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下水中の新型コロナウイルス調査(NIJIs)プロジェクトとポリオ環境水サーベイランスについて

公開日:2023年7月27日

(IASR Vol.44 p103-105:2023年7月号

NIJIs(New Integrated Japanese Sewage Investigation for COVID-19)プロジェクトは、2020年7月に命名された下水中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)調査プロジェクトの略称である。わが国では、ポリオ環境水サーベイランス(感染症流行予測調査事業)による下水中のポリオウイルス調査を地方衛生研究所(地衛研)が行ってきた。既存の地衛研ネットワークを活用しつつ、大学、国土交通省(国交省)国土技術政策総合研究所、地衛研、国立感染症研究所(感染研)で構成された研究班が2020年8月に立ち上がり、下水中のSARS-CoV-2調査に取り組むこととなった。以来、地衛研の入れ替わりがあったものの、12地衛研と、独自に下水中のウイルス調査研究を実施していた2地衛研を加え、延べ14施設が下水中のSARS-CoV-2監視体制を構築すべく研究を実施してきた。

研究班では、下水中のSARS-CoV-2ゲノム検出に関する基盤的技術開発のほか、ポリオ環境水サーベイランスを活用した手法の検討、調査実施時の課題の整理を行った。本稿では、主に地衛研と連携して行ってきた活動の概要と今後の展望について紹介する。

地衛研と感染研の連携による下水中のSARS-CoV-2調査の経緯

  • 2020年4月、横浜市衛生研究所が市内2カ所の下水処理場への流入水からSARS-CoV-2ゲノムを検出した1)
  • 2020年6~8月まで首都圏3カ所(1地点は繁華街のマンホール、2地点は下水処理場)で採水が行われ、感染研にて検査を実施。これらの水試料を用いて、検出手法の詳細を検討。SARS-CoV-2ゲノムは下水中の沈殿物から効率よく検出できることを明らかにした2,3)
  • 2020年8月、厚生労働省(厚労省)研究班が活動を開始し、地衛研の協力者と検査マニュアルを作成した4)
  • 2020年10月以降、web研修を通じて手法を水平展開し、SARS-CoV-2検査体制が整い次第、順次開始。11地衛研は原則月1回採水、1地衛研は民間検査機関の支援のもと、週1回採水で調査を実施。1カ所は2020年の期間限定のスポット調査を行った5)
  • 2023年4月現在、地衛研を中心にSARS-CoV-2調査(月1回あるいは週1回採水)を継続している。

下水中のSARS-CoV-2調査の手法の概要と課題

ポリオ環境水サーベイランスのフローでは流入下水を粗遠心後、上清を濃縮し、濃縮物を培養細胞に接種しポリオウイルスの分離同定を行う。粗遠心後に得られる沈殿物を用いることで効率よくSARS-CoV-2ゲノムを検出可能であるが、上清濃縮物の方が効率よく検出できるケースもみられ、処理場ごとにRNA精製法の選択が必要と考えられた。また、プライマー/プローブ領域上の塩基置換をともなう変異株の出現や、下水に含まれるPCR反応阻害物質がSARS-CoV-2ゲノム検出に影響を与えること、さらに下水は均一に分散した試料ではないため、検出結果に変動がともなうこと、を念頭に入れて、結果を解釈する必要がある。

下水中SARS-CoV-2ゲノム量と感染者数との比較解析の概要と課題6)

ウイルスは感染者由来の唾液、上気道由来分泌物、糞便等に含まれ、下水に排出後、下水網を介して下水処理場に集積する。すなわち、処理前の流入下水に含まれるウイルス情報は地域の感染者の存在を意味するが、感染初期~回復期の感染者から排出されたウイルスゲノムの累積値である。さらに感染者数が把握される保健所管轄地域と、下水処理場が対象とする処理区は必ずしも一致していない。こうした下水調査特有の要因を念頭に入れて調査結果を解析することが必要である。

研究班の調査より、調査頻度を週1回採水に設定した場合、感染者数の増減と下水中のウイルスゲノム量の間には高い相関がみられ、感染動向の把握に有用性が認められた。しかし、検査頻度の増加にともなう採水、輸送、検査の各工程は煩雑になるため、地衛研で実施する場合は各地衛研の実情に合わせたフローの改善が課題である。また、採水時点のウイルスゲノム量から感染者数を推計する方法について今後の研究が望まれる。

関連する下水サーベイランスの取り組み

大学研究者を中心とした水環境学会タスクフォースが2020年5月に立ち上がり、検査マニュアル作成等の普及活動および調査研究を開始した7)

国交省下水道部は2020年度末より下水中のSARS-CoV-2調査事業を立ち上げ、同省のwebサイトで一部公表を行ってきた8)

内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室は、厚労省、国交省、大学等の取り組みを踏まえ、令和4(2022)年度に下水サーベイランス実証事業(下水処理場実証と個別施設実証)を実施した9)

今後の展望

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行状況を重層的に把握するため、国交省と厚労省が連携する下水サーベイランス調査研究を令和5(2023)年度に開始した。研究班では、下水に含まれるウイルスゲノム情報を活用すべく、複数種のウイルスについて同時検査手法の検討も行っていく予定である。

謝辞:NIJIsプロジェクトに参画、技術的助言をいただいた北島正章氏(北海道大学)、原本英司氏(山梨大学)、渡部 徹氏(山形大学)、佐々木 顕氏(総合研究大学院大学)、国土交通省国土技術政策総合研究所に感謝します。またエムアールアイリサーチアソシエーツ社にはデータ解析に多大な支援をいただきました。

参考文献

  1. 小澤広規ら, IASR 41: 122-123, 2020
  2. Kitamura K, et al., Sci Total Environ 763: 144587, 2021
  3. Kitakawa K, et al., Environ Microbiol 89: e0185322, doi: 10.1128/aem.01853-22, Epub ahead of print, PMID: 36975804, 2023
  4. 下水中の新型コロナウイルス検出マニュアル ver 1.1(PDF: 1,264 KB)
  5. 「環境水を用いた新型コロナウイルス監視体制を構築するための研究」総括報告書
    https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/148380(外部サイトにリンクします)
  6. https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001459574.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:1,427 KB)
  7. 日本水環境学会, COVID-19タスクフォース
    https://www.jswe.or.jp/aboutus/covid19.html(外部サイトにリンクします)
  8. 国土交通省下水道部, 下水道における新型コロナウイルスに関する調査検討委員会
    https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000708.html(外部サイトにリンクします)
  9. 内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室, 「下水サーベイランス」
    https://corona.go.jp/surveillance/(外部サイトにリンクします)

青森県環境保健センター
坂 恭平

岩手県環境保健研究センター

福島県衛生研究所
北川和寛

千葉県衛生研究所
藤沼裕希

埼玉県衛生研究所
小川泰卓

東京都健康安全研究センター
長島真美

横浜市衛生研究所
小澤広規

愛知県衛生研究所

岐阜県保健環境研究所
葛口 剛

富山県衛生研究所
板持雅恵

奈良県保健研究センター
千葉翔子

和歌山県環境衛生研究センター
藤本泰之

岡山県環境保健センター
木田浩司

福岡県保健環境研究所
濱崎光宏

国立感染症研究所ウイルス第二部
喜多村晃一 吉田 弘

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