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ブドウ球菌食中毒

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黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、歴史的にはKoch(1878年)が膿汁中に発見し、Pasteur(1880年)が培養に成功したとされている。ブドウ球菌は、「Bergey's Manual of Determinative Bacteriology」の7版(1957年)では、S.aureus(黄色ブドウ球菌)とS.epidermidis(表皮ブドウ球菌)の2菌種に過ぎなかったが、その後新しい菌種が次々と追加され、1997年現在、28菌種、10亜種に及んでいる。この中で特に黄色ブドウ球菌は、化膿巣形成から敗血症まで多彩な臨床症状を引き起こし、種々の市中感染症、新生児室感染症、院内感染症、および毒素性ショック症候群等の起因菌となる。特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、院内感染や術後MRSA腸炎の原因となり、重要な問題となっている。さらに、黄色ブドウ球菌は食品中で増殖すると、エンテロトキシンと呼称される毒素を産生し、ブドウ球菌食中毒の原因となる。

このように、黄色ブドウ球菌は多彩な疾患の原因となるが、今回は、毒素型食中毒の代表であるブドウ球菌食中毒について記述する。

疫学

黄色ブドウ球菌は、ヒトを取り巻く環境や各種の哺乳動物、鳥類等に広く分布している。特に、健康者の鼻、咽頭、腸管等に分布し、健康者の本菌保有率は20~30%であるとされている。

1971年から1997年までのわが国におけるブドウ球菌食中毒数の年次推移を示す複合グラフ。棒グラフで総食中毒発生件数を、折れ線グラフでブドウ球菌食中毒発生件数とその発生率を表示。

図1ブドウ球菌食中毒事例の年次推移(1971-1997)

わが国の過去29年間のブドウ球菌食中毒事例の年次推移を図1に示した。1984年までは年間200事例以上の発生がみられていたが、1985年以降経年的に漸次減少し、1985年には163事例、1991年には95事例、1995年には60事例となり、年間の事例数は劇的に減少している。ブドウ球菌食中毒の全食中毒事例に占める割合は、1984年以前は25~35%であったが、1985年以降25%以下となり漸次減少傾向を示し、1995年には約10%、1997年には3%まで減少した。その理由は、ブドウ球菌食中毒の最大の原因食品であった「にぎりめし」による食中毒が激減したためであると考えられている。しかし、2000年に大規模発生した雪印ブドウ球菌食中毒事件のように、小さな事故から想像もできない大事件に発展する可能性もある。

黄色ブドウ球菌の型別法として実用化されている方法には、ファージ型別とコアグラーゼ型別法がある。わが国で食中毒の疫学解析に応用されているのは、コアグラーゼ型別法であり、本法は、黄色ブドウ球菌が産生するコアグラーゼ(抗原性のあるタンパク)を利用した型別法で、現在1~0型の10種類に型別可能である。黄色ブドウ球菌食中毒事件由来株では、その約70%が7型であり、その他、多い順に3型、2型、4型である。近年、これまでほとんど食中毒の起因菌とならなかった4型菌による事例も増加傾向にある。

病原体

ブドウ球菌食中毒は、黄色ブドウ球菌が食品中で増殖する時に産生するエンテロトキシンを、食品と共に摂取することによって起こる毒素型食中毒である。

エンテロトキシンは分子量27,000前後の単純蛋白質で、トリプシンなどの消化酵素や熱に対して抵抗性があり、抗原性の違いから現在A~L型までが報告されている。食中毒事件中、最も発生件数の多いエンテロトキシン型はA型で、A+B型、A+D型を合わせると、80%以上はA型に関連している。また、エンテロトキシンはT細胞を特異的に活性化し、短時間に多種類のサイトカインを大量産生させる作用があり、「細菌性スーパー抗原」とも称されている。ヒトでエンテロトキシンによる発症に必要な量は、エンテロトキシンBでは25~50μgと考えられていたが、加工乳などの事件では200ng以下のエンテロトキシンAで発症していることも報告されている。

実験動物スンクス(Suncus murinus)の腹腔内にエンテロトキシンAを投与すると、約90分後に嘔吐が周期的に複数回みられ、この嘔吐は腹部迷走神経切断処理、セロトニン受容体拮抗薬の前投与、さらにセロトニン枯渇薬の前処理等により抑制された。これらの結果から、エンテロトキシンAによる嘔吐の発症に、セロトニンが深く関わっていることが明らかにされている。また、イヌ結紮十二指腸ループ内にエンテロトキシンAを投与すると、約90分後に腸液の分泌亢進がみられ、約150分後にピークに達し、約210分後に正常に戻った。ループ内外の組織を透過電顕で観察すると、腸クロム親和細胞(EC細胞)にだけ顆粒の変化がみられた。さらに、免疫組織化学的観察にて、セロトニンの染色性が低下していることが観察されている。これらの研究結果は、ブドウ球菌食中毒の特徴的な症状である嘔吐と下痢は、エンテロトキシンがEC細胞からのセロトニン分泌を誘発することによって起こる生体反応であることを強く示唆している。

