性器ヘルペスウイルス感染症
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(IDWR 2002年第51号)
性器ヘルペスウイルス感染症(genital herpes simplex virus infection 、以下性器ヘルペス)は、単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染によって性器やその周辺に水疱や潰瘍等の病変が形成される疾患である。感染症法下では4類感染症定点把握疾患に分類されている。感染はHSVに感染している相手との性交によって起こり、相手の性器に明らかな病変がある場合のみならず、無症状でも性器の粘膜や分泌液中にウイルスが存在する場合には感染する。また相手の唾液中にHSVが排出されている場合には、口唇性交によっても感染する。抗ヘルペスウイルス剤を服用すれば病変はいったんは治癒するが、HSVは一度感染すると神経節に潜伏し、時に再活性化し、患者はその後長年にわたって再発を経験する。
疫学
HSVは古くからヒトに蔓延しているウイルスで、感染様式は大きく2分される1)。
1)幼少期に周囲のHSV 感染者から唾液等を通じて感染し、口内や口唇その他上半身に水疱・潰瘍を生じる。2) 一方、思春期以降、性行為によって性器に感染し、病変を形成する。1)の様式で感染する者は多く、生活環境によっても異なるが、集団の感染率は通常、成人に達するまでに50~80%に達する。2の場合の性感染症(STD;sexually transmitted disease)としての病態が性器ヘルペスである。HSVには2種類の型があり、口、手指等の上半身に感染するのは主に1型(HSV-1)、性器等の下半身に感染するのは主に2型(HSV-2)であるが、この棲み分けは厳密なものではなく、性器ヘルペスの病変からも、口唇性交等によって感染したHSV-1が多数分離される。無症候性感染者の多い性器ヘルペスの侵淫度を調べる手段としては、HSVに対する抗体を検出する血清疫学が有用であるが、HSV-1抗体は幼少時の感染によるものと区別できないため、性器ヘルペスの指標には用いられない。HSV-2固有の蛋白(gG-2)を抗原とした型特異抗体測定法を用いて抗HSV-2抗体が検出された場合のみ、性器ヘルペス(2型)と推定できる。わが国の様々な集団について抗HSV-2抗体の保有率を調べると、その程度は明らかに性行動の活発さに比例しており、一般妊婦等では10%前後であるが、コマーシャルセックスワーカーにおいては80%にも達している2)。米国では、1990年代前半の調査で3)、12歳以上の国民の21.9%が抗HSV-2抗体を保有しており、70年代の調査に比べると30%も増え、特に12~19歳の若年齢層では5倍に急増している。
性器ヘルペスの問題は、1)繰り返し再発する、すなわち根治が困難であるため、患者にとって精神的苦痛が大きい、2)感染しても発症せず、無症状でウイルスを排出している場合が多く(70~80%)、本人も疾患に気づかないまま次の相手に移してしまう、すなわち予防が困難である、の2点に集約される。また、妊婦が性器ヘルペスに罹患し、出産時にウイルスを排出していた場合には、新生児がHSVに感染し、重篤な新生児ヘルペスを発症する危険性が高い 1)4)。さらに、性器に潰瘍性病変を有すると、エイズの原因となるヒト免疫不全ウイルスを移したり、移されたりする可能性が高まることが知られており、エイズのコントロールの上でも重要な問題となっている5)。しかし、現状では性器ヘルペスの撲滅あるいは制圧は非常に難しく、性の自由化が進む中で、先進国、開発途上国を問わず世界的に増加の一途をたどっている3)。
病原体

写真:単純ヘルペスウイルス2型の電子顕微鏡像
単純ヘルペスウイルス1型および2型;Herpes simplex virus(HSV)type 1 and type 2である。ヘルペスウイルス科、アルファヘルペス亜科に属するHSVは外径120~130nmの球状ウイルスで、外側から順にエンベロープ、テグメント、カプシド、コアの基本構造をもつ 1)(写真)。約15万塩基対の二本鎖線状DNAを有し、約80の蛋白をコードしている。
生物、化学、物理学的性状の違いからHSV-1とHSV-2の2型に分けられるが、いずれも局所粘膜から感染すると、増殖して局所に病変を形成すると同時に知覚神経を上行して、口腔周辺の感染では三叉神経節、性器周辺の感染では仙髄神経節へ入って潜伏状態に入るのが特徴である。宿主の免疫が低下する等の何らかの刺激があると、再活性化して神経を下行し、前とほぼ同じ場所にふたたび病変を形成するが、その間のメカニズムは明らかになっていない。
臨床症状
