モンキーポックスウイルス(別名エムポックスウイルス: MPXV)について
公開日:2023年6月22日
(IASR Vol.44 p85-86:2023年6月号)
モンキーポックスウイルス
モンキーポックスウイルス(別名エムポックスウイルス: MPXV)は、エムポックスの原因となるオルソポックスウイルス属(Genus Orthopoxvirus)に属するウイルスである。オルソポックスウイルス属には天然痘ウイルス、牛痘ウイルス、ワクシニアウイルス等が属しており、これらのウイルスの多くが血清学的に交叉反応を示す。ウイルス粒子は、長径が約300nm程度のレンガ形または楕円形の特徴的な形状を呈し、粒子内には直鎖状二本鎖DNAをウイルスゲノムとして保持している。MPXVは、遺伝子配列により大きくclade1、clade2に分類され、ウイルスの遺伝子型とその流行地域には関連がある。Clade1はかつてコンゴ盆地型、clade2は西アフリカ型と呼称され、それぞれの遺伝子型のウイルスによるエムポックスの流行が、中央アフリカ、または西アフリカの地域で報告されている1)。Clade2は、さらにclade2a(従来の西アフリカ型)と2017年頃よりナイジェリアおよび欧州におけるエムポックス輸入例の原因として報告が増加したclade2bに分かれ、現在世界的に流行しているウイルス株はclade2bに属している。
発見の経緯
エムポックスが初めて確認されたのは1958年である。デンマーク、コペンハーゲンの動物施設で痘そう様の疾患を発症したカニクイザルからポックスウイルスが分離され、「サル痘」という呼称となった2)。MPXVによるヒトでの症例は、1970年にザイール(現コンゴ民主共和国)で初めて報告された。1970年代にはPCR等による遺伝子検査技術は無かったため、エムポックスは血清学的にも交叉する他のオルソポックスウイルス感染症、特に天然痘との鑑別が困難であった。したがって、エムポックス流行地域で天然痘根絶が確認されているという疫学的知見や、鶏卵漿尿膜にウイルスを接種した際に生じるポックの形態がMPXVと天然痘ウイルスで異なることを利用して鑑別していた3)。
感染環と疫学
MPXVは主に感染動物、感染患者の血液・体液・皮膚病変との接触により伝播する1,4)。動物からヒトへの伝播は、感染動物とその体液などに汚染された物質との接触(主に調理や摂取)により起こる。MPXVの自然宿主は現在も明らかにはなっていないが、アフリカの熱帯雨林に生息するげっ歯類が自然宿主である可能性が高く、サルなどの哺乳類は偶発的に発生する宿主である5)。古典的なエムポックス患者の発生は、まずMPXVに感染した野生の哺乳類(主に狩猟された野生動物の肉、いわゆるブッシュミート)との接触によって生じる。その後、ヒト-ヒトの二次伝播により感染は拡大しアウトブレイクとなるが、その際の発病率(attack rate)は多くが10%程度にとどまり、ヒト-ヒトの伝播はあまり続かない1)。事実、アフリカ地域以外の輸入感染事例で、ヒト集団におけるアウトブレイクが発生したのは2003年に米国で発生した事例のみである。この事例でもほとんどの発症者はMPXVを保有していたげっ歯類(ガーナから輸入された)からウイルスが伝播したプレーリードッグ(げっ歯類)との接触が原因とされ、ヒト-ヒトの伝播は確認されていない6)。他にもナイジェリア国内で動物から感染したと思われる複数のヒトが、イスラエル、英国、シンガポール、米国で輸入症例として確認されている。これらの事例についてもヒト-ヒトの伝播は院内感染1例、家族間感染2例にとどまっている1)。
病態・致命率
エムポックスの潜伏期間は1~3週間程度、臨床症状は主に発熱、頭痛、リンパ節腫脹である。特徴的な症状として皮膚病変があり、皮疹から水疱となり、膿疱、痂皮と経過していく。臨床症状は2~3週間程度で消退する。ただし小児や妊婦、免疫不全状態の患者の場合には重症化するリスクがある。致命率はMPXVの遺伝子型により異なり、clade1は10.4%、clade2aは3.6%程度である1)。一方でclade2bの致命率は0.1%程度と顕著に低い。
抗ウイルス薬
エムポックスの治療は、現在のところ対症療法が主で特異的な治療薬は存在しないが、いくつかの薬剤が選択肢として期待されている。天然痘治療薬として開発されたテコビリマットは、欧州ではエムポックスの治療薬として承認されており、日本でも特定臨床研究が実施されている。テコビリマットはポックスウイルスの膜タンパク質であるF13L遺伝子産物の機能を阻害し、ウイルス粒子形成を阻害する。現時点ではテコビリマットの副反応が許容内であることが判明しているが、エムポックス患者への治療効果についてはさらなる検証が必要である7)。他にDNAウイルス全般に対して有効性が期待されるシドフォビルと、それに脂質鎖が結合し細胞内への取り込み効率が向上したブリンシドフォビルといった核酸アナログ薬があり、ウイルスDNAの複製を阻害し効果を発揮する。ブリンシドフォビルを3名のエムポックス患者に投与した際は、全員で肝酵素の上昇などの副反応が認められたことにより投与が中止されており、また治療効果についての結論は出ていない8)。MPXV感染による眼疾患に対して、核酸アナログ薬であるトリフルリジン点眼を使用した報告がある9)。
参考文献
- Bunge EM, et al., PLoS Negl Trop Dis 16: e0010141, 2022
- Parker S, et al., Future Virol 8: 129-157, 2013
- Lourie B, et al., Bull WHO 46: 633-639, 1972
- Kannan S, et al., Eur Rev Med Pharmacol Sci 26: 5983-5990, 2022
- Di Giulio DB, et al., Lancet Infect Dis 4: 15-25, 2004
- Anonymous, MMWR 52: 642-646, 2003
- O’Laughlin K, et al., MMWR 71: 1190-1195, 2022
- Adler H, et al., Lancet Infect Dis 22: 1153-1162, 2022
- Shamim MA, et al., Int J Infect Dis 127: 150-161, 2023
国立感染症研究所ウイルス第一部
吉河智城 海老原秀喜