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国内初のCandida auris血症の1例

(IASR Vol.45 p20-21:2024年2月号

今回、国内初のCandida aurisC. auris)血症を経験したので報告する1)

特に既往のない71歳男性。転院5カ月前(2020年)にフィリピンセブ島に語学留学をしていた。転院2カ月前に、転倒を契機にした第12胸椎圧迫骨折および新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の診断で現地医療機関に入院した。重症COVID-19の診断で、気管挿管・人工呼吸器による管理が開始された。転院1カ月前に多剤耐性アシネトバクター属菌(MDRA)による人工呼吸器関連肺炎を発症した。同時期に心肺停止となり、自己心拍再開後、バスキュラーアクセス+末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)を挿入され、血液透析が開始された。最期の時を地元で過ごさせたいという家族の希望に応じて、国際医療搬送を行った。

海外での長期ICU入院歴ならびにMDRA肺炎歴があったため、ICU個室管理のうえ、接触予防策+飛沫予防策を開始し、耐性菌スクリーニング(喀痰、尿、便培養)を行った。右上腕PICCならびに左内頸バスキュラーアクセス挿入部に異常所見はなかったものの、カテーテル関連血流感染症を念頭に、血液培養採取後、デバイスの入れ替えを行った。前医から投与されていたメロぺネム+コリスチンに加え、バンコマイシン+ミカファンギン(MCFG)の投与を開始した。Glasgow Coma Scale(GCS)はE1VTM1、睫毛反射も消失しており、頭部CTでは低酸素脳症、脳浮腫、頭蓋内出血の所見があった。入院2日目に入院時の血液培養から酵母様真菌が検出され、質量分析計を用いた血液培養ボトルからの直接同定法でC. aurisと同定された。また、入院4日目に入院時の血液培養からTrichosporon asahiiが追加で検出され、入院3日目に再検した血液培養からもC. aurisならびにT.asahiiが検出され、各々持続真菌血症であることが判明した。腎機能障害のためボリコナゾール点滴静注の追加投与は避け、MCFGからリポソーマル・アムホテリシンB(L-AMB)へ変更した。同日、家族に病状を説明し、ベスト・サポーティブ・ケアの方針となり、入院11日目に多臓器不全のため永眠された。

C. aurisは、2005年に分離された外耳道由来株を解析し、2009年に日本で同定・報告された新たな真菌である2)。その後、韓国、インド、英国など世界各国で同定され、国別報告数ではインドが最も多く、米国、英国が次ぐ3)。血液から分離されることが多く3)、血流感染症の院内死亡率は30-60%と非常に高い4)。感染リスクは、広域抗菌薬投与、中心静脈カテーテル留置、ICU入室、尿道カテーテル留置、手術歴などであり5)、一般的な侵襲性カンジダ症のリスク因子と類似する。

C. aurisは、遺伝的にclade1-4に分類されており、一般的に日本や韓国の株はclade2(東アジア株)に属するが、本株は、サンガーシーケンスの結果、clade1(南アジア株)であった。clade2を除くclade1、3、4は、院内アウトブレイクや多剤耐性を生じやすく、医療現場における喫緊の課題となっている。また、C. aurisは、従来の生化学的検査では同定困難や誤同定が生じうる。例えば、選択培地であるCHROMagar Candida培地では、白、ピンク、赤、緑など様々なコロニーを形成する。CHROMagar Candida Plus培地では、同定精度が向上し、青いハローをともなう薄い青色のコロニーを形成するが、C.parapsilosisとの区別が難しい。さらに、従来の生化学的同定キットでは、C.haemuloniiC.catenulateC.famataC.sakeなどと誤同定される6)。そのため、C. aurisをデータベースに含んだ質量分析計や遺伝子検査(PCR法、LAMP法など)を用いて同定する必要がある。そのため、感染リスクの高い国・地域での入院(特にICU入室)歴がある場合、抗真菌薬耐性もしくは同定困難なカンジダ属が検出された場合は、菌株同定に関して管轄保健所に相談する。

C. aurisは、多剤耐性傾向があり、米国疾病予防管理センター(CDC)の『Antibiotic Resistance Threats in the US、2019』ではUrgent Threatに、世界保健機関(WHO)の『Fungal Priority Pathogen List、2022』でもCritical Priority Groupに位置付けられている。実際、フルコナゾール(FLCZ)に対して80%、アムホテリシンB(AMPH-B)に対して35%が耐性を示し、エキノキャンディン系も含む3系統すべての抗真菌薬に耐性を示す株も報告されており、しばしば治療薬選択に難渋する5)。CDCは、第一選択薬にMCFGを挙げており、臨床的効果不良もしくは5日を超える持続真菌血症の場合は、L-AMBへの変更を考慮するよう推奨している。C. aurisのブレイクポイントは、Clinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)、The European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)では定義されておらず、CDCによる暫定値が使用されている。CLSI M27-E4、2017に準じた薬剤感受性試験(微量液体希釈法)を行った結果、本株もFLCZならびにAMPH-Bに耐性であることが判明した()。

幸い、本症例を起点とした院内水平伝播は生じなかったが、病院内でのアウトブレイク制圧まで1年以上を要した事例も報告されている7)C. aurisは環境表面に長く生息し、乾燥または湿潤環境では1週間、プラスチック表面では2週間も生存できる。そのため、個室隔離、接触予防策、手指衛生に加え、患者退出後の環境清掃が重要である。手指衛生は、アルコールによる手指消毒を中心に行う。環境清掃では、次亜塩素酸ナトリウムやエタノールなどの中水準以上の消毒液が有効であり、クロルヘキシジングルコン酸塩や第四級アンモニウム塩などの低水準消毒液の効果は限定的であると考えられている。

謝辞:病院のスタッフならびに帝京大学真菌研究センター槇村浩一先生らに深謝申し上げます。

参考文献

  1. Ohashi Y, et al., J Infect Chemother 29: 713-717, 2023
  2. Satoh K, et al., Microbiol Immunol 53: 41-44, 2009
  3. Osei Sekyere J, Microbiologyopen 7: e00578, 2018
  4. Spivak ES, et al., J Clin Microbiol 56: e01588-17, 2018
  5. Hu S, et al., Front Microbiol 12: 658329, 2021
  6. Jeffery-Smith A, et al., Clin Microbiol Rev 31: e00029-17, 2017
  7. Schelenz S, et al., Antimicrob Resist Infect Control 5: 35, 2016

佐賀大学医学部附属病院感染制御部 的野多加志

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