コンテンツにジャンプ
国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
言語切り替え English

エムポックスの臨床像について

公開日:2023年6月22日

(IASR Vol.44 p86-87:2023年6月号

はじめに

本稿では、エムポックスの海外から報告されている臨床像、日本国内における症例の臨床像について解説を行う。詳細については、「エムポックス(Mpox)の診療指針ver. 2.1」1)をご確認いただきたい。

海外から報告されている臨床像

2022年5月以降の流行では、皮疹が会陰部・肛門周囲や口腔などの局所に集中しており、全身性の皮疹がみられない場合があるほか、口腔内や陰部の粘膜疹が先行することもある。皮疹は、ある一時点においてすべて同一段階の症状であるといわれてきたが、今回の流行では異なる段階の皮疹が同時にみられることがある。肛門直腸病変による肛門痛・テネスムス(腹痛をともなって頻回に便意を催すが排便がない状態)・下血や、陰茎・尿道病変による排尿困難をきたした事例も報告されている。

欧州16カ国43施設から報告された528例のまとめでは、皮疹が95%に認められ、うち64%は皮疹の数が10個以下であった。皮疹の部位は、性器周辺(73%)、体幹・腕・脚(55%)、顔面(25%)、手掌・足底(10%)で、同時に異なる時相の皮疹を認めた。皮疹に先行する全身症状は発熱62%、リンパ節腫脹56%、倦怠感41%で、粘膜病変は41%に認めた2)

エムポックスの病態は、国際的に、重症例、重症化リスク例、軽症例の大きく3つのグループに分類され治療方針を検討されている3-7)。詳細については、「エムポックス(Mpox)の診療指針ver. 2.1」1)をご確認いただきたい。

今回の流行における頻度の多い合併症として、蜂窩織炎、他の性感染症(HIV、梅毒、淋菌、クラミジアなど)、直腸炎・直腸穿孔・肛門直腸周囲膿瘍、急性喉頭蓋炎、前立腺炎などが報告されている2)。また、稀であるが、注意が必要な合併症として、ウイルス性肺炎8)、心筋炎9,10)、結膜炎11-13)、関節炎・骨髄炎14)、播種性病変15)、脳炎・脊髄炎16,17)が報告されており、播種性病変や脳炎・脊髄炎を起こした場合は重症化しているため、特に注意が必要となる。

日本国内における症例の臨床像18)

症例1

30代男性。スペインへの渡航歴あり。来院10日前に疲労感、6日前からは微熱と頭痛を認め、2日前に右臀部の皮疹に気付いた。両側後頸部および鼠径部リンパ節腫脹を認めたが、圧痛なし。右臀部に直径約3cmの紅斑に囲われた中央に臍(へそ)をともなう膿疱を認めた。HIV、梅毒検査は陰性。血液と臀部膿疱検体のモンキーポックスウイルス(別名エムポックスウイルス:MPXV)DNAのPCR検査を行い、臀部膿疱のみ陽性であった。来院日に入院し、入院翌日(1日目)からテコビリマット600mg 1日2回を開始した(計14日間投与)。1日目の咽頭と臀部膿疱検体からMPXV DNAを検出したが、4日目以降は陰性であった。入院中に新規病変は認めず、経過良好であった。8日目にはすべての皮膚病変が改善し、15日目に退院となった。

症例2

30代男性。米国在住。来院2日前に疲労感、筋肉痛、頭痛を認めた。天然痘の予防接種歴はなし。圧痛をともなわない両側鼠径部リンパ節腫脹を認め、下唇粘膜にアフタ性口内炎を2カ所、背部に痤瘡様病変を数個認めた。白血球数がやや低下していた(3,180cells/μL)。HIV、梅毒検査は陰性。血液検体のMPXV DNA PCR検査が陽性となり、来院の翌日(1日目)に入院し、テコビリマット600mg 1日2回を開始した(計14日間投与)。1日目に陰茎に新たな皮疹を認めた。4日目には、両側上肢と臍囲部に複数の新たな水疱を認めたが、12日目にはすべての皮疹が消失し、14日目に退院した。MPXV DNAは4日目に採取した血液と陰茎病変から検出されたが、8日目以降は検出されなかった。

おわりに

2022年5月以降に報告されているエムポックスの臨床像は、これまで報告されてきた臨床像とは異なり、非特異的な臨床像に対しても注意が必要である。今後も臨床像の集積が期待される。

謝辞:エムポックスの論文収集に協力いただいた国立国際医療研究センター国際感染症センターのスタッフおよび、ウイルス学的検査を行っていただいた国立感染症研究所ウイルス第一部第一室のスタッフに感謝申し上げる。

参考文献

  1. 国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター, エムポックス(Mpox)の診療指針ver. 2.1
    https://dcc-irs.ncgm.go.jp/material/manual/monkeypox.html(外部サイトにリンクします)(2023年5月30月閲覧)
  2. Thornhill JP, et al., N Engl J Med 387: 679-691, 2022
  3. CDC, Mpox, Guidance for Tecovirimat Use
    https://www.cdc.gov/poxvirus/mpox/clinicians/Tecovirimat.html(外部サイトにリンクします)(2023年4月22日閲覧)
  4. Rao AK, et al., MMWR 72: 232-243, 2023
  5. Shasta Country, Guidance for the Treatment of MPX-Tecovirimat Use(2022年8月18日)
    https://www.shastacounty.gov/sites/default/files/fileattachments/health_amp_human_services_agency/page/4087/guidancefortreatmentofmonkeypox-tecovirimat.pdf(外部サイトにリンクします)(2023年4月23日閲覧)
  6. Australian Human Monkeypox Treatment Guidelines(2022年6月24日)
    https://www.health.gov.au/sites/default/files/documents/2022/06/monkeypox-treatment-guidelines.pdf(外部サイトにリンクします)(2023年4月23日閲覧)
  7. Ireland, Health Protection Surveillance Centre, Treatment Guidance(2022年10月19日)
    https://www.hpsc.ie/a-z/zoonotic/monkeypox/guidance/Tecovirimat%20Guidance%20Document%2015.08.22%20V1.0.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:329 KB)(2023年4月22月閲覧)
  8. Mitjà O, et al., Lancet 401: 939-949, 2023
  9. Rodriguez-Nava G, et al., Emerg Infect Dis 28: 2508-2512, 2022
  10. Dumont M, et al., Clin Microbiol Infect 29: 390.e5-390.e7, 2023
  11. Cash-Goldwasser S, et al., MMWR 71: 1343-1347, 2022
  12. Rai RS, et al., JAMA Ophthalmol 140: 1244-1246, 2022
  13. Carrubba S, et al., Lancet Infect Dis 23: e190-e197, 2023
  14. Fonti M, et al., Lancet Rheumatol 4: e804, 2022
  15. Menezes YR, et al., Rev Soc Bras Med Trop 55: e0392, 2022
  16. Pastula DM, et al., MMWR 71: 1212-1215, 2022
  17. Cole J, et al., Lancet Infect Dis 23: e115-e120, 2023
  18. Inada M, et al., J Infect Chemother 29: 418-421, 2023

国立国際医療研究センター病院国際感染症センター
石金正裕 齋藤 翔 大曲貴夫

PDF・Word・Excelなどのファイルを閲覧するには、ソフトウェアが必要な場合があります。
詳細は「ファイルの閲覧方法」を確認してください。