黄熱
更新作業中のため、ページの一部に古い情報が含まれる場合があります。
(IDWR 2002年第23号掲載)
黄熱はサル、ヒトおよび蚊を宿主とし、蚊によって媒介される疾患である。ヒトが感染すると致命率は高いが、回復すると終生免疫を残す。現在でもアフリカ、南米などで地域的流行が発生しており、旅行者が罹患することもある。
疫学
北緯15度と南緯15度に挟まれたアフリカの熱帯地方には黄熱の浸淫地帯が広がっている(図1)が、例外はジブチ、ソマリア北部、マダガスカルなど媒介蚊(Aedes)を駆逐した都市である。アメリカ大陸の熱帯地方では、北はパナマから南緯15度に至るまで広がっており(図2)、雨季に発生が多い。特にアマゾン川流域の熱帯雨林に接した国々で地域流行を起こし、毎年のように患者発生があり、旅行者の感染事例もある。患者発生数は、南米とアフリカを合わせて年間約20万人といわれている。WHOが把握している患者数は表1の如くであるが、必ずしも正確な患者数を把握していない。アジアと太平洋地域には黄熱は存在しないが、少なくとも都市部には、媒介蚊のAedes aegyptiが生息するため伝播状況が整っている地域もある。
第二時世界大戦後の大きな流行としては、西ナマで始まりメキシコで終息した中米の流行(1949~1956)、トリニダード(1954)、エチオピア(1960~1962)、セネガル(1965)、ナイジェリア(1969)、ブルキナファソ(1969と1983)、アンゴラ(1971)、シエラレオネ(1975)、ガーナ(1977~1979と1983)、ガンビア(1978~1979)などの流行がある。また、最近の5年間で流行をみた国はボリビア、ブラジル、コロンビア、ペルー、セネガル、リベリア、ガーナ、コートジボアールなどである。
図1.アフリカ大陸における黄熱の浸淫地域(WHO資料)
図2.南アメリカにおける黄熱の浸淫地域(WHO資料)
年次 | 1990 | 1991 | 1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 1998 | 1999 | 2000 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
患者数 | 4,336 | 2,712 | 295 | 393 | 1,439 | 74 | 424 | 190 | 303 | 208 | - |
死亡者数 | 410 | 751 | 102 | 117 | 491 | 247 | 223 | 89 | 117 | 101 | - |
病原体
黄熱は、日本脳炎と同じフラビウイルス属のウイルスによってひきおこされる。
黄熱の主要な脊椎動物の宿主はサルとヒトである。アフリカでは主にアフリカミドリザルが感染するが、中南米では多種類のサル(リスザル、マーモセット、ホエザル、クモザルなど)が感染し、感染した場合それらのサルの致命率は高い。
蚊は媒介動物であり、また保有宿主でもある。霊長類嗜好性のAedes属(主としてアフリカ)、Haemagogus属(主としてアメリカ大陸)などのいろいろな種が関与するが、Aedes aegyptiが主たるものである。したがって、日本脳炎とは媒介蚊が異なる。節足動物中でのウイルスの増殖には4~10日を要し、それ以前には感染力はない。
臨床症状
潜伏期
通常3~6日である。偶発的な実験室内感染では、10~13日とより長い潜伏期の例が報告されている。
軽症黄熱
発熱と頭痛が突然出現するが、鼻カタル症状のない点を除けばインフルエンザに類似している。症状は頭痛、発熱、悪心・嘔吐、結膜充血、蛋白尿などであるが、1~3日で回復する。
重症黄熱
感染期、緩解期、中毒期の3段階に明確に分けられる臨床経過が特徴である。緩解期はわずか数時間程度である。発病は頭痛、眩暈、高熱で突然はじまり、第2病日までにはFagetの徴候(高熱にもかかわらず脈拍数は48~52/分の徐脈)が現われる。黄熱の古典的3徴候は、黄疸、出血(鼻出血、歯肉出血、下血、子宮出血)、蛋白尿(高度の蛋白尿であっても浮腫・腹水をきたすことは稀)である。その他の症状として、嘔吐、結膜充血、顔面紅潮、せん妄などがある。
検査所見
病初期には進行性の白血球減少(主として好中球の減少)がみられるが、第10病日までには正常化する。血小板数は正常または減少する。黄疸がある症例では凝固時間、プロトロンビン時間、部分トロンボプラスチン時間などが顕著に延長する。総ビリルビン(直接ビリルビン)の増加、GOTの顕著な増加(特に黄疸例)もみられる。脳脊髄液は正常である。
病原診断
ウイルス分離は発症後3日以内に採取された血液検体から最もよくなされる。検体を蚊の培養細胞またはオウカの胸部に接種するか、あるいはPCR法を用いて遺伝子を検出する。血清学的検査としては、ペア血清を用いたプラック減少中和試験、黄熱IgM抗体の検出などが特異的な検査法である。ただし、中和試験は判定に時間がかかる(約1週間)のが欠点である。
治療・予防

治療としては対症療法のみである。発病すれば致命率は20%と高い。したがって、ワクチン接種による予防が最も重要である。
黄熱ワクチンのワクチン株は、Max Theilerが、1927年にAsibiという名の患者から分離された黄熱ウイルスを種々の培養初代細胞で頻回継代し、最終的に鶏胎児胚細胞で増殖させて弱毒化したものである。これを発育鶏卵に接種して弱毒生ワクチンが作られる。実際に日本で使用されているワクチンは米国Connaught社から輸入したものである。これは凍結乾燥品であり、使用直前に添付の生理食塩水に溶解して0.5mlを皮下注射する。国内で黄熱ワクチンの接種が行われている施設は表2のごとくである。
表2.黄熱ワクチン接種機関
黄熱ワクチンは、歴史的・世界的に非常に副反応の少ない安全性の高いワクチンとして知られている。しかし、発育鶏卵に接種して作られているので、卵アレルギーでは禁忌である。また、2001年にCDCから7例の重い副反応(6例が死亡)について、2001年には雑誌「ランセット」にやはり4例(3例は死亡)の重大な副反応に関する報告がなされた。臨床症状は発熱、頭痛、筋痛症、肝機能障害、呼吸不全、意識障害(錯乱)、多臓器不全などであった。
黄熱の汚染地域を有する国に入国するときは、ワクチンの接種証明書を求められることがある。現在、接種が要求される国は表3のごとくであるが、最新の情報は渡航前に国内の検疫所(表2)に問い合わせることが勧められる。
アフリカ | アンゴラ、ベナン、ブルキナ・ファソ、カメルーン、ガボン、ガンビア、ガーナ、ギニア、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネ、スーダン、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、コートジボワール |
---|---|
南アメリカ | ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、仏領ギアナ、ペルー、ベネズエラ |
感染症法における取り扱い(2012年7月更新)
全数報告対象(4類感染症)であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。
届出基準こちら(外部サイトにリンクします)
(国立感染症研究所ウイルス第一部 高崎智彦)