5類定点把握対象性感染症とエムポックスの発生動向
公開日:2023年12月25日
(IASR Vol.44 p200-201:2023年12月号)
感染症法で報告が求められている主な性感染症には、陰部に潰瘍性の病変を生じる梅毒、エムポックス、性器ヘルペスウイルス感染症、腫瘤性の病変を生じる尖圭コンジローマ、尿道炎や子宮頸管炎の症状を呈する性器クラミジア感染症と淋菌感染症がある。感染症法上、エムポックスは4類感染症に、梅毒は5類感染症に分類され、すべての医師が診断を行った際に届出が必要な全数把握疾患である。一方、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、性器クラミジア感染症、淋菌感染症は5類定点把握対象疾患で、産婦人科、皮膚科および泌尿器科等の性感染症を診療する医療機関のうち、地方自治体が定めた性感染症定点医療機関から報告されている。本稿では、特集が組まれている梅毒(本号1ページ参照)を除く上記疾患に関し、感染症発生動向調査における2013年以降の10年間の報告を紹介する。
エムポックスは、本邦では2022年7月25日(第30週)に、海外渡航歴のある成人男性で初めて確認されたのち、渡航歴がない症例を中心に増加、2023年第11週と第19週に二峰性のピークとなり、その後減少し、大都市を中心に散発的な届出が続いている1)。2023年第38週までに205例が届出され、性別はすべて男性、40代が最も多かった(2023年10月31日時点現在)。なお、2022年欧米を中心にMSM(men who have sex with men)間で多数の感染者が報告された世界的流行は、2022年夏をピークに感染者の報告は減少し、その後各国で散発的に報告が続いている1)。
性器ヘルペスウイルス感染症の定点当たり報告数は、男性では2006年をピークに減少した後、2013年以降おおむね横ばいであった(図)。女性では2005年をピークに減少した後、2010年以降おおむね微増であった。15~39歳までの年齢階級別定点当たり報告数は、男性では2022年は20代前半~30代後半が多く、女性では、2013年以降20代後半が最も多かった2)。
尖圭コンジローマの定点当たり報告数は、男性では2005年を最初のピークに減少し、2012年以降再び増加した。女性では2005年をピークに減少していた。年齢階級別定点当たり報告数は、男性では2017年以降20代後半が最も多く、2022年は20代前半~30代後半で増加した2)。女性では、2013年以降20代前半が最も多く、2013年以降10代後半~30代後半で横ばいであった。欧米では、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種によると考えられる若年の男女での減少が報告されている3,4)。本邦ではHPVワクチン接種の積極的勧奨を控えていたが、2022年4月から再開されており、今後の動向に注視していく必要がある。
性器クラミジア感染症の定点当たり報告数は、男女ともに2002年をピークに減少していたが、2016年以降は増加した。年齢階級別定点当たり報告数は、男性では20代が最も多く、かつ増加が顕著であった2)。特に20代前半は2019年以降20代後半を超え、定点当たり報告数が最も多くなった。女性では、2013年以降20代前半が最も多く、2016年以降20代で増加が認められた。一方、男女ともに、10代後半では定点当たり報告数は過去10年間おおむね横ばいであった。これらは欧米の発生動向とはやや異なり、米国では2012年以降男女とも横ばいで、年齢階級別では2012年以降男女ともに20代前半が最も多かった5)。欧州連合(EU)/欧州経済領域(EEA)では、2010年以降男女とも横ばいで、年齢階級別では2019年は男女ともに10代後半~20代前半が最も多かった6)。
淋菌感染症の定点当たり報告数は、男性は2002年、女性は2003年をピークに減少し、男女とも2016年以降おおむね横ばいであった。年齢階級別定点当たり報告数は、男性では2017年以降20代前半が最も多かった2)。2018年以降は20代前半で、2020年以降は20代後半~30代後半で増加したが、2022年にはこれらの年代の報告数が減少した。女性では2013年以降20代前半が最も多く、2017年以降は20代前半で、2021年には20代後半で増加した。欧米でも淋菌感染症は増加しており、米国では2012年以降男女とも増加し、年齢階級別では2012年以降男女とも20代前半が最も多く、増加した5)。EU/EEAでは、2010年以降男女とも増加し、年齢階級別では2019年は男性で20代後半~30代前半、女性で10代後半~20代前半が最も多かった7)。
性器クラミジア感染症、淋菌感染症では過去10年間で10代後半の定点当たり報告数は横ばいであるが、20代では増加しており、梅毒とともに公衆衛生上の問題となってきている。これらの性感染症の予防には梅毒対策と同様のものが多く、包括的に若年からの性感染症予防教育(コンドームの適切な使用など)、ハイリスク者(感染者の性的パートナーや性風俗産業従事者)の検査促進、早期診断早期治療の推進、などの実施が望まれる。
謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている自治体や医療機関の皆様に深謝いたします。
参考文献
- 厚生労働省, エムポックスについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/monkeypox_00001.html(外部サイトにリンクします)(2023年10月31日参照) - 国立感染症研究所, 感染症発生動向調査, 過去10年間との比較グラフ(月報)
- Bollerup S, et al., Sex Transm Dis 43: 238-242, 2016
- Heidi M, et al., Am J Public Health 102: 833-835, 2012
- USCDC, Sexually Transmitted Disease Surveillance 2021
https://www.cdc.gov/std/statistics/2021/default.htm(外部サイトにリンクします)(2023年10月31日参照) - ECDC, Chlamydia infection-Annual Epidemiological Report for 2019
https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/chlamydia-infection-annual-epidemiological-report-2019(外部サイトにリンクします)(2023年10月31日参照) - ECDC, Gonorrhoea-Annual Epidemiological Report for 2019
https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/gonorrhoea-annual-epidemiological-report-2019(外部サイトにリンクします)(2023年10月31日参照)
国立感染症研究所
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