新型コロナウイルス感染症患者が使用したリネン類等を扱う時の感染リスクと安全かつ効果的なクリーニング方法
(速報掲載日:2021/4/30)(2022年3月8日黄色部分改訂)(IASR Vol. 42 p121-123:2021年6月号)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、飛沫感染、接触感染、特殊な状況下での空気感染を起こす1)。患者が使用したリネン類等は、その回収やクリーニングをする際の感染リスクが不明であり、宿泊療養施設や病院では、一様に破棄されていることが少なくない。そこで、これら施設において、患者使用後のリネン類等を扱う際の感染の可能性と、様々な洗濯方法における感染性のあるウイルス残留に対する効果を調べた。
検体採取の対象施設を、無症状者や軽症者が入所する宿泊療養1施設と、軽症から中等症の患者が入院する1病院(通常病床と陰圧室)として、様々な検体採取と分析を実施した。患者のウイルス排泄確認のため、入所・入院翌日(Day1)とDay3の鼻咽頭検体で、ともにSARS-CoV-2 RNAが検出された人を対象とした。接触感染のリスクに関する評価のため、感染者が使用したシーツ、ワンピース型寝間着、枕カバー、かけ布団カバー、バスタオル、フェイスタオルの表面より、Day1から1日おきにDay7までウイルス輸送液入りのふきとり検査用キットを用い検体を採取した。表面から検体を採取したリネン類等の素材は綿または、綿・ポリエステル混合であった。また、リネン類等の回収直後および患者鼻咽頭検体採取後に、担当者が着用していた個人防護具(personal protective equipment:PPE)〔N95マスク、ゴーグル、ガウン上部(胸部)、ガウン下部(膝部分)〕表面から25cm2の範囲で検体を採取した。飛沫空気感染のリスクに関する評価のため、窓等を閉め切ったCOVID-19患者が居住していた室内で、リネン類等の回収前(ベースライン)と回収後に空気検体2,000Lを、MD8とゼラチンフィルターを使用したエアサンプリング法を用いて採取した。Day1とDay3に使用済みのリネン類等を水、洗剤および柔軟剤を用いて洗濯、続いて80度熱湯に10分浸す処理、および30分間(5分間から30分間へ改訂)次亜塩素酸ナトリウム250ppm浸漬処理を行った後のすすぎ水を500mL採取し、ポリアクリル酸沈澱法により250倍に濃縮して検体とした。RNAの調製は0.2mLの検体から磁気ビーズによる自動抽出・精製装置を用いて行い、ウイルス検査はN2領域を標的とするリアルタイムRT-PCRにより行った2,3)。ウイルス分離はCt値34未満の検体について、ろ過滅菌した0.1mLを12ウェルプレートで培養したVeroE6/TMRPSS2細胞に接種して7日間培養した。細胞変性効果が確認できなかった場合には、培養上清0.1mLを接種材料として同様の培養を2代行った。
宿泊療養施設から6人、病院から7人の計13人を調査対象とした。属性は女性7人(54%)、年齢中央値46歳(四分位範囲33-55歳)、8人(62%)が有症状軽症者で、残りは無症状であった。宿泊療養施設の4人、病院の4人が使用したリネン類等からSARS-CoV-2 RNAが検出された。検出頻度はシーツ、ワンピース型寝間着、枕カバー、かけ布団カバーからが8-29%、バスタオルとフェイスタオルからが4-8%であり、各リネン類等の総検出割合は宿泊療養施設と病院で頻度に違いを認めなかった(表)。Ct値34未満の検出は宿泊療養施設ではDay5まで、病院ではDay3まで確認された。しかし、それらの検体からウイルスは分離されなかった。PPEのうち、ガウン上部1検体(2%)、ガウン下部5検体(10%)の計6検体からRNAが検出されたが、N95マスクとゴーグルからは検出されなかった。鼻咽頭検体採取後のPPEからRNAは検出されなかった。空気検体では、宿泊療養施設(回収前4、回収後7)のほうが病院(回収前2、回収後3)より高頻度に検出されていた〔回収後29%(7/24)vs 11%(3/28)〕が有意ではなかった。PPE検体と空気検体から検出されたSARS-CoV-2のCt値はいずれも34以上であった。洗濯後のすすぎ液では、水洗いでRNAの検出なし、洗剤洗いで1検体(20%、Ct値40)、柔軟剤洗い1検体(17%、Ct値37)でRNAが検出された。
本研究で、患者周囲にあるリネン類等は一定頻度で汚染されていることが確認された。ウイルス分離が可能と考えられるCt値34未満の検体は4)、入院または発症5日目以降は確認されなかった。無症状や軽症-中等症患者のリネン類等を扱う際は、少なくとも入院または発症5日目までは、感染性があるSARS-CoV-2が付着しているリネン類等が患者周辺に存在している可能性があると考えられた。環境表面で3日間はウイルスが分離されることが報告されていることから5)、入院または発症5日目に加え、さらに3日程度は、長袖ガウンと手袋着用および手指衛生の遵守が重要であると考えられた。リネン類等の交換時に空気中へウイルスが舞い上がる可能性が示されたが、感染性が疑われるCt値のSARS-CoV-2がリネン類等に付着している場合でも、空気検体から感染する可能性のあるウイルス量のSARS-CoV-2は確認されなかった。リネン類等の交換担当者が着用していたN95マスクやゴーグルからRNAが検出されなかったことからも、リネン類等に付着したSARS-CoV-2を吸い込むことによる感染リスクは小さいと考えられた。ただし、感染性のあるSARS-CoV-2が付着している可能性があるリネン類等を扱う際は、十分な換気を行いつつ、使用していた患者と接する可能性も考慮し、サージカルマスクと眼の防護具の着用が重要である。リネン類等を水で洗った場合にウイルスが検出されていないこと、どの方法でもすすぎ液中から検出された場合はCt値34以上であったことから、いかなる洗剤を使っても家庭用洗濯機で、標準的な時間で洗浄すれば、洗濯後のリネン類等を扱うことによる感染性リスクは低いと推察した。また、安全に運搬し洗濯機に入れることができるのであれば、COVID-19患者が使用したリネン類等の洗濯前の熱湯消毒や化学消毒は必ずしも必要ないと考えられた。なお、ドライクリーニングとウェットクリーニングは評価していない。
今回得られた知見をもとに、リネン類等を破棄せずに安全に洗濯していくことで、資源を有効に活用することができると考えられた。
参考文献
- Gandhi RT, et al ., N Engl J Med 383: 1757-1766, 2020
- 空港検疫所における新型コロナウイルス感染症(新規変異株)の積極的疫学調査(第1報)(2021年4月16日現在)
- Shirato K, et al ., Jpn J Infect Dis 73: 304-307, 2020
- Singanayagam A, et al ., Euosurveillance 25(32): 2001483, 2020
- Doremalen N, et al ., N Engl J Med 382: 1564-1567, 2020
国立感染症研究所薬剤耐性研究センター 山岸拓也 黒須一見
同安全実験管理部 花木賢一
国立国際医療研究センター国際医療協力局
法月正太郎
国際医療福祉大学 未来研究支援センター
藤田 烈
済生会横浜東部病院TQMセンター感染管理対策室
大石貴幸