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肺炎マイコプラズマの病原性因子

公開日:2024年1月30日

(IASR Vol.45 p4-5:2024年1月号

Mycoplasmoides pneumoniaeMycoplasma pneumoniae: M.pneumoniae)は肺炎マイコプラズマと呼ばれ、マイコプラズマ肺炎の起因菌である。M.pneumoniaeは飛沫感染により体内に侵入すると、呼吸器の上皮細胞表面で増殖し、上皮細胞の破壊・炎症を誘導する。マイコプラズマは他の病原性細菌と異なり、外毒素やプロテアーゼなどの酵素の産生に乏しく、病原性因子については不明な点も多かったが、近年解析が進んできている。以下、M.pneumoniaeの病原性因子について解説する(図1)。

1.肺炎マイコプラズマの名称

肺炎マイコプラズマはこれまでMycoplasma pneumoniaeと呼ばれてきた。マイコプラズマ属菌が属しているMollicutes綱はこれまでその特徴的な性質によって分類されてきたが、近年、進化軸に沿った分類が提唱され、M.pneumoniaeが属するグループにはMycoplasmoidesという新たな属名が与えられた1)。しかしながら、この新分類は広く浸透しておらず、旧名称と併用されているのが現状である。

2.細胞毒性

M.pneumoniaeの細胞毒性を示す因子の1つとして、菌が産生する過酸化水素が考えられる。過酸化水素はフラビンを最終受容体とする電子伝達系の結果として、またはグリセロールの分解産物として放出される。この過酸化水素はM.pneumoniaeの示す溶血性の原因因子であることが知られている2)

また, M.pneumoniaeは外毒素を産生しないと考えられてきたが、近年M.pneumoniaeのゲノムに百日咳毒素様の遺伝子が存在することが明らかとなり、community-acquired respiratory distress syndrome toxin(CARDS TX)と名付けられた3)。CARDS TXはマウスや培養細胞において炎症を惹起する機能を持つが、百日咳毒素の本質であるADPリボース転位酵素活性には非依存的にinflammasomeを活性化し炎症を誘導することが知られており、百日咳とは異なるメカニズムで肺炎を惹起することが示唆されている4)

その他に、アポトーシスの誘導や好中球から逃れるために重要な働きを示すnuclease等が報告されている5)

3.マイコプラズマによる炎症誘導因子

炎症は生体防御の一環であるが、過度の炎症は組織を損傷する。M.pneumoniae肺炎においても、炎症誘導とそれにともなう肺組織の障害を引き起こす因子が病原性因子の1つであると考えられる。M.pneumoniae感染では、菌体の表面に存在するリポプロテインが宿主細胞のToll-like receptor(TLR)2に認識されることで炎症が誘導される6)

4.動物細胞への接着および滑走運動

M.pneumoniaeはフラスコ型の突起部分、接着器官と呼ばれる接着に必要なタンパク質が集まった部位で呼吸器上皮細胞の繊毛に存在するシアル酸に付着した後、滑走運動と呼ばれる運動で細胞表面に移動し、接着する。その接着・滑走運動に中心的な役割を果たしているのはP1アドヘジンと呼ばれるタンパク質であると長年考えられてきた。近年、このP1タンパク質とそのアクセサリータンパク質であるP40/P90タンパク質(1つのタンパク質として発現し、その後2つのタンパク質に切断される)の立体構造が解明された。その結果、アクセサリータンパク質と考えられていたP40/P90タンパク質のP90部位にシアル酸との結合部位があることが判明し、P40/P90タンパク質が接着を担っていることが明らかとなった(図2)。滑走運動を行うためにはP90の立体構造が変化し、シアル酸から乖離する必要があるが、この立体構造の変化にP1が関与していると示唆されている7)。また, M.pneumoniaeの接着はヒトのマクロファージにおいてATPとそのレセプターであるP2X7 receptor依存的に細胞内レセプターであるinflammasomeを活性化し、TLR2非依存的に炎症を誘導する6)。これらのことから、M.pneumoniaeの接着は宿主細胞の呼吸器上皮細胞への定着だけではなく、炎症誘導に重要な因子としても働いていると推定される。

M.pneumoniaeの病原性因子を図1にまとめた。それぞれの因子はマイコプラズマ肺炎を惹起するために重要な役割を担っているが、それぞれ単体ではM.pneumoniaeの病態、宿主特異性や器官特異性などを完全に説明することは難しく、これらの因子が複雑に絡み合い、M.pneumoniae肺炎の病態を形成しているものと考えられる。

参考文献

  1. Gupta RS, et al., Antonie Van Leeuwenhoek 111: 1583-1630, 2018
  2. Somerson NL, et al., Science 150: 226-228, 1965
  3. Kannan TR and Baseman JB, Proc Natl Acad Sci USA 103: 6724-6729, 2006
  4. Bose S, et al., mBio 5: e02186-14, 2014
  5. Somarajan SR, et al., Cell Microbiol 12: 1821-1831, 2010
  6. Shimizu T, Front Microbiol 31: 414, 2016
  7. Vizarraga D, et al., Nat Comun 11: 5188, 2020

山口大学共同獣医学部獣医公衆衛生学教室
清水 隆

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