近年(2018~2022年度)のポリオの予防接種状況および抗体保有状況―感染症流行予測調査より
公開日:2023年8月30日
(IASR Vol.44 p120-122:2023年8月号)
はじめに
感染症流行予測調査におけるポリオ感受性調査は、ポリオに対する感受性者を把握し、効果的な予防接種施策を図るための資料にすることを目的として、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層における抗体保有状況ならびに予防接種状況の調査を行っている。
日本国内では、2012年8月末に、それまで長く続いた三価経口生ポリオワクチン(tOPV)2回接種のスケジュールを終了し、不活化ワクチンへ切り替えられた。同年9月から単独の不活化強毒株由来ポリオワクチン(conventional IPV: cIPV)、同年11月から4種混合ワクチン(ジフテリア・百日せき・破傷風混合セービンポリオワクチン: DPT-sIPV)が導入され、その後、2015年12月にDPT-cIPVが導入された。DPT-cIPVは2021年3月に製造販売が中止され、2023年6月現在、定期接種に用いられているのはcIPVまたはDPT-sIPVである。ポリオの流行は年少児を中心に発生することから、接種時期は生後3か月以上90か月未満とされ、生後3か月になった時点で速やかに接種することが推奨されている。また、cIPVまたはDPT-sIPVの接種回数はOPVよりも多く、3回の初回接種と1回の追加接種の計4回接種を標準とする1)。
ここでは、IPV導入以降の近年の抗体保有状況の推移について報告する。
調査内容
IPV含有ワクチン導入後の2018~2022年度までに実施されたポリオ感受性調査の結果を用いた。調査は北海道、山形県、千葉県、東京都、富山県、愛知県、愛媛県で採血された血液検体を用いて、各地方衛生研究所において測定されたポリオウイルス1、3型に対する中和抗体価、国立感染症研究所で測定されたポリオウイルス2型に対する中和抗体価、ならびに調査対象者の予防接種歴が含まれる。
5歳未満の調査対象者995名のうち、ポリオ含有ワクチンの接種の有無が不明の者を除いた計905名に対して解析を行った。各調査年度の解析対象者数は、2018年度306名、2019年度301名、2020年度114名、2021年度145名、2022年度129名で、接種歴不明は次の通りであった: 2018年度: 5.5%(n=17)、2019年度: 12.3%(n=37)、2020年度: 12.3%(n=14)、2021年度:9.7%(n=14)、2022年度:6.2%(n=8)。
ポリオ含有ワクチン接種状況
OPVおよびIPV含有ワクチンの接種状況について、調査年度別に図1に示した。
2018年度、2019年度では、OPVとIPVの併用者がわずかにみられたが、2020年度以降はOPV接種者からの検体はなかった。
また、いずれかのポリオワクチンの1回以上接種率をみると、2018年度以降は5歳未満のすべての年齢で95%以上であり、未接種者が確認されたのは2018年度の2歳(n=1)と2020年度の0歳(n=1)のみであった。
ポリオ中和抗体保有状況
図2に、調査年度別のポリオウイルス1、2、3型に対する抗体保有状況を示した。
ポリオの発症防御には、1:8以上の血中中和抗体価が必要とされている2)。各血清型のポリオウイルスに対する中和抗体価1:8以上の抗体保有率についてみると、2型に対しての抗体保有率は1歳以降ほぼ100%で推移していた。1型および3型については、ばらつきはあるものの、高い抗体保有率を維持していた。これまでの流行予測調査の結果では、OPV接種者では3型に対する抗体保有率が1、2型と比較して顕著に低いことが示されてきたが、2018年度調査以降では、ほとんどの調査対象者がIPV含有ワクチンの接種歴を持ち、型別の抗体保有率の差は減少した。
IPVの標準接種スケジュールでは生後12~18か月で追加接種を行うため、0歳児における抗体保有率は、追加接種前を示している。OPV2回接種を標準接種スケジュールとしていた2011年以前における流行予測調査では、例年2~3歳で抗体保有率のピークを示しており、1歳児における抗体保有率はおよそ90%であった3)。今回の結果では、IPV導入後もOPV2回接種スケジュール時と同等の早い時期に高い抗体保有率を示した。
ただし、2020~2022年度調査ではサンプルサイズが例年より小さく、さらに感染症流行予測調査事業において小児が参加する自治体が減少してきていることから、調査対象者選定時のバイアスが大きくなっている可能性がある。全年齢無作為抽出の全国調査として継続されてきた事業であるが、特に小児の調査対象者数の確保と、調査対象者選定時のバイアスへの対処に課題がみられた。以上のような制限に考慮し、本調査結果の一般性については限定的であることに留意する必要がある。
まとめ
本調査結果において、2018~2022年度のポリオ含有ワクチン接種率は5歳未満のすべての年齢で95%以上であった。また、2018年度調査以降ではほとんどの調査対象者がIPV接種歴を持っており、2020年度以降OPV接種者は確認されなかった。
抗体保有率は、多少のばらつきはあるもののすべての型に対して高い値を示し、OPV接種者と比較して1、2、3型間の抗体保有率の差はほとんどみとめられなかった。
しかし、感染症流行予測調査事業において小児の調査対象者数が減少していることや、自治体ごとの調査対象者選定時のバイアス等、全年齢無作為抽出の全国調査としての課題があり、本調査結果の一般化には注意が必要である。
参考文献
- 日本の予防接種スケジュール
- Plotkin SA, Clin Vaccine Immunol 17: 1055-1065, 2010
- 2011年度感染症流行予測調査事業報告書(PDF:358 KB)
北海道立衛生研究所
櫻井敦子 駒込理佳
山形県衛生研究所
池田陽子
千葉県衛生研究所
花田裕司 吉住秀隆
東京都健康安全研究センター
長谷川道弥 長島真美
富山県衛生研究所
板持雅恵 谷 英樹
愛知県衛生研究所
廣瀬絵美 安井善宏
愛媛県立衛生環境研究所
山下育孝 大塚有加
国立感染症研究所
ウイルス第二部
有田峰太郎
感染症疫学センター
菊池風花 林 愛 新井 智 神谷 元 鈴木 基