎が発症するため、重症化、劇症化することが多いが、キャリア化はまれである。しかし、B型肝炎患者がD型肝炎を発症した場合には、多くがキャリア化する。

治療・予防

治療はいずれの急性肝炎でも対処療法のみであるが、劇症肝炎の場合には血漿交換、人工肝補助療法、肝移植などの特殊治療が必要となる。
A型肝炎、E型肝炎ウイルスの感染経路は経口感染であり、ウイルスに汚染された食物、水の摂取により罹患することが多いので、予防には手洗い、飲食物の加熱が重要である。またA型肝炎にはHAワクチンが有効である。日本人の大半はA型肝炎ウイルスに対する抗体がないので、流行地に出かける人はワクチンを接種することをすすめる。
B型肝炎ウイルスの感染経路には、血液の他に母子感染や性感染がある。母子感染については、予防策としてキャリア母からの新生児に高力価HBs抗体含有免疫グロブリン(HBIG)とHBワクチンの投与が行われており、母子感染の発生はほとんどなくなった。
C型肝炎ウイルスの主な感染経路は血液であり、母子感染、性感染は、極めてまれと考えられている。
D型肝炎ウイルスでは性感染などに注意が必要で、場合によりHBワクチンが有効である。

感染症法における取り扱い(2012年7月更新)

「A型肝炎」、「E型肝炎」は全数報告対象(4類感染症)であり、診断した医師は直ちに届け出なければならない。
B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎は「ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」に含まれ、全数報告対象(5類感染症)であり、診断した医師は7日以内に届け出なければならない。
届出基準はこちら(外部サイトにリンクします)

(国立感染症研究所ウイルス第二部 相崎英樹 鈴木哲朗)

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