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セレウス菌食中毒事例―沖縄県

公開日:2023年6月22日

(IASR Vol.44 p95-96: 2023年6月号)

セレウス菌食中毒の国内での発生件数は、過去10年で毎年1-9件と稀な食中毒である。本県では、2021年に23年ぶりにセレウス菌による食中毒事例が発生し、さらに2022年にも発生した。この2事例についての概要を報告する。

事例1

2021年10月、県内高等学校の教員から、生徒らが嘔吐、腹痛等の食中毒様症状を呈している、との連絡が保健所にあり、調査が行われた。聞き取り調査の結果、有症者らは施設Aで製造された弁当(鶏丼: 炒飯または白米の上に加熱した鶏肉を盛り付け)を喫食していた。また、別の2つの学校でも同施設Aで製造された鶏丼を同日喫食し、同様の症状を呈している生徒がいることが判明した。有症者らに当該弁当以外の共通食や接点はなかった。鶏丼を喫食した13名中11名が、喫食後30分~2時間30分ほどで発症していた。喫食したが無症状であった2名の鶏丼は、炒飯ではなく白米が使用されていた。施設Aで製造された鶏丼以外の弁当を喫食し、同様の症状を訴えたものはいなかった。

微生物検査では、セレウス菌と黄色ブドウ球菌の検査を行った。セレウス菌については、NGKG培地上の卵黄反応陽性集落に対し、Bacillus cereus(CRS gene)PCR Detection Kit(タカラバイオ)を用いて嘔吐型セレウス菌の検出を行った。有症者の便9検体中7検体から嘔吐型セレウス菌が検出され、食品残品および施設ふきとり検体からも嘔吐型セレウス菌が検出された。有症者便9検体中3検体から黄色ブドウ球菌が検出されたが、コアグラーゼ型は一致しなかった。保健所は疫学調査と微生物検出状況から、施設Aを原因とする食中毒事例と判断し、行政処分を行った。

事例2

2022年11月、医療機関から、県内小学校で修学旅行に参加した生徒らが嘔吐、腹痛等の食中毒様症状を呈しているとの連絡が保健所にあり、調査が行われた。聞き取り調査の結果、修学旅行参加者157名中31名が嘔吐、腹痛、下痢を発症していた。修学旅行は2日間の日程で行われ、有症者らの共通食は、1日目の施設Bでの夕食、2日目の施設Bでの朝食および施設Cで製造された昼食の弁当であった。有症者らは、2日目の夕方をピークに発症していた。

微生物検査では有症者便19検体について、セレウス菌、黄色ブドウ球菌、病原性大腸菌、サルモネラ属菌、ウェルシュ菌、ノロウイルスの検査を行った。8検体から嘔吐型セレウス菌が検出され、2検体からエンテロトキシンA型(SEA)・コアグラーゼ7型の黄色ブドウ球菌が検出された。その他病原体は検出されなかった。施設Bふきとり検体および調理従事者便からは、嘔吐型セレウス菌およびSEA陽性・コアグラーゼ7型黄色ブドウ球菌は検出されなかった。施設Cふきとり検体からは嘔吐型セレウス菌が、調理従事者便からはSEA陽性・コアグラーゼ7型の黄色ブドウ球菌が検出された。このことから、施設Cを原因とする食中毒が疑われた。施設Cで製造された弁当の中身は、ポーク卵おにぎり、スパゲティ、ミートボール、から揚げ、ブロッコリーボイル、フルーツミックスであったが、食品残品は回収できず、疑わしい食品は不明であった。原因となった菌については、黄色ブドウ球菌の関与も否定できないが、有症者便での検出状況から嘔吐型セレウス菌が主な原因である可能性が高いと思われた。しかし、セレウス菌は広く環境に分布する菌であるため、施設ふきとり検体から検出されたことだけでは、施設Cが原因と断定することができなかった。

そこで、有症者由来株と施設ふきとり由来株をcore genome single nucleotide polymorphism(cgSNP)解析によって比較することとした。分離された有症者由来株と施設ふきとり由来株をTSBで一晩培養し、DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN)を用いてゲノムDNAを抽出した。Nextera XT DNA Library Prep Kit(Illumina)を用いてライブラリ調整を行い、iSeq100(Illumina)によってペアエンドシーケンシングを行った。得られたデータをLeeらの方法1)を基にcgSNP解析を実施し、PopARTでネットワーク図を作成した。解析のリファレンス株として嘔吐型セレウス菌AH187(NC_011658.1)を用いた。また、比較事例として事例1関連株(有症者由来2株、食品由来1株、施設ふきとり由来1株)も同様にゲノムデータを取得し、解析を行った。加えて、海外の嘔吐型セレウス菌食中毒事例2)関連株(有症者由来4株、食品由来24株)のゲノムデータを公的データベースから取得し、同様に解析を行った。

事例1、事例2および海外事例のcgSNP解析の結果をに示す。事例2関連の有症者由来株と施設ふきとり由来株間のSNPは1であった。事例1関連株間のSNPは1以内であり、海外事例関連株間のSNPは7以内であった。また、事例2関連株と、事例1関連株および海外事例関連株との単一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)はそれぞれ385~387と378~384であった。これらのことから、事例2の有症者由来株と施設ふきとり由来株は同一クローンである可能性が強く示唆された。保健所は疫学調査、微生物検出状況およびcgSNP解析の結果に基づいて施設Cを原因とする食中毒事例と判断し、行政処分を行った。

疫学調査および微生物検出状況だけでは原因施設の特定が困難であった事例においても、分離菌株間のcgSNP解析が判断に有用な事例を経験した。今後もゲノム配列データを取得し、事例対応に利用していく。

参考文献

  1. Lee K, et al., Emerging Infectious Diseases 27: 1509-1512, 2021
  2. Carroll LM, et al., Front Microbiol: 144, 2019

沖縄県衛生環境研究所
久手堅剛 柿田徹也 平良遥乃 眞榮城徳之 石津桃子
岡野 祥 花城隆二 高良武俊 照屋盛実 喜屋武向子

沖縄県中部保健所
久田和佳奈 吉田 崇 仲宗根猛智 岸本美桜 大城洋平
大西真(沖縄県ワクチン・検査推進課 八重山保健所衛生環境研究所兼任)

沖縄県南部保健所
知念陽子 佐藤まどか 大宜見多香 今井隆之 國仲奈津子
宮平誠人

国立感染症研究所細菌第一部
李 謙一 森田昌知

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