コクシジオイデス症
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2025年4月1日現在
国立感染症研究所
(2025年4月1日 改訂)
コクシジオイデス症は、Coccidioides immitis または Coccidioides posadasii という真菌によって引き起こされる感染症です。これらの真菌は、アメリカ合衆国南西部(特にカリフォルニア州、アリゾナ州)、メキシコ西部および中南米の一部の乾燥した土壌に生息しており、これらの地域が流行地とされています。
疫学
深在性真菌症の原因真菌は、健常者にも感染症を引き起こす高病原性真菌と呼ばれるものと、主として免疫不全患者に感染症を引き起こすもの(日和見感染症)に大別できます。多くの真菌は後者に属しますが、前者に属する真菌の代表的な菌種として、クリプトコックス属や、主として海外の流行地域で感染し帰国後に発症する形式の輸入真菌症の原因真菌であるコクシジオイデス属、ヒストプラスマ属、ブラストミセス属などが挙げられます。これらは地域流行型真菌症とも呼ばれます。
コクシジオイデス症は感染症法における四類感染症に分類され、診断後直ちに全数届出が義務付けられています。Coccidioides immitis は特定病原体等の三種病原体に指定されており、Coccidioides posadasii も同様の注意が必要です。
コクシジオイデス症の流行地域は、主として米国南西部(カリフォルニア州、アリゾナ州、テキサス州、ネバダ州、ユタ州など)とメキシコ西部の半砂漠地域であり、その他、中南米でも発症例の報告があります。これら半砂漠地域の土壌中に生息するコクシジオイデス属の分節型分生子(図1)という感染力の強い胞子を吸入することにより発症します。強風や土木工事などで土壌が掘り返されると、胞子が土埃と共に空気中に舞い上がり、それを人が吸い込むことによって感染します(経気道感染)。
図1 Coccidioides posadasiiの分節型分生子
日本国内にはこの真菌は自然界には存在しないため、コクシジオイデス症は主に流行地への渡航者に見られる「輸入真菌症」です。ヒトからヒトへの感染はありません。感染しても約6割の人は症状が出ない「不顕性感染」となります。
感染症発生動向調査によると、2012年第1週~2023年第48週の期間中、日本国内では患者34例の届出がありました。性別は男性22例、女性12例と男性が多く、年齢別では20代が13例と最多でした。推定感染地域は米国が31例(うち、19例がアリゾナ州、8例がカリフォルニア州)であり、大半を占めました。残り3例のうち2例は海外における感染(メキシコ1例、ニカラグア1例)ですが、1例は国内での発症です。しかし、国内発症例は、以前にコクシジオイデス属の検体を扱った経験のある人に生じたものであり、日本国内にコクシジオイデス属が土着しているわけではありません。
コクシジオイデス属菌は病原性が非常に高く、特に培養された菌は実験室内で容易に感染を引き起こすため、取り扱いにはBSL3(バイオセーフティレベル3)の厳重な管理が必要です。
臨床症状
コクシジオイデス症の症状は、感染した真菌の量や感染者の免疫状態によって様々です。本疾患に特異的な症状はないことから、流行地で発症するも診断されずに経過し、帰国後に診断される例が時に存在するため注意を要します。主な病型には以下のものがあります。
急性肺コクシジオイデス症(Acute pulmonary coccidioidomycosis)
感染後1~3週間で発症することが多く、発熱、咳嗽、胸痛、頭痛、関節痛、倦怠感など、インフルエンザや風邪に似た症状が現れます。皮疹を伴うこともあります。「渓谷熱(Valley fever)」とも呼ばれる病態で、多くは自然に治癒しますが、症状が長引くこともあります。
慢性肺コクシジオイデス症(Chronic pulmonary coccidioidomycosis)
急性期の症状の後、咳嗽、喀痰、微熱などが数ヶ月以上にわたって続く状態です。肺に結節や空洞が形成されることがあります。感染者の約5%がこの状態に移行するとされています。日本では帰国後にこの病型で発見されることが多いです。
播種性コクシジオイデス症(Disseminated coccidioidomycosis)
感染者の約0.5%とまれですが、真菌が肺から血液に乗って全身(皮膚、骨、関節、髄膜(脳や脊髄を覆う膜)など)に広がり、重篤な病態を引き起こします。
重症化リスク
AIDS患者、臓器移植を受けた方、ステロイドや免疫抑制剤(TNF阻害薬など)を使用中の方、糖尿病や心疾患を持つ方など免疫抑制状態にある方や、妊婦(特に後期)、特定の民族(有色人種)では、播種性への進展や重症化のリスクが高まります。診断
診断には、臨床症状、流行地への渡航歴、画像検査(胸部X線、CTなど)に加えて、以下の検査が行われます。実験室内感染のリスクが高いため、検査は専門的な知識と設備を持つ施設で行うことが重要です。
分離培養
喀痰、気管支肺胞洗浄液(BALF)、肺や皮膚などの生検組織、脳脊髄液などの検体から、原因菌であるコクシジオイデス属菌を分離し培養します。培養に用いる寒天培地は通常のシャーレではなく、フィルターキャップ付きチューブ内に斜面培地を作製し、25°Cで培養します。白色の綿毛状のコロニーが特徴です。培養された菌は感染リスクが極めて高いため、BSL3施設での厳重な管理下で行う必要があります。
菌株の遺伝子同定
培養で得られた菌株、または喀痰などの臨床検体から直接抽出したDNAを用いて、PCR法により菌に特有の遺伝子領域(rRNA遺伝子のITS領域、D1/D2領域など)を増幅し、その塩基配列を解析することで菌種を特定します。C. immitis と C. posadasii を区別するための特異的なプライマーも用いられます。国際的なデータベースと比較し、99%以上の類似度で同定します。
病理組織学的検査
肺や皮膚などの生検組織を採取し、特殊な染色(PAS染色、Grocott染色など)を行って顕微鏡で観察します。組織内では、特徴的な「球状体(spherule)」と呼ばれる内部に多数の内生胞子(endospore)を含む円形の構造や、球状体から放出された内生胞子などが認められます。喀痰などの検体でも球状体が見られることがありますが、確定診断には組織検査が有用です。
免疫学的診断法
患者の血液(血清)や脳脊髄液を用いて、コクシジオイデス属菌に対する抗体を検出する検査です。感染初期にはIgM抗体、少し遅れてIgG抗体が産生されます。免疫拡散法、ELISA法、ラテラルフロー法などの方法があります。市販のキットも利用可能ですが、国内での保険適用はありません(2025年時点)。現在、臨床現場で利用できる抗原検出キットはありません。
令和7年4月1日
梅山 隆、阿部雅広、宮澤 拳、上野圭吾、宮崎義継
(国立感染症研究所 真菌部)