長崎県内における75歳未満の新型コロナウイルス感染症罹患後の死亡例に関する実地疫学調査, 2022年1月~2023年1月
(IASR Vol.44 p96-98:2023年6月号)
2022年1月以降、オミクロンの流行により新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例は、以前に比してその流行規模が大きくなった1)。死亡者の多くは高齢者だが、高齢者以外の死亡も認められた。死亡リスクが比較的低いとされている年代の死亡者の背景や発症から死亡に至るまでの経過を把握することは、公衆衛生対策を検討するうえで重要である。本調査はオミクロン流行にともなう長崎県内の75歳未満のCOVID-19罹患後死亡者の特徴の把握を目的に積極的疫学調査を行った。
方法
症例定義は、2022年1月1日~2023年1月31日の期間に死亡時年齢が75歳未満の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性かつ死亡した症例、とした。調査対象医療機関は、前述の期間に75歳未満死亡例を2例以上報告した13医療機関とした。
情報収集には、長崎県内各保健所や医療機関等が新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)に登録した情報等と13医療機関の診療録を用いた。収集項目は、属性、基礎疾患、新型コロナワクチン(以下、ワクチン)接種歴、日常生活動作(ADL)、推定感染場所、所見、治療、死亡に至る経緯、等であった。診療録調査は、調査の標準化のための訓練を受けた医師を含む2名体制で実施した。
症例の特徴を記述するため、内因性死亡と外因性死亡に分類した。内因性死亡の症例は基礎疾患の有無で分類し、さらに、基礎疾患のある症例を死亡に至る経緯(呼吸器系の異常、循環器系の異常、基礎疾患の増悪、その他)で分類、呼吸器系の異常は、COVID-19による呼吸器系の異常と、COVID-19に加え細菌感染等の合併のある呼吸器系の異常に分類した。
結果
症例定義を満たす症例は50例(内因性死亡48例、外因性死亡2例)であった(図)。内因性死亡では、男性37例(77%)、基礎疾患あり(糖尿病、高血圧、悪性腫瘍等)44例(92%)、院内または施設内感染25例(52%)、ワクチン未接種15例(31%)、同2回以上接種22例(46%)、死亡に至る経緯は呼吸器系の異常22例(46%)、循環器系の異常7例(15%)、基礎疾患の増悪9例(19%)、中枢神経系の異常1例(2%)であった。なお、2例のゲノム解析結果が得られた(PANGO lineage: BA.2、BF.7.15)。以下、分類ごとの結果を表に記載した。また、基礎疾患の記載は重複計上した。
集計1 基礎疾患のない4例:
3例(75%)が自宅での心肺停止であり、死亡に至る経緯は、循環器系の異常3例、中枢神経系の異常1例であった。
集計2 基礎疾患あり、死亡に至る経緯がCOVID-19による呼吸器系の異常の8例:
基礎疾患は、糖尿病8例(100%)、高血圧4例(50%)、悪性腫瘍4例(50%)等であり、ワクチン未接種は6例、不明1例で、2回接種の1例は化学療法中であった。
集計3 基礎疾患あり、死亡に至る経緯がCOVID-19に加え細菌感染などの合併のある呼吸器系の異常の14例:
基礎疾患は、高血圧6例(43%)、糖尿病5例(36%)、神経疾患5例(36%)等であった。
集計4 基礎疾患あり、死亡に至る経緯が循環器系の異常の4例:
基礎疾患は、腎機能障害2例(50%)、高血圧1例(25%)等であった。
集計5 基礎疾患あり、死亡に至る経緯が基礎疾患の増悪の9例:
基礎疾患は、悪性腫瘍6例(67%)、高血圧4例(44%)、脳血管障害3例(33%)等であり、COVID-19診断時に6例(67%)が基礎疾患により全身状態不良の状態であった。
集計6 基礎疾患あり、死亡に至る経緯がその他の9例:
基礎疾患は、脳血管障害4例(44%)、神経疾患4例(44%)であり、COVID-19が影響したと診断はされているものの病態が不明の症例、敗血症、不詳の内因死が含まれた。
考察
2022年1月1日~2023年1月31日に長崎県の75歳未満の死亡50例の疫学情報をまとめた。内因性死亡の症例では、男性、基礎疾患あり、院内または施設内感染、が多かった。基礎疾患のない4症例は、全例が60歳未満であり、比較的若年に多く、これら死亡例の発症時には急激な悪化がみられた。基礎疾患を有する症例では、死亡に至る経緯として呼吸器系の異常が多く、その中でもCOVID-19による呼吸器系の異常の症例は、60歳以上で糖尿病の基礎疾患があり、大部分がワクチン未接種であった。ワクチン接種が、特にCOVID-19による呼吸器系の異常による死亡を防ぐ効果がある可能性が改めて示唆された2)。一方、細菌感染等の合併のある呼吸器系の異常は、ADLが低い入院中や施設入所中の症例に多く発生していた。基礎疾患の増悪の症例では、入院中のワクチン既接種の悪性腫瘍患者が多かった。これは先行文献の「悪性腫瘍患者がCOVID-19に罹患した際、ワクチン既接種でも予後が不良であった」という報告と矛盾しない結果であった3)。循環器系の異常の症例は、比較的若年に発生し急激な悪化がみられた。なお、最終接種からの時間経過とともにCOVID-19に対する免疫が減衰することが指摘されているが4)、本調査ではワクチン最終接種からの日数は考慮していない。
以上から、死亡を防ぐには、次の3点が特に有用と考えられた。
- 医療機関や施設等での感染予防
- COVID-19、特に呼吸器系の異常による死亡を予防するための、基礎疾患を有する者への新型コロナワクチン接種の推奨
- 若年者でも、ごく稀に突然の死亡を引き起こす可能性があるため、基礎疾患の有無にかかわらず罹患時の注意深い状態観察
謝辞:本調査にご協力いただいた各医療関係者の皆様および長崎県内各自治体の皆様に心より御礼申し上げます。
参考文献
- 厚生労働省, データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-(閲覧日2023年3月20日)
https://covid19.mhlw.go.jp/extensions/public/index.html(外部サイトにリンクします) - Kayano T, et al., Lancet Reg Health West Pac 28: 100571, 2022
- Wang W, et al., JAMA Oncol 8: 1027-1034, 2022
- Higdon MM, et al., Lancet Infect Dis 22: 1114-1116, 2022
長崎県福祉保健部
長谷川麻衣子 眞崎哲太郎
長崎県環境保健研究センター保健衛生研究部
松本文昭 吉川 亮 田栗利紹
国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP)
浦川美穂
実地疫学研究センター
光嶋紳吾 土橋酉紀 八幡裕一郎 小林祐介 黒須一見
加藤博史 砂川富正