臨床症状

黄色ブドウ球菌は、食品中で増殖する時エンテロトキシンと呼称される毒素を産生する。エンテロトキシンが産生された食品を喫食すると、約3時間後に激しい嘔気・嘔吐、疝痛性腹痛、下痢を伴う急激な急性胃腸炎症状を発する。毒素量などの違いにより症状には個人差がみられるが、まれに発熱やショック症状を伴うこともある。重症例では入院を要する。一般には予後は良好で、死亡することはほとんどなく、通常1日か2日間で治る。

2000年に発生した患者数13,000名を超える雪印ブドウ球菌食中毒事件では、原因食品が加工乳などであったため、対象者が成人、子供、老人、病人など様々で、その症状も嘔気・嘔吐、下痢の他に、多彩な臨床症状がみられている。

病原診断

ブドウ球菌食中毒の検査では、まず、原因食品、糞便、吐物、拭き取り等の検査材料から黄色ブドウ球菌を分離する。そして、疫学的にブドウ球菌食中毒を証明するためには、分離菌株のエンテロトキシン産生性を調べ、コアグラーゼ型別を実施する必要がある。ブドウ球菌食中毒と判定するためには、分離された菌株が健康保菌者由来でないことを慎重に判断することが重要である。

また、ブドウ球菌食中毒は毒素型食中毒であり、原因食品から直接エンテロトキシンを検出できる場合もある。原因食品から直接正確に、そして簡易・迅速にエンテロトキシを検出することが可能であれば、短時間にブドウ球菌食中毒を決定することができる。雪印ブドウ球菌食中毒事件では、原因食品である加工乳などから黄色ブドウ球菌は検出されず、エンテロトキシンAのみが、加工乳1ml当たり0.05ng以上検出された。この様に、黄色ブドウ球菌は加熱により死滅するが、耐熱性であるエンテロトキシンが食品中に検出される食中毒事例も、数は少ないが報告されている。

現在、わが国で入手可能な市販のエンテロトキシン検出用キットの概略を表1に示した。これらの中には、エンテロトキシンをA型~E型に型別できるキットと、型別できないがA型~E型のいずれかのエンテロトキシンが存在するか否かを検査するキットがある。雪印ブドウ球菌食中毒事件の原因食品である加工乳などからのエンテロトキシン検査では、エンテロトキシン濃度が低いために、種々の方法で濃縮や除蛋白などの前処理が必要であった。前処理は時間を費やし、さらに検査精度を低下させる危険性もある。今後、加工乳の品質保証のためにエンテロトキシン検査を行うには、簡便で、高感度の検査法の開発が要求される。

ブドウ球菌食中毒を決定するためには、患者の発症までの潜伏時間や臨床症状の他に、以下の検討が必要となる。

  1. 患者便から高率に黄色ブドウ球菌が検出される。
  2. 食品残品から黄色ブドウ球菌が検出される。
  3. 1および2で検出された黄色ブドウ球菌がエンテロトキシン産生性であり、コアグラーゼ型が一致する。
  4. 食品の残品から直接エンテロトキシンが検出される。

特に、小型球形ウイルス(SRSVまたはNLV)等によるウイルス性嘔吐・下痢症の場合にも、患者便からある程度の割合(30%程度)で黄色ブドウ球菌が検出されることが多いので、黄色ブドウ球菌が検出された事実のみで本菌による食中毒と決定することはできない。

表1.市販されている無道ブドウ球菌エンテロキシン検出用キット
商品名 取り扱い会社 検出感度 所要時間
SET-RPLA「生研」 デンカ生研株式会社 1-2ng/ml 18-20時間
バイダスSET 日本ビオメリュー株式会社 0.25-1ng/ml 80分
黄色ブドウ球菌毒素 ELISA kit SETVIA48(TECRA製) セティ カンパニー リミテッド 1ng/ml 約4時間
黄色ブドウ球菌毒素 ELISA kit R4101(R‐Biopharm製) 同上 1ng/ml 約4時間
トランジアプレートブドウ球菌エンテロトキシン(Diffchamb製) メルク・ジャパン株式会社 0.25-1ng/g 約90分
RIDA スクリーン黄色ブドウ球菌エンテロトキシン アヅマックス株式会社 0.2-0.7ng/ml 約3.5時間

治療・予防

本菌による食中毒患者への特別の治療法はなく、補液と対症療法を行い経過をみる。下痢止めは使用しない。予後は良好で、1日か2日で回復する。

予防には、食品製造業者や食品製造従事者への衛生教育の啓発が大切である。手洗いの徹底、食品の10℃以下での保存、手指に化膿巣のある人は食品を直接触ったり、調理しない。さらに調理にあたっては、帽子やマスクを着用する。そして、食品製造から消費までの時間を短縮することを心掛ける。

食品衛生法での取り扱い

食中毒が疑われる場合は、24時間以内に最寄りの保健所に届け出る。

(東京都立衛生研究所微生物部 甲斐明美、
国際学院埼玉短期大学食物栄養科 五十嵐英夫)

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