神奈川県衛生研究所における肺炎マイコプラズマの検査法および薬剤感受性試験について
公開日:2024年1月30日
(IASR Vol.45 p3-4:2024年1月号)
肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae: M.pneumoniae)の培養は時間を要し、操作も煩雑なことから検査を実施している施設は少ない。神奈川県衛生研究所(以下、当所)では、これまで分離培養および菌株収集を行ってきた。今回、一例として当所で実施している検査法を紹介する。各検査法の詳細は国立感染症研究所のウェブページに掲載の「肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)検査マニュアル1)」(以下、感染研マニュアル)およびその他の参考文献を参照されたい。なお、当所で使用している培地の組成については、岡崎らの方法に準拠しており、下表に示した2)。
1.検体輸送
当所では、主として咽頭ぬぐい液を検体としている。凍結した輸送培地をあらかじめ医療機関に配布し、検体採取前に溶解して使用することとしている。輸送培地に検体採取した綿棒を入れ常温で輸送し、当日のうちに搬入、もしくは医療機関で-20℃で保管ののち凍結状態で輸送する。いずれの場合でも搬入後すぐに培養を開始する。ただし、凍結する場合は可能であれば-80℃が望ましく、凍結期間もなるべく短いことが望ましい。
2.培養検査
検体100μLを平板培地に、200μLを二層培地の液相にそれぞれ接種し、37℃で好気培養する(ただし、平板培地については5%CO2培養が望ましい)。M.pneumoniaeは発育にかかる期間が1週間~1カ月程度と幅があり、かつ長期間にわたることから、平板培地は好気培養の場合、乾燥防止のため湿潤箱を使用する。
平板培地でマイコプラズマの特徴である目玉焼き状(本号6ページ図2参照)あるいは桑実状コロニーが認められた場合、メチレンブルーによるM.pneumoniae以外の口腔マイコプラズマの抑制2)を目的として、二層培地にコロニーを接種する。二層培地の寒天培地部分との境界線が黄変し、陽性を示した場合、後述のIevenらによるPCR法3)での同定および保存培地への継代を行う。保存培地で増殖したものを、菌株として-80℃に保存する。菌株保存や分離培養においては、培地が黄変したのちは急速に生菌数が減少することに注意する1)。
二層培地による分離培養において陽性を示した場合、新たな二層培地に再継代を行う。再継代ののち、保存培地に継代・培養後、保存するとともに、必要に応じて、平板培地への接種、同定を実施する。なお、平板培地および二層培地による分離培養いずれの場合でも、夾雑菌によりM.pneumoniaeが分離できないことがある。
3.遺伝子検査
検体からの遺伝子検査は、分離培養と併用すれば、夾雑菌などにより分離ができなかった場合に、検出法として有用である。ただし、遺伝子が陰性でも、培養で陽性となりうるため、当所では遺伝子検査の結果によらず、培養検査を実施している。
検体1mLを14,000rpm、15分間遠心し、上清を捨てたのち、その沈査に100μLのSTE buffer〔100mM NaCl、10mM Tris-HCl(pH8.0)、1mM EDTA、1% TritonX-100、市販品あり〕を加え、100℃で10分間加熱後、冷却したものをPCRの鋳型として使用する。DNA抽出については市販の抽出キットも使用できる。
当所でのPCR法は、Ievenらによる16S rDNAを標的としたプライマー(Ieven1-F: 5’ -AAGGACCTGCAAGGGTTCGT-3’、Ieven2-R: 5’ -CTCTAGCCATTACCTGCTAA-3’、PCR産物長: 277bp)を使用している3)が、その他のPCR法およびloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法でも可能である。
4.薬剤感受性試験
本項では薬剤感受性試験のうち、菌液の菌数調整および判定について記載する。その他詳細は感染研マニュアルを参照されたい1)。
薬剤感受性試験では、保存培地を用いて104~105CFU/mLの菌液を調製し、使用する。岡崎らは、-80℃で保存した場合、4週間は薬剤感受性試験に影響するほどの菌数の減少は認められないとしている2)。このため、あらかじめ菌数を測定し、-80℃に保存しておいた菌液を用いて、菌数を調整する。
Minimum inhibitory concentration(MIC)の判定には、毎日、朝と晩の2回観察し、薬剤を接種しない菌液のみのコントロールウェルが完全に黄変した時点での値を採用するイニシャルMICと、その後、数日培養した時点での値を採用するファイナルMICがあるが、テトラサイクリンなど静菌的な抗菌薬ではファイナルMICが変動することがある1)。このため、当所ではイニシャルMICを採用している。この判定は培地の色調で行うことから、おおよその菌数を培地の色調から判断できることが望ましい。さらには、先の菌株保存の際にも色調から菌数を判断することは有用である。
以上、本稿では検査方法の一例として、神奈川県衛生研究所での実例を紹介した。ご参考いただければ幸いである。
参考文献
- 肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)検査マニュアル(PDF:4.4 MB)
- 最新マイコプラズマ学, 編者: 日本マイコプラズマ学会, 近代出版, 2016
- Ieven M, et al., J Infect Dis 173: 1445-1452, 1996
神奈川県衛生研究所
陳内理生 大屋日登美