コンテンツにジャンプ
国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
言語切り替え English

トップページ > サーベイランス > 病原微生物検出情報(IASR) > IASR特集記事 > 小児のB型肝炎ウイルス感染疫学と今後の課題

小児のB型肝炎ウイルス感染疫学と今後の課題

公開日:2023年3月30日

(IASR Vol.44 p37-38:2023年3月号

B型肝炎(HB)ワクチンの定期接種によって、2016年4月1日以降に出生したすべての人が乳児期にワクチン接種を受けるようになった。将来的には、成人の急性B型肝炎や肝硬変、肝がんは大幅に減ると期待される。本稿では、日本における小児を対象にしたB型肝炎ウイルス(HBV)感染予防の変遷と感染率調査の概要を記載し、今後の課題について考察する。

母子感染予防の始まり

日本ではHBVキャリアの主要な感染経路であった母子(垂直)感染に対して、世界に先駆けて1985年から母子感染防止事業が開始された。HBe抗原陽性の妊婦から出生した児にHBワクチンと抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)を用いる予防処置を行った。HBe抗原陽性キャリアの母親から生まれた児は高率にHBVキャリア化し、将来的に肝硬変、肝がんのハイリスク者になるので、まずこの集団が母子感染防止処置の対象とされた。当時は供給量の限られた血清由来のHBワクチンの時代で、対象を絞って大きな効果を上げる素晴らしい施策であった。実際、この処置が実施できれば、94-97%と高率に母子感染を防ぐことができる。母子感染防止事業開始前の調査で小児のHBs抗原陽性率は0.26%であったのに対し、開始後の1986年以降に出生した児では0.02-0.06%まで激減した1)

その後、HBe抗原陰性の妊婦から出生した児では重症肝炎を起こす場合があることが判明し、1995年からはHBVキャリアの母親から生まれた児全員に、健康保険によってHBIG投与とHBワクチン接種が行われるようになった。

定期接種前の疫学調査とHBワクチン定期接種導入

日本では、上記母子感染予防処置の普及により小児のキャリア率は世界と比べても低く、乳児に対する定期接種開始の要否が議論されていた。一方で、思春期以降の性感染だけでなく、小児期においてもHBV水平感染例が報告されている2)。定期接種の必要性を確認するために、小児HBV感染の実態調査を求められ、2013~2015年度に厚生労働科学研究費補助金による研究班で大規模疫学調査を行った3)。以下にその概要を示す。なお、これ以前の小児の疫学調査ではHBs抗原陽性率を調べることが多かったが、この調査では一過性感染の実態も知るためにHBc抗体陽性率もあわせて測定した。

小児期のHBV感染の全体像を把握するために、調査目的ごとにそれぞれ適切な集団を選んだ。すなわち1.一部地域における全数調査を目的に、小学4年生を対象とした小児生活習慣病予防健診の残余血清(岩手県・茨城県の学童15,787名)、2.HBV感染率の地域差や年齢差を明らかにするために、国立感染症研究所が全国から収集した血清(血清銀行)の3,000名、および3.多施設共同研究により成人に感染者が多いとされる大都市・北海道・九州地方を中心とした小児の病院受診者8,453名、からそれぞれ検体を得た。その結果、HBs抗原陽性率は9名/27,240名=0.033%(95%信頼区間: 0.011-0.055%)であり、小児のHBs抗原陽性率は、母子感染防止事業開始後25年以上経過しても減っていないことが判明した。HBs抗原陰性HBc抗体陽性率は125名/24,639名=0.51%であり、HBs抗原陽性者の10倍以上存在することから、一過性感染も比較的多いことが推測された。この陽性率に明らかな地域差、年齢差はみられず、小規模感染が散在しており、小児の通常の生活の中にもHBVに曝露される機会はあると推測された。また女性献血者のデータを用いて、田中らの数理モデル4)に準拠して計算したところ、若年献血者におけるHBVキャリアの感染経路は、母子感染予防処置開始前後で母子感染中心から水平感染中心へと変化しており、水平感染対策の重要性が明らかとなった。以上の結果から、これらの水平感染を防ぐことを目的にHBワクチンの定期接種が導入された。

最後に、定期接種前のHBワクチン接種率を推定するために、HBs抗原・HBc抗体ともに陰性の検体でHBs抗体保有率を検討した。結果は1歳53%、2歳28%であったが、これ以上の年齢では10%以下と極めて低く、定期接種開始前の出生児では、HBワクチンはほとんど接種されていないと考えられた3)

現在、厚生労働科学研究費補助金による研究班で定期接種開始後の小児におけるHBV感染疫学調査が進行中である。定期接種開始前と同様の検査法を用いて評価を行い、調査の途中ではあるが、定期接種開始後に出生した児におけるHBc抗体陽性率は減少傾向がみられている。

今後の課題と展望

2016年3月31日以前に生まれた児は、上述の通り、HBワクチン接種率は低い。性感染など感染リスクが上がる思春期前にキャッチアップ接種を行うことが重要である。また、母子感染予防の接種スケジュール(出生後すぐ、生後1か月、6か月)と定期接種対象者の接種スケジュール(生後2か月、3か月、7~8か月)が異なっており、母子感染予防処置を徹底するために注意が必要である。さらに高ウイルス量の母親から生まれた児では現行のHBV母子感染予防処置が不成功になることがあり、その対策が求められている。米国肝臓学会は母親のHBV DNA>200,000 IU/mLの場合には、在胎28~32週から分娩時または産後3か月まで、母親に対するテノホビルなどによる治療を推奨している5)

HBワクチン接種により一度抗体獲得がされれば多くの場合、30年以上にわたりキャリア化や肝炎発症は防げると報告されている。一方、抗体価が経年的に低下した場合、エスケープ変異株や異なる遺伝子型のHBV曝露により感染する可能性がある。長期的な課題として、HBワクチン低反応者、無反応者への対策とともに、このようなワクチン反応者におけるHBV感染の臨床的意義を明らかにし、医療従事者や家族内に感染者がいる等、感染ハイリスク者の経時的なHBs抗体検査や追加接種の必要性についても検討が必要である。

参考文献

  1. 白木和夫, IASR 21: 74-75, 2000
  2. 厚生労働科学研究費補助金, 肝炎等克服対策研究事業「B型肝炎の母子感染および水平感染の把握とワクチン戦略の再構築に関する研究」平成21(2009)~23(2011)年度総合研究報告書, 研究代表者 森島恒雄
  3. 厚生労働科学研究費補助金, 肝炎等克服対策研究事業「小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握とワクチン戦略の再構築に関する研究」平成25(2013)~27(2015)年度総合研究報告書, 研究代表者 須磨崎 亮
  4. Seto T, et al., Hepatol Res 44(10): E181-188, 2014
  5. Practice Guidances, Hepatology 73: 318-365, 2021

国立国際医療研究センター
酒井愛子 杉山真也 須磨崎 亮

PDF・Word・Excelなどのファイルを閲覧するには、ソフトウェアが必要な場合があります。
詳細は「ファイルの閲覧方法」を確認してください。