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国内の抗真菌薬耐性白癬菌について

公開日:2024年2月27日

(IASR Vol. 45 p26-27:2024年2月号

はじめに

白癬は日常診療でよく遭遇する皮膚疾患であり、足白癬の国内の有病率は21.6%(患者数は約2,500万人)、爪白癬は10.0%(約1,000万人)と推計されている。Trichophyton rubrumに代表される白癬菌(皮膚糸状菌)が白癬の原因真菌である。治療は抗真菌薬の外用または内服により行われ、アリルアミン系のテルビナフィン(TRBF)やアゾール系抗真菌薬などが使用される。

TRBFは白癬の治療薬として世界各地で使用されており、国内では1993年に外用薬が、1997年に内服薬が承認、発売された。白癬菌に対する強い抗真菌活性を有するTRBFは現在も主要な白癬治療薬の1つであるが、一方でTRBF耐性白癬の報告、研究が近年増加しており、注目を集めている。最初の報告は2003年の米国からで、TRBF 250mg/日、24週間の内服治療が無効であった爪白癬患者からTRBF耐性T.rubrumが分離されたというものであった。国内では、2018年にTRBF耐性T.rubrumが足白癬から分離、報告された。また、TRBF耐性株はTRBFが標的とするスクアレンエポキシダーゼ(SQLE)の遺伝子に変異を有していることがわかっている。

国内の抗真菌薬耐性白癬の現状

耐性株についての疫学的な情報はほぼなかったので、国内における現状を把握することを目的として、我々は2020年と2022年に抗真菌薬耐性白癬菌の疫学的調査を実施した1,2)。2020年の調査では、1都6県の医療機関を受診した白癬患者から分離された210株の臨床分離株を収集した。そのうち5株(2.3%)がTRBF耐性株であり、T.rubrumであった。薬剤感受性試験では、TRBFに対する最小発育阻止濃度(MIC)は32μg/mL以上と高値を示したが、イトラコナゾール(ITCZ)などのアゾール系薬剤のMICは低く、感受性があった。すべての耐性株でSQLE遺伝子のアミノ酸置換(L393F)を起こす遺伝子変異があることが確認された。TRBF耐性株が分離された患者の内訳は、足白癬4例、体部白癬1例であり、そのうち3例にSQLE阻害薬による治療歴があることが確認された。

2022年にも同様な方法で調査を行い、288株の臨床分離株を収集した。前回調査で調べたTRBF耐性に加えて、2022年の調査ではITCZに対する耐性についても検索した。その結果、TRBF耐性株は4株(1.4%)で、足白癬から分離されたT.rubrum 3株と、爪白癬から分離されたT.interdigitale 1株であった。SQLE遺伝子の配列には前回調査と同様な変異(L393F)を3株に認めたほかに、1株に別のアミノ酸置換(F397L)を起こす遺伝子変異を確認した。ITCZに対する耐性を有する株は3株(1.0%)あり、いずれもT.rubrumであった。2022年の調査で確認した抗真菌薬耐性株は合計で7株(2.4%)であったが、いずれの株も単剤耐性であり、多剤耐性を示したものはなかった。

2度の調査の結果から、国内の白癬菌の耐性率は約2%であることがわかった。耐性率2%は小さい値だが、国内の白癬患者が数千万人と推計されていることを踏まえると、耐性白癬の罹患者が国内に50万人以上いることを意味しており、潜在的な問題の大きさを感じさせる。

TRBF耐性化を評価するうえでSQLE遺伝子の変異を調べることは有用であり、今回の調査では2種類のアミノ酸置換が確認された。実際にはSQLEのアミノ酸変異には多数のパターンがあるが3,4)、顕著な感受性低下を起こすのはその一部だけである()。

輸入感染症としてのTRBF耐性T.indotineae

近年インドとその周辺国において、TRBF耐性の白癬菌による体部白癬の流行が多数報告されている。その原因真菌は遺伝子や表現型、病原性において、従来のT.mentagrophytesT.interdigitaleとは差異が認められ、新種としてT.indotineaeと報告された5)T.indotineaeによる感染症は主に体部白癬であり、炎症が強く、大きい紅斑を躯幹や四肢などに多発するのが特徴である。流行地域はインドやネパールなどであり、同地域からの渡航者が日本や欧州、中国などの多くの地域に病原真菌を拡大させている。T.indotineaeの多くはTRBF耐性であると考えられており、SQLE変異を有している。インド国内ではTRBFとステロイド外用薬の混合外用薬が市販薬として広く使用されており、そのことがT.indotineaeのTRBF耐性化を惹起したと推測されている。新規の輸入感染症としてのT.indotineaeの国内における感染拡大に注意が必要である。

多剤耐性白癬菌に対する懸念

2022年に国内において多剤耐性T.rubrumの分離が報告された6)。この症例では治療開始の当初はTRBF単剤耐性の体部白癬であったが、アゾール系薬剤の内服、外用治療中にそれらの薬剤にも耐性を獲得し多剤耐性化した。SQLE阻害薬とアゾール系薬剤の両者に対する耐性を白癬菌が獲得してしまうと、治療薬の選択はかなり限定されてしまい、治療に難渋することになる。今後同様な多剤耐性白癬の出現が懸念される。

現状において耐性白癬菌の大部分は単剤耐性であり、皮膚真菌症の診療の根幹を揺るがすような存在ではない。しかしメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの多剤耐性菌の歴史を鑑みるに、病原菌は臨床医の予想を超えて薬剤耐性を獲得しうる可能性がある。抗真菌薬耐性白癬菌の出現は皮膚真菌症診療への警鐘ととらえて、診療の在り方を再考する機会とすべきなのかもしれない。

利益相反など:この文章に関連して、開示すべき利益相反はありません。

参考文献

  1. Hiruma J, et al., J Dermatol 48: 564-567, 2021
  2. Hiruma J, et al., J Dermatol 50: 1068-1071, 2023
  3. Saunte DML, et al., Antimicrob Agents Chemother 63: e01126-19, 2019
  4. Yamada T, et al., Antimicrob Agents Chemother 61: e00115-17, 2017
  5. Kano R, et al., Mycopathologia: 947-958, 2020
  6. Kano R, et al., Antimicrob Agents Chemother 66: e0239321, 2022

東京医科大学皮膚科学分野
比留間淳一郎

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