プレジオモナス・シゲロイデス感染症
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プレジオモナス(Plesiomonas)は、Ferguson&Hendersonが1947年に病歴不明のヒト糞便から初めて分離した。本菌はfamily Vibrionaceae(ビブリオ科)のPlesiomonas属に分類されるが、本属に含まれる菌種はPlesiomonas shigelloides(プレジオモナス・シゲロイデス)のみである。プレジオモナス・シゲロイデスはヒト下痢症との関係が最も注目され、わが国では1982(昭和57)年に新たな食中毒菌に指定された。本菌による下痢症のほとんどは散発例で、現在は海外渡航者下痢症の主要な原因菌となっているが、汚染食品または水による集団発生例の報告もある。
疫学
プレジオモナス・シゲロイデスは淡水域の常在菌で、河川、湖沼およびそこに生息する魚介類等に分布している。本菌感染症の発生は、それら自然環境の本菌による汚染が直接または間接に影響し、菌の増殖が活発な夏期に多い。本菌の分離率は、地域、年、季節、検査方法などによって異なるが、全体的に熱帯および亜熱帯地域の開発途上国で高い。わが国において散発的に下痢症から分離されるプレジオモナス・シゲロイデスのほとんどは渡航者由来であり、本菌は渡航者下痢症の主要な原因菌となっている(表)。この渡航者下痢症からの本菌の分離は他の病原菌との同時分離例が多いことも特徴である。
年 | 1998 | 1999 | ||||
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種別 | 下痢現症者 | 下痢既往者・健康者 | 合計 | 下痢現症者 | 下痢既往者・健康者 | 合計 |
検査件数 | 304 | 589 | 893 | 84 | 74 | 158 |
病原菌陽性者(%) | 165(54.3) | 187(31.7) | 352(39.4) | 54(64.2) | 23(31.1) | 77(48.7) |
検出病原菌 | ||||||
毒素原性大腸菌 | 79 | 63 | 142 | 30 | 7 | 37 |
カンピロバクター | 28 | 34 | 62 | 9 | 4 | 13 |
病原大腸菌・血清型 | 14 | 17 | 31 | 6 | 7 | 13 |
プレジオモナス | 29 | 27 | 56 | 7 | 2 | 9 |
サルモネラ | 17 | 35 | 52 | 6 | 2 | 8 |
エロモナス | 32 | 38 | 70 | 5 | 2 | 7 |
腸炎ビブリオ | 10 | 9 | 19 | 2 | 2 | 4 |
コレラ菌(毒素産生) | 5 | 1 | 6 | 3 | 0 | 3 |
赤痢菌 | 5 | 6 | 11 | 2 | 0 | 2 |
ナグビブリオ | 0 | 2 | 2 | 1 | 0 | 1 |
コレラ菌(毒素非産生) | 2 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 |
ベロ毒素産生性大腸菌 | 1 | 1 | 2 | 0 | 0 | 0 |
組織侵入性大腸菌 | 1 | 1 | 2 | 0 | 0 | 0 |
注:同一検体から複数菌が検出される例があるので、病原菌陽性者数と検出病原菌数とは一致しない。
開発途上国で発生する本菌下痢症の散発例や、それらの地域への渡航者下痢症の発症には水系感染も疑われるが、わが国における集団発生例の原因のほとんどは魚介類およびその加工品である。わが国ではこれまでに12例(うち1例は飲料水が推定原因)のプレジオモナス・シゲロイデスによる食中毒または集団下痢症が報告されており、最近では2000年6月、静岡県内の飲食店で患者数36名の食中毒事例が報告された。
一方、本菌の腸管外感染もまれではなく、新生児の敗血症および髄膜炎、成人の敗血症および蜂巣炎などの原因菌として報告されたが、いずれも新生児または基礎疾患のある患者における日和見感染である。
病原体
プレジオモナス・シゲロイデスはグラム陰性の通性嫌気性桿菌で、菌体の一端に2ないし数本の鞭毛を持つ。明らかな莢膜はみられないが、大部分の菌株には生菌のO凝集を阻止する易熱性の莢膜様物質がある。はじめ本菌はShigella sonneiと同一の菌体抗原(O抗原)を保持することで注目されたが、現在では98種類の菌体抗原(O抗原)と49種類の鞭毛抗原(H抗原)が確認され、これらのO抗原の中にはS.sonneiに限らず他の赤痢菌との共通抗原の存在も明らかにされている。プレジオモナス・シゲロイデスの病原性については多くの説があり、しばしば議論されているが結論は得られていない。現在のところ本菌が下痢症の原因菌とされる理由は、下痢患者と健康者からの本菌の出現頻度が下痢患者において顕著に高いという点である。
臨床症状
臨床症状の主なものは下痢と腹痛であるが、主徴は下痢で、腹痛は一般に軽度である。喫食から発症までの潜伏時間は通常10~20数時間であるが一様でない。下痢は1日数回程度、便性状は通常水様性であるが軟便であることも多い。発熱はほとんどみられず、あっても微熱にとどまる。散発例ではまれに赤痢様あるいはコレラ様症状のみられるときもあり、脱水症状、アシドーシスに陥ることもある。しかし、多くの患者は下痢のみの軽症のため、発症から2~3日で回復する。
病原診断
軽度の急性胃腸炎であることが多く、確定診断には糞便からの菌の分離が必要である。糞便からのプレジオモナス・シゲロイデスの分離培養検査には、赤痢菌やサルモネラの選択分離培地であるSS培地およびDHL寒天培地などを適用できる。本菌はこれらの培地上で赤痢菌とよく似た形状の集落を作り、しかも生化学的性状の代表的な確認培地であるTSI寒天培地の所見も同様である。さらに前述したように、プレジオモナス・シゲロイデスの一部の菌株は赤痢菌と共通のO抗原を保持し、赤痢菌診断用抗血清に凝集するので注意を要する。赤痢菌との鑑別には、オキシダーゼ、リジン脱炭酸、運動性の各試験を行なえばよい。なお、本菌の血清型別は国立感染症研究所において実施できる。
治療・予防
軽症例はあえて特別な治療をしなくても自然に治癒する。しかし、新生児や基礎疾患のある患者、他の菌種との混合感染の患者は重症になることもあり、抗菌薬の投与が必要になる。プレジオモナス・シゲロイデスは多くの抗菌薬、特にニューキノロン系(ノルフロキサシンは乳児で、他は小児全てに禁忌)、セファロスポリン系、ナリジクス酸(3カ月以下の乳児への投与は禁忌)に感受性であるが、アンピシリン、カナマイシン、ストレプトマイシンには耐性株がみられるので使用を避けた方がよい。
プレジオモナス・シゲロイデス感染症の予防は、一般の細菌性食中毒の予防法と同様である。なかでも特に注意すべきことは、給水施設の衛生管理が不十分な水を飲用しないことである。本菌の汚染が考えられる水あるいは魚介類からの調理食品の二次汚染を防止する。また、開発途上国への旅行者および滞在者は、生水を摂取しないように十分注意することである。
食品衛生法での取り扱い
食中毒が疑われる場合は、24時間以内に最寄りの保健所に届け出る。
(神奈川県衛生研究所細菌病理部 山井志朗)