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IASR 43(6), 2022【特集】蚊媒介感染症, 2012年1月~2022年3月

公開日:2022年6月22日

(IASR Vol.43 p125-128:2022年6月号)

蚊はハエ目カ科に分類され、世界に約3,600種類、日本に112種類が記録されている(2014年現在)。多くの種は吸血性を示す(雌成虫のみ)。これら多様な蚊種のうち、一部がヒトに関連する病原体の伝播を担っている(表1)(PDF:640KB)。吸血によって蚊の消化管内に取り込まれた血液中に、その蚊に感染可能な病原体が含まれていた場合、病原体は消化管上皮細胞へ感染・増殖し、体腔側の組織・器官へ感染が拡大される、あるいは増殖をともなわずに体腔側へ移行する。いずれの場合においても、病原体は蚊の消化管から体腔を介して2日~3週間ほどで唾液腺に達し、蚊は病原体を媒介できる状態となる。この状態の蚊が脊椎動物から吸血する際、病原体は唾液とともに脊椎動物の血管内へ入る。

主要な感染症媒介蚊の特徴

蚊が病原体を媒介する能力は、蚊の種類はもちろんのこと、病原体の種類、吸血時に取り込んだ病原体の量によっても規定される。蚊体内での増殖速度は病原体により異なり、短期間で増殖する病原体ほど感染が広がりやすいと一般的に考えられる。例えば、チクングニアウイルスの蚊体内の増殖速度は速く、取り込まれた後、2日で蚊の唾液腺から検出されるのに対し、ウエストナイルウイルスの同期間は7~10日である。流行の程度を左右する媒介蚊の要因としては、蚊の生息密度や吸血嗜好性、吸血源動物との接触頻度、蚊の発育・生理に影響する気温等が影響するものと考えられる。例えば、都市環境に生息し発生密度が高く、ヒトとの接触・吸血頻度が高いヒトスジシマカは、病原体を媒介する可能性が高い。それに比べ、都市環境には好適な発生源の少ないハマダラカは、わが国の都市域で感染症を拡大させる可能性は低いものと思われる。また、昆虫の発育は基本的に外環境(気温や日長など)に依存しており、そのため気温が変化すると、幼虫の発育期間や成虫の寿命が変化することが知られている。ヒトスジシマカが幼虫から成虫に発育する期間は、夏季(日平均気温27℃前後)では10~12日であるが、より気温が低い春先(4月)や晩秋(10月)(日平均気温15-20℃前後)では、30~50日を要することもある。

蚊の生息域は外環境により変化する。ヒトスジシマカの定着には年間平均気温11℃以上が必要とされ、地球温暖化にともなって国内分布域は北上している。北限は、1948年頃は栃木県、1996年頃は秋田県から宮城県、2009年は岩手県、2015年は青森県と確認された(IASR 41:92-93,2020)。また世界的にデング熱の主要な媒介蚊であるネッタイシマカは、かつては亜熱帯気候区に属する琉球列島と小笠原諸島に生息していた。温帯気候区に属する九州以北では、熊本県天草地方で1944~1952年まで9年間の生息が確認されている。しかし、1970年代以降は琉球列島や小笠原諸島を含めて採集されておらず、現時点ではわが国での分布は確認されていない。一方、国内の国際空港では侵入したネッタイシマカやその子孫が頻繁に捕獲されている。本種幼虫の発育可能温度等から、種子島以南などの亜熱帯気候区において定着する可能性がある(IASR 41:91-92,2020)。この他の蚊についても、津波、台風、洪水等の自然災害により滞水環境が増えると、それが蚊の発生源となることがある。東日本大震災後、東北地方において複数の種類の蚊が新たな発生源から多数捕集されており、津波被害の影響と考えられた。気候変動にともなう世界的な蚊の生息域拡大による、蚊媒介感染症の増加が懸念される。

都道府県等では、媒介蚊の発生状況を継続的に監視している(本号5ページ)。蚊の生息好適地においては、流行地域からのヒトの流入機会等から監視場所を決定し、成虫の飛来密度や種類の同定、季節性推移を調査する。成虫の病原体保有調査や、幼虫調査(種類、個数、発生源)を行うこともある。また検疫所では国際空港と海港を対象に、日本に定着していない蚊の侵入を監視している(本号6ページ)。

感染症発生動向調査における蚊媒介感染症

これまで20以上の蚊媒介感染症が知られており、このうち11疾患が感染症法上の4類感染症・全数把握対象疾患として発生状況を監視されている(表2)。これまでに届出のあった6疾患の報告状況は以下の通りである()。

日本脳炎患者届出数は、近年では年間最大10例程度で、すべて国内感染例である(IASR 38:151-152,2017)。感染地域は西日本に多く、これは主な媒介蚊であるコガタアカイエカの生息密度分布と一致している。ブタにおける感染が毎年確認されており(感染症流行予測調査)、依然として国内で感染する可能性がある。

デング熱患者数は世界的に増加しており、これは流行地の熱帯・亜熱帯地域における都市への人口集中等が原因とされる。2019年以前は、流行国から日本への渡航者数や日本から流行国への渡航者数が増加傾向にあり、海外で感染し国内で診断・届出される症例(輸入例)が増加し、2019年には過去最多の462例が届出された(およびIASR 36:33-35,201541:89-90,2020)。2020年以降、届出数は減少し(2020年は44例、2021年は7例)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行に対する出入国制限の影響と考えられた。国内感染により拡大した事例として、1940年代に東南アジア地域からの復員兵が持ち込み感染者数20万人規模に達した流行、2014年の都内公園における約160名の集団発生がある。

チクングニア熱の流行地域は拡大している(表3)。日本では2006年に初めて輸入例が確認された。2011年に届出疾患に規定されて以降、2012~2018年は年間4-17例が報告されている。2019年には、ミャンマーにおける流行にともない、同国を感染地域とする輸入例が32例届出された。2020年の届出数は3例、2021年は0例であった。

ジカウイルス感染症は2000年代後半より、流行地域の拡大と大規模な流行が報告されている。日本では2013年に初めて輸入例が確認され、2016年に届出疾患に規定されて以降、これまでに21例が届出された。

マラリア原虫はかつて日本に土着し、1940年代には年間2万人の患者発生がみられていたと推測される。1960年頃より土着性の感染伝播はみられず、近年の届出はすべて輸入例である(IASR 39:167-169,2018)。2012~2019年の届出数は年間40-70例程度であり、2020年は19例、2021年は29例であった。

ウエストナイル熱は、2005年に輸入例が1例届出された。

今後、COVID-19流行に対する出入国制限の緩和にともない、再び輸入例は増加すると予想される(本号8ページ)。デング熱、チクングニア熱、ジカウイルス感染症は、輸入例を発端に国内伝播、流行が起こる可能性がある。媒介蚊が都市部を含む国内広範囲に分布し、ヒトとの接触頻度が高いためである。一方、マラリア、ウエストナイル熱はその可能性が低い。マラリアの媒介蚊は国内の都市部には生息しておらず、ヒトとの接触頻度が低い。またウエストナイル熱は、ヒトでの血中ウイルス量が少ないため、ヒト→蚊→ヒトの感染環が成立しない。ウエストナイル熱の感染経路は、野鳥→蚊→ヒトと想定される。

蚊媒介感染症への対応として、平常時は媒介蚊や患者の監視、感染リスクが高い場所における成虫対策や幼虫発生源の除去、個人の予防(防蚊対策、ワクチン)、海外の流行状況の把握等、が重要である。また患者の早期発見や治療も、感染拡大防止に寄与する。患者発生時は、迅速な情報共有(都道府県等、国、住民)、積極的疫学調査による感染経路の究明、必要に応じて推定感染地域における蚊の密度調査や駆除を行うこと、が重要である。

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