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電子カルテの診療データを用いた季節性インフルエンザとCOVID-19の呼吸器感染症サーベイランスの有用性検討

公開日:2023年12月25日

(IASR Vol. 44 p204-207:2023年12月号

背景

世界保健機関(WHO)は、季節性インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等の急性呼吸器感染症について、インフルエンザ様疾患(ILI)の定点サーベイランスを用いて、全外来受診者数中のILI患者数の割合(ILI%)やILI患者数(または検査数)中の検査陽性例の割合(検査陽性率、以下、陽性率)等を経時的に示すことを推奨している1)。わが国の法に基づく感染症サーベイランスにおいては、届出対象となる感染症に関して、従来から感染症を診断した際に医師により患者の届出が義務づけられてきた2)。この患者サーベイランスの課題としては、検査数が把握されていないことが挙げられる。患者報告数の推移は、受診行動や検査数の変化等にも影響を受けるため、検査数や陽性率を同時に評価することが重要である。

昨今では、電子カルテが普及し、膨大な診療データを迅速に抽出、解析することが可能となっており、国立感染症研究所(感染研)と国立病院機構は共同で、このような診療データを感染症の発生動向を把握・評価する一助とすることが可能かを検討している。そこで、本稿では、インフルエンザとCOVID-19の検査数や陽性数〔それぞれインフルエンザウイルス、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する検査〕を抽出して解析し、既存の国のサーベイランスの各指標と比較し、診療データを用いた呼吸器感染症サーベイランスの有用性を検討した。

方法

約140の医療機関で構成される国立病院機構の2017年第36週~2022年第44週の診療データ(以下、国病データ)を抽出し、解析した。なお、入院前のCOVID-19のスクリーニング等で検査をされた者については、原則検査患者数および陽性患者数から除外した。このため、ほとんどの患者では急性呼吸器感染症を疑う何らかの症状を有するために検査された者であると考えられる。

既存の国のサーベイランスの各指標として、インフルエンザは感染症発生動向調査事業(NESID)における全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関からの報告に基づく、定点当たり報告数を用いた。COVID-19は、厚生労働省のホームページに公開されているオープンデータを抽出して解析に利用した3)。いずれも国病データと同期間のデータを使用した。

国病データ利用は、国立病院機構における倫理審査で承認され、本研究は、令和4(2022)年度 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業研究「新型インフルエンザ等の感染症発生時のリスクマネージメントに資する感染症のリスク評価及び公衆衛生的対策の強化のための研究(20HA1005)」の分担研究として行われた。

結果

国病データの全外来受診者中のインフルエンザまたはCOVID-19(インフルエンザ/COVID-19)の疑い患者の割合およびインフルエンザの各指標(検査数、陽性数、陽性率)は、COVID-19パンデミック前のインフルエンザの季節性を反映していた(図1A、B)。COVID-19の陽性数、陽性率の動向は、COVID-19の国内での複数回の流行を反映していた(図1C)。また、既存の国のCOVID-19サーベイランスの各指標と比較すると、国病データの各指標は、トレンドとレベルが類似していた(図2)。

考察

国病データは、インフルエンザの季節性とCOVID-19の国内での複数回の流行を反映し、既存の国のサーベイランスの各指標ともトレンドとレベルが類似していた。インフルエンザに関しては、NESIDの約5,000の定点データと国立病院機構のオープンデータを比較した前回の報告と同様の結果であり4,5)、COVID-19においても、全数把握と同様のトレンドとレベルの把握・評価が可能であることが今回の精査で判明した。さらに、検査数、陽性数、陽性率という複数の指標を用いることで、検査状況を考慮したうえでの、より信頼性の高い評価が可能になる。感染研では、陽性率の代替指標として、厚生労働省公開のCOVID-19届出数/PCR検査実施件数(図2D)を計算し、週報で還元してきたが6)、これは検査数と陽性者数が対応しておらず、正確には「比」である。一方で、国病データのCOVID-19陽性率は検査数と陽性者数が対応する「割合」であり、より信頼性の高い指標となる。また、国病データでは、同じ医療施設を受診している母集団であり、同じ施設とシステムでデータ収集されているため, COVID-19とインフルエンザの相対的な流行規模の比較が一定程度可能である。最後に、国病データでは、医師や医療機関による届出の必要がなく、また、タイムリーなデータ収集が可能となり得るメリットがある。

制限として、検査は医師の判断で行われており、厳密なILIサーベイランスに従う症候群の定義に基づいていない。また、すべての急性呼吸器感染症が疑われる患者で、インフルエンザとCOVID-19の両方の検査が行われているわけではない。本報告では、地域別・年齢群別のデータは提示していないが、トレンドとレベルは全国の精査と同様に追えることは確認している。COVID-19とインフルエンザの同時流行が懸念される中で、既存の国のサーベイランスと並行して、国病データ等も重層的に監視・活用していくことが重要と考えられる。

参考文献

  1. WHO, End-to-end integration of SARS-CoV-2 and influenza sentinel surveillance: revised interim guidance
    https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-Integrated_sentinel_surveillance-2022.1(外部サイトにリンクします)
  2. 厚生労働省, 感染症法に基づく医師の届出のお願い
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kekkaku-kansenshou11/01.html(外部サイトにリンクします)
  3. 厚生労働省, オープンデータ
    https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html(外部サイトにリンクします)
  4. 新城雄士ら, IASR 43: 260-263, 2022
  5. 独立行政法人国立病院機構, 国立病院機構におけるインフルエンザ全国感染動向, 令和4年度のデータ
    https://nho.hosp.go.jp/cnt1-1_0000202204.html(外部サイトにリンクします)
  6. 国立感染症研究所, 新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報: 発生動向の状況把握

国立感染症研究所感染症疫学センター
新城雄士 有馬雄三 高橋琢理 鈴木 基

独立行政法人国立病院機構三重病院
谷口清州

国立病院機構本部
堀口裕正

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