IASR 44(5), 2023【特集】腸管出血性大腸菌感染症 2023年3月現在
公開日:2023年5月26日
(IASR Vol.44 p67-68:2023年5月号)
腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)感染症はVero毒素(Vero toxin:VTまたはShiga toxin:Stx)を産生、またはVT遺伝子を保有するEHECの感染によって起こり、主な症状は腹痛、下痢および血便である。嘔吐や38℃台の発熱をともなうこともある。VT等の作用により血小板減少、溶血性貧血、急性腎障害を来して溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)を引き起こし、脳症などを併発して死に至ることがある。
EHEC感染症は感染症法上、3類感染症に定められている。本感染症を診断した医師は直ちに保健所に届出を行い(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html(外部サイトにリンクします))、保健所はその情報を感染症サーベイランスシステム(NESID)感染症発生動向調査に届け出る。医師が食中毒として保健所に届け出た場合や、保健所長が食中毒と認めた場合は、食品衛生法に基づき各都道府県等は食中毒の調査を行うとともに厚生労働省(厚労省)へ報告する。地方衛生研究所(地衛研)はEHECの分離・同定、血清型別、毒素型(産生性が確認されたVT型またはVT遺伝子型)別を行い、その結果をNESIDの病原体検出情報(IASS)に報告する(本号3ページ特集関連資料1)。国立感染症研究所(感染研)細菌第一部は地衛研から送付された菌株の血清型、毒素型の確認・同定を行うと同時に、反復配列多型解析(multiplelocus variable-number tandem-repeat analysis:MLVA)法、パルスフィールドゲル電気泳動法および全ゲノム配列情報を用いた単一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)解析による分子疫学的解析を行っている(本号6ページ)。これらの解析結果は各地衛研へ還元されるとともに、必要に応じて食品保健総合情報処理システム(NESFD)で各自治体等へ情報提供されている。
感染症発生動向調査
感染症発生動向調査の集計によると、2022年にはEHEC感染症患者2,265例、無症状病原体保有者(患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される)1,118例、計3,383例が届け出され(表1)、この数は2011~2019年までの届出平均数3,848例の87.9%(2020年は同80.3%、2021年は同84.2%)であった。例年と同様、夏期に届出が多かった(図1)。都道府県別届出数(無症状を含む)は、100名以上の届出のあった東京都、福岡県、神奈川県,大阪府、北海道、愛知県、千葉県、埼玉県、群馬県の上位9都道府県で全体の52.6%を占めた。人口10万対届出数では岩手県(6.2)が最も多く、宮崎県(6.2)、群馬県(5.9)がそれに次いだ(図2左)。0~4歳の人口10万対届出数では、宮崎県(73.2)、群馬県(28.6)、福島県(26.2)などが多かった(図2右)。届出に占める有症者の割合は男女とも20歳未満、および70歳以上で高かった(図3)。HUSを合併した症例は58例(有症者の2.6%)で、そのうち31例からEHECが分離された。O血清群(O群)の内訳はO157が24例、その他のO群が3例、不明が4例で、毒素型は不明6例を除いた24例がVT2陽性株(VT2単独またはVT1&2)、1例がVT1単独陽性株であった(本号8ページ表)。有症者のうちHUS発症例の割合が最も高かったのは5~9歳(5.2%)、0~4歳(5.0%)であった(本号8ページ図)。
地衛研からのEHEC検出報告
IASSへ地衛研から報告された2022年のEHECの菌検出数は1,583件であった(本号3ページ特集関連資料1)。この数は、医療機関や民間検査機関が保健所等からの依頼に応じて提出した菌株数の実績であるため、EHEC感染者届出数(表1)より少ない。全検出数における上位のO群の割合は、O157が57.6%、O26が15.2%、O103が5.4%であった(本号3ページ特集関連資料1)。毒素型でみると、例年同様、O157ではVT1&2が最も多く、O157の70.0%を占め、VT2単独は28.0%であった。O26およびO103は例年同様VT1単独が最も多く、それぞれ89.6%および97.7%を占めたが、O26では2022年後半からVT2単独陽性株による感染者数が増加している(本号7ページ図b)。EHECが検出された有症者1,069例の主な症状は、下痢81.4%、腹痛76.7%、血便54.3%、発熱24.1%であった。
集団発生
IASSには2022年も保育施設等におけるEHEC感染症集団感染事例が発生し、人から人への感染によるものと推定された(表2)。一方、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2022年のEHEC食中毒は8事例、患者数78名(菌陰性例を含む)、死亡1例であった(2019年は20事例165名、2020年は5事例30名、2021年は9事例42名)(本号4ページ特集関連資料2)。感染研細菌第一部での解析から、疫学的関連が不明な散発事例間で同一のMLVA typeを示す菌株が広域から分離されていることが明らかとなっている(本号6ページ&9ページ、10ページ、11ページ)。
予防と対策
牛肉の生食による食中毒の発生を受けて、厚労省は生食用食肉の規格基準を見直した(2011年10月、告示第321号)。さらに、牛肝臓内部からEHEC O157が分離されたことから、牛の肝臓を生食用として販売することを禁止した(2012年7月、告示第404号)。2012年には、漬物によるO157の集団発生を受けて、漬物の衛生規範が改正されている(2012年10月、食安監発1012第1号)。
EHECは少量の菌数(100個程度)でも感染が成立するため、人から人への経路、または人から食材・食品への経路で感染が拡大しやすい。例年同様、2022年も飲食店等を原因施設とする食中毒事例(本号4ページ特集関連資料2)が発生している。EHEC感染症を含む食品による危害を防ぐため、2020(令和2)年6月から原則すべての食品事業者に対して危害分析重要管理点(HACCP)に沿った食品衛生管理の実施が義務化され、営業者は自らが立てた計画に基づき衛生管理を実施することとなった(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html(外部サイトにリンクします))。この他にもEHEC感染症を予防するためには、食中毒予防の基本「菌を付けない、菌を増やさない、菌を殺す」を守り、生肉または加熱不十分な食肉等を食べないように注意を喚起し続けることが重要である(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201005/4.html(外部サイトにリンクします)、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html(外部サイトにリンクします))。保育施設等での集団発生も多数発生しており、その予防には、手洗いの励行や簡易プール使用時における衛生管理が重要である(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000201596.pdf(外部サイトにリンクします))。家族内や福祉施設内等で患者が発生した場合には、二次感染を防ぐため、保健所等は感染予防の指導を徹底する必要がある。