外部から入ったHSVの初感染によって起こる初発(急性型)と、潜伏感染していたHSVの再活性化によって起こる再発(再発型:過去に性器ヘルペスの病変を経験している場合)、および非初感染初発(誘発型:過去に感染していたが無症状で、免疫低下を契機としてウイルスが活性化し、初めて病変を経験する場合)の3種類の臨床型に分けられる6)。急性型が症状はもっとも重い。感染機会があってから2~21日後に外陰部の不快感、掻痒感等の前駆症状ののち、発熱、全身倦怠感、所属リンパ節の腫脹、強い疼痛等を伴って、多発性の浅い潰瘍や小水疱が急激に出現する。病変部位は男性では包皮、冠状溝、亀頭、女性では外陰部や子宮頚部である。髄膜炎を合併することもある。無治療では、治癒までに2~4週間近く要する。女性では排尿困難や歩行困難のため、入院加療を余儀なくされることもある。
再発型は、心身の疲労、月経、性交その他の刺激が誘因となって起こるが、急性型に比べて病変は小さく数も少ない等症状は軽く、1週間以内に治癒することが多い。再発の回数は月2~3回から年1~2回と様々である。HSV-2による場合の方がより再発しやすい。年を重ねるにつれ、再発の回数は減少してくるのが一般的である。誘発型では、免疫低下の程度によってはかなり高度の症状を呈する。
病原診断
診断にはウイルス分離がもっとも確実であるが、病変部からのウイルス抗原の直接証明も簡便で、迅速に結果が得られる。直接検出する場合は、水疱や潰瘍病変からウイルス感染細胞を綿棒で採取し、スライドグラスに塗抹する。HSV-1、HSV-2各々の型特異蛋白を標的としたモノクローナル抗体を用いて、蛍光抗体法により同定を行う7)。
通常用いられる補体結合や中和等の血清診断法では、幼少時にHSV-1に感染している人においてHSV-1による抗体の交差反応を除外できないため、性器ヘルペスを診断するのは難しい。HSVに対して初感染の場合のみ、急性期と回復期のペア血清で有意の抗体上昇によって診断することが可能である。また、HSV-2型特異抗体が検出される場合も、2型性器ヘルペスに罹患していると推定できる。HSVは同一個体において幼少期のHSV-1感染、青年期以降の性器へのHSV-1、HSV-2感染、再発による病変形成といった様々な病態を取り得るので、血清抗体から病態を鑑別するのは困難である8)。
治療・予防
性器ヘルペスの治療にはアシクロビル(商品名ゾビラックス)を用いる9)。急性型等症状が強い場合には、経口または静注による全身療法を行う。経口剤としては、アシクロビル200mgの錠剤を1日5錠、5日間投与する。副作用がほとんどなく、また耐性ウイルスも、免疫不全者でない限りわが国では見つかっていない。再発型のような軽い症状に対しては軟膏タイプでもよい。
性器ヘルペスの予防は、HSVを排出している相手との直接の性的接触を避ける以外に方法はないが、性器や口腔にはっきりした病変があればまだしも、無症状でウイルスを排出している場合も多いので、なかなか困難である。パートナーがHSVを保有していないことが確実な場合以外、予防のためにはコンドームを使用すべきである。ただし、病変が広範囲にわたる場合にはコンドームを用いても防ぎきれるものではない。ワクチンはまだ開発されていない。
感染症法における取り扱い(2012年7月更新)
定点報告対象(5類感染症)であり、指定届出機関(全国約1,000カ所の泌尿器科、産婦人科等の性感染症定点医療機関)は月毎に保健所に届け出なければならない。
届出基準はこちら(外部サイトにリンクします)
文献
- ヘルペスウイルス科.医学ウイルス学(White DO,Fenner FJ編、第4版,北村敬訳)近代出版.1996 p.283-309
- わが国における単純ヘルペスウイルス2型特異抗体の保有状況.橋戸円他.医学のあゆみ1990 152:669-70
- Age-Specific Prevalence of Infection with Herpes Simplex Virus Types 2 and 1:A Global Review.Smith JS,et al.JID 2002 186 suppl 1:S3-S28
- 新生児ヘルペス.森島恒雄.ヘルペスウイルス感染症(新村眞人・山西弘一編)中外医薬社1996 p.144-151
- Herpes simplex virus type 2 and other genital ulcerative infections as a risk factor for HIV-1 acquisition.Keet IP et al.Genitourin Med 1990 66:330-3
- 性器ヘルペスウイルス感染症―男性.廣瀬崇輿,同―女性.川名尚,感染症の診断・治療ガイドライン日医会誌1999 122:232-235
- 蛍光標識モノクローナル抗体(MicroTrak Herpes)による単純ヘルペスウイルス感染症の診断.川名尚他.感染症会誌1987 61:1030-7
- ヘルペスウイルスの血清診断.橋戸円.ヘルペスウイルス感染症(新村眞人・山西弘一編).中外医薬社.1996 p.68-75
- Progress in Meeting Today's Demands in Genital Herpes:An Overview of Current Management. Patel R. JID 2002 186 suppl 1:S47-S56
(国立感染症研究所感染症情報センター)
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