梅毒治療の現状について
(IASR Vol.44 p194-195:2023年12月号)
治療の方針
感染機会があり、典型的な所見が認められ、梅毒抗体検査の値との組み合わせにより梅毒と診断することで、治療を開始する。ただし、典型的な所見を認めない場合も少なからずあることから、所見自体を認めない無症候例であっても、問診と梅毒抗体検査などの結果を総合的に判断して治療を開始する場合もある。臨床所見と検査結果に乖離がある場合には、梅毒抗体検査を2~4週間後に再検することも1つの選択肢である。
治療法
わが国では、梅毒治療の第1選択は、ベンジルペニシリンベンザチンとアモキシシリンである1-3)。いずれの薬剤も梅毒に有効であるが、多数例での比較試験はない。ベンジルペニシリンベンザチンは、早期梅毒には1回240万単位を筋注、後期梅毒には週に1回240万単位を計3回の筋注として投与する1,2)。有効性を評価する比較試験はないものの、長く使われてきており、その高い有効性は臨床現場で経験的に認識されている。ベンジルペニシリンベンザチンに特異的な副反応ではないが、筋肉注射の薬剤で稀に認められる副反応4)については知識として知っておいて良いだろう。アモキシシリンは、1回500mgを1日3回で28日間として投与する1)。わが国から、1日1,500mg3)と1日3,000mg5)投与での有効性を評価した報告があり、いずれも有効性は高い。梅毒診療においては、後述するように、治療効果判定を治療後の梅毒抗体検査で確認することから、4週間の投与期間であっても再診できる患者であれば問題ない。ペニシリンアレルギーの場合には、わが国の保険診療に鑑みてミノサイクリンを投与する1)。ミノサイクリンの効果はベンジルペニシリンベンザチンと同等との報告6)がある。
マクロライド系抗菌薬が有効な時期もあったが、現状では、地域により傾向は異なるが、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum:T.pallidum)のマクロライド耐性が拡がっているので、マクロライド系抗菌薬は第一選択とはならない。
治療上の留意点
梅毒の治療時に注意しなければならないのはペニシリン投与によるJarisch-Herxheimer反応であり、治療後24時間以内に頭痛、筋肉痛、発熱等の症状が生じる。治療により、菌量の多い早期にT.pallidumの菌体が破壊されることによると考えられる。女性に起こりやすいとされているが、もちろん、男性でも発現する。梅毒と診断がついていればペニシリンが投与されるが、梅毒の診断がされていない状態で、他の疾患を想定して、例えば、セファロスポリン系抗菌薬が投与されていたとしても生じ得る。一般的には、症状は自然軽快するが、妊婦にベンジルペニシリンベンザチンを投与する場合には、このJarisch-Herxheimer反応により胎児機能不全や早産の危険性があることから、入院観察での投与をすべきとの考えもある。
治癒判定
カルジオリピンを抗原とする非トレポネーマ脂質抗体検査法が治療経過を反映するので、治癒判定としては、基本的には、RPR(rapid plasma reagin)の抗体値を追跡することになる。治癒判定は、RPRの前値(最大値)を基準として、自動化法検査では1/2以下まで、従来からの倍数希釈法では1/4以下まで減少して、その後の上昇がなければ治癒と判断できる7)。可能な限り1年程度の経過観察が望まれる。
適切な治療後には、RPRの抗体価の低下とともに、自動化法であればT.pallidum抗体価も徐々に低下する。注意が必要なのは、RPRの抗体価が、適切な治療後にも低下しないserofast reactionといわれる現象への対応である。このような場合には、自動化法でのT.pallidumを抗原とする抗体検査法の値の低下で経過をみていくことになる。
参考文献
- 梅毒, 性感染症 診断・治療 ガイドライン 2020(一部改訂)(2023.06.13)
http://jssti.umin.jp/pdf/baidokukaikou_20230620.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:1,643 KB) - Workowski KA, et al., Syphilis, MMWR 70: 39-55, 2021
- 池内和彦ら, 感染症誌 92: 358-364, 2018
- Mojarrad P, et al., Pharm Sci 28: 27-38, 2022
- Tanigaki R, et al., Clin Infect Dis 61: 177-183, 2015
- Shao LL, et al., Medicine 95: e5773, 2016
- 梅毒診療ガイド(第2版), 日本性感染症学会梅毒委員会梅毒診療ガイド作成小委員会(委員長: 荒川創一), 厚生労働科学研究「性感染症に関する特定感染症予防指針に基づく対策の推進に関する研究」(研究代表者: 三鴨廣繁)
http://jssti.umin.jp/pdf/syphilis-medical_guide_v2.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:432 KB)
札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座
高橋 聡