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エムポックスの発生状況とその暫定評価

国立健康危機管理研究機構

2025年9月8日時点

1.エムポックスの概要

 エムポックスは、モンキーポックスウイルス(別名 エムポックスウイルス:MPXV)感染による急性発疹性疾患である。感染症法では4類感染症に位置付けられている。もともとアフリカ中央部から西部にかけて発生報告があり、欧米でも常在地域からの渡航者等での感染事例が散発的に報告されていたが、2022年5月以降は主に男性間での性的接触を行う男性(Men who have sex with men: MSM)を中心としたクレードIIエムポックスウイルスによるエムポックスの国際的な流行が発生し、2022年7月に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC: Public Health Emergency of International Concern)に該当すると宣言された。このPHEICは2023年5月にPHEICに該当しない旨が宣言された。また、2023年以降はコンゴ民主共和国(DRC)を中心としてアフリカ地域で主にクレードIのエムポックスウイルスの流行が報告され、2024年8月に再度PHEICに該当すると宣言された。

2.エムポックスの発生状況について

 1.国外での発生状況

 2022年1月1日以降2025年7月31日までに138か国から158,425例の検査確定例と399例の死亡例が報告された。日本を含む世界的な流行を見せているのは2022年に流行の始まったクレードIIbであり、以前と比較して報告数は減少したものの、MSMを中心とした散発的な報告が持続している。一方でアフリカでは複数の国でクレードIa、Ib、IIが報告されており、特にクレードIaとIbはコンゴ民主共和国および近隣国を中心に、クレードIIは2021年以前からエムポックスが報告されていたアフリカ中央部から西部を中心に報告されている。

クレードIの致命率は、過去の報告では最大で11%とクレードIIよりも高いと報告されていたが、今回の流行では適切な支持療法を行うことで、クレードIaで1.4%-1.7%、クレードIbで1%以下になると報告されており、アフリカ以外の地域で診断された渡航関連のクレードI症例でも死亡例は報告されていない。また、特にクレードIaの流行地域では医療アクセスや栄養状態の悪い環境が背景にある。2022年以降の世界的なクレードIIbの流行における致命率は0.3%と報告されており、クレード間での致命率の差は過去の報告よりも小さい。症状はいずれのクレードでも全身もしくは性器周辺の皮疹と発熱が多く報告されている。感染経路はアフリカ地域ではいずれのクレードも家庭内での接触、性別を問わない性的接触が多く、アフリカ地域以外でのクレードIIbは男性間の性的接触が多いと報告されている。

 2.国内での発生状況

 国内では2022年7月25日以降2025年8月24日(令和7年第34週)まで、感染症発生動向調査において254例の報告があり、2025年は3例が報告されている。国内でゲノム解析が実施され、GISAIDに登録された116検体すべてがクレードIIbであり、クレードIは報告されていない。1例を除き男性であり、HIV感染による免疫不全のあった1例で死亡が確認されている。症状、感染経路についても世界的なクレードIIbの報告と同様の傾向である。

3.エムポックスの暫定リスク評価

  • 感染リスク:クレードIa及びIbはアフリカの一部の国では小規模な感染が続いているが、報告数が減少している。アフリカ外の国での市中感染は確認されていない。クレードIIbは散発的な報告がみられているが、全世界的に報告数が減少している。いずれのクレードも主な感染経路は性的接触で、一部家庭内での濃厚接触による感染も報告されている。
  • 重症化リスク:当初クレードIはクレードIIと比較して致命率が高いという報告があったが、今回の流行では疫学的にいずれのクレードでも致命率は過去の報告より低く、適切な支持療法により低下すると報告された。また、アフリカ外でのクレードIによる死亡例の報告もない。クレードに関わらず、免疫不全がある場合には重症化リスクが高い。

4.推奨される対応

 2024年8月に宣言された2回目のPHEICは解除となるが、定常的勧告に従って対策が継続される必要がある。流行国では引き続きリスク行動を避ける必要がある。クレードIに関する知見が蓄積し、クレードによる致命率や感染・伝播性等の差は顕著ではないと考えられることから、クレード別に異なる対応を行う必要はないと考えられる。国内では散発的な報告があることから、発生動向を注視しつつ、疾患に関する啓発や相談体制を確保するとともに、免疫不全がある場合には重症化するリスクが高いことに留意して、適切な診断、治療体制を提供することが重要である。


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