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IASR 44(2), 2023【特集】動物由来感染症

公開日:2023年2月28日

(IASR Vol.44 p19-21:2023年2月号

動物由来感染症とは

病理学の父R. Virchowはヒトに感染する動物の病気を「zoonosis[zoon(動物の)-osis(病気)]」と呼んだ。世界保健機関(WHO)と国際連合食糧農業機関(FAO)の合同専門家会議(1958)では「本来ヒトとヒト以外の脊椎動物の両者の間を伝播する性質を有する微生物による感染と疾病」と定義された。「人獣共通感染症」と訳されることが多いが、厚生労働省では、特にヒトの健康問題を中心に考え「動物由来感染症」を用いている(IASR 26: 193-194、2005)。

動物由来感染症の感染経路には、直接接触(咬まれる、引っ搔かれる等)、ベクター媒介(蚊、ダニ、シラミ等)、環境媒介(病原体で汚染された水、土壌)、食品媒介(病原体で汚染された食品)等がある(表1)。一方、ヒトから動物へ伝播する感染症も知られている(本号4ページ)。

新興・再興感染症としての動物由来感染症

近年、世界の様々な地域で新しい感染症が認知され、公衆衛生上の問題となっている(新興感染症)。1970年以降、200以上の新興感染症が報告され、経年的な増加が指摘されている。またこのうち、約75%は動物由来感染症とされる(表2本号5ページ)。新たな動物由来感染症の出現につながる要因として、土地開発にともなう自然環境の変化、気候変動による野生動物の生息域の変化、国際的なヒトと動物の移動、等があげられる。ヒトと動物の距離が近くなると、動物の保有する病原体に感染する機会が生じる。新たにヒトに感染するようになった病原体がヒトからヒトへ伝播し、ヒトの間で感染が拡大する場合は特に公衆衛生上の問題となる〔新型コロナウイルス感染症(COVID-19)〕。

再興感染症は既に認知されている感染症のうち、いったん減少したものの再び増加し始めた感染症をいう。再興感染症には、狂犬病、ジフテリア等が含まれる。

狂犬病はLyssaviruses(特にRabies lyssavirus)による感染症であり、患者の99%は感染したイヌからの咬傷による。ウイルスは清浄国と南極を除く全世界に分布し、患者の発生はアジアやアフリカで多い。感染地域の拡大(マレーシア、台湾)や、イヌ以外の宿主(タヌキ、イタチアナグマ等)が報告されており、新たな課題である。ワクチン接種や免疫グロブリン投与により発症の予防が可能な疾患であり、流行国で動物から咬傷を受けた場合の曝露後ワクチン接種が重要である(本号6ページ)。

ジフテリアは、ジフテリア毒素を産生するCorynebacterium diphtheriaeによる感染症であり、ヒトからヒトへ感染する。一方、Corynebacterium ulceransCorynebacterium pseudotuberculosisのジフテリア毒素を産生する菌株により、ジフテリア様の症状を呈することがあり、これらはネコ、イヌ等の動物からヒトに感染する。国内で感染した患者も報告されており、発生状況等の把握が重要である(本号7ページ)。

注視するべき動物由来感染症

動物由来感染症の分野横断的な課題に対し、ヒト、動物、環境の衛生にかかわる者が連携して取り組むOne Healthアプローチという考え方が広まっている。WHO、FAO、国際獣疫事務局(OIE)は、2004年の合同会議において、地域ごとに注視するべき動物由来感染症をあげた。日本を含む西太平洋地域においては、鳥インフルエンザ、狂犬病、日本脳炎、レプトスピラ症、等が含まれる。

日本脳炎はJapanese encephalitis virusによる感染症であり、増幅動物であるブタ等から蚊を介してヒトに感染する。気候変動にともなう媒介蚊の生息域拡大により、これまで非流行地であった地域における患者の発生が懸念されている〔オーストラリアにおける2022年以降の集団発生(IASR 43: 135-137、2022)〕。国内の患者届出は、ワクチン接種と蚊の対策等により1970年代以降に減少しているが、ブタにおける感染は毎年確認されており、依然として国内で感染する可能性がある(本号9ページ)。

レプトスピラ症はLeptospira spp.による感染症で、菌はげっ歯類等の哺乳類の腎臓に定着し尿中に排出される。ヒトは菌を含む尿に直接接触したり、尿に汚染された水・土壌を介して皮膚や粘膜から感染する。気候変動にともなう洪水や降雨量の増加により、感染機会は増えていると考えられる(IASR 39: 202-203、201841: 102、2020)。国内感染例が年間数十例届出されており、流行地域に関する情報共有が重要である(本号11ページ12ページ)。

感染症法に基づく動物由来感染症の届出

動物由来感染症は、WHOの分類で200種以上とされ、このうち日本に存在する疾患は数十種類程度と考えらる。動物由来感染症の一部が感染症法に基づく届出疾患である(表13)。近年届出数が増加している疾患に、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、回帰熱、E型肝炎、等がある(表1)。

SFTSはDabie bandavirus(SFTS virus: SFTSV)による感染症で、主にマダニにより媒介されるが、発症したイヌ・ネコから飼い主等への感染も確認されている(本号13ページ)。届出は、5~10月のマダニが活発になる時期に多く、60代以上が89%を占めた(IASR 40: 111-112、2019)。西日本の27府県におけるヒトの感染が届出されているが()、不明熱患者に対して行った遡り調査では関東地方における感染例も確認された(IASR 42: 150-152、2021)。またSFTSVを保有するマダニは全国で確認されている。

回帰熱はBorrelia spp.による感染症であり、ダニやシラミにより媒介される。古典型回帰熱と、2011年に新たに発見された回帰熱ボレリアによるBorrelia miyamotoi disease(BMD)が知られている。2013年に国内感染のBMDが届出(IASR 34: 305、2013)されて以降、届出数は増加している()。2013年第1週~2022年第48週に届出された79例中78例が国内感染例であり、推定感染地域は北海道(77例)、新潟県(1例)であった。

E型肝炎はHepatitis E virusによる感染症であり、加熱不十分な肉や肝臓等の喫食(ブタ、イノシシ等)、インド、中国等の流行国における汚染された水の飲用等により感染する。届出数は2013~2019年にかけて増加し、近年は年間400-500例程度である(IASR 42: 271-272、2021)。無症状病原体保有者の届出が2020年以降に増加しているが(2013~2019年の年平均報告数は16例、2020~2022年の同報告数は85例)、献血検体のE型肝炎ウイルス検査が2020年より全国で導入されたことと関連している可能性がある(IASR 42: 276-277、2021)。2013年第1週~2022年第48週における、人口10万人当たり届出数は北海道が11と最多であった(人口情報は、2017年の人口推計を使用)。なお、北海道では、2005年より献血検体の検査を実施している。

おわりに

今後も新たな動物由来感染症が発生する可能性は高い。ヒトは他の多くの動物と共生しているということを忘れずに、国内外の監視体制、発生時対応、予防法の整備、等を行っていくことが重要である。

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