伴侶動物由来MRSAに関する最新動向
公開日:2024年3月26日
(IASR Vol.45 p43-44:2024年3月号)
はじめに
近年、感染症対策においてはヒトだけでなく動物も含めた『One Health』での取り組みが推進されており、一角を担うのが伴侶動物注:である1,2)。伴侶動物はヒトとのかかわりが密接であり、そのほとんどが犬猫などの哺乳類であるため、共通感染症も多い1)。ヒトが伴侶動物と触れ合う際の感染リスクを考えるうえで、皮膚表面に存在するブドウ球菌属は重要な指標である3)。伴侶動物に病原性を示す主要なブドウ球菌属の中で最も多い菌種はStaphylococcus pseudintermediusであるが、ヒトへの感染は稀である3,4)。一方,Staphylococcus aureusは伴侶動物における次点の優勢種であるが、ヒトと伴侶動物の両方に感染性を持つため、飼育や触れ合いによる感染伝播が推測される3-5)。
伴侶動物の抗菌薬処方は、畜産動物のような予防目的の集団処方ではなく、ヒトと同様、感染症の治療を目的とした個体への処方が基本である2)。一方、伴侶動物医療ではヒト用抗菌薬と動物用抗菌薬のどちらも用いられるため、ヒトとは異なる薬剤耐性の広がりが懸念される2,6,7)。こうした背景から、伴侶動物由来メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant S. aureus:MRSA)の対策に当たっては、『One Health』の理念に基づいた統合的な視点が必須である5)。
海外における最新動向
伴侶動物由来MRSAの疫学研究は、欧州などの動物福祉が拡充されている国において盛んに行われている5,6)。その地域のヒトにおいて流行しているMRSAクローン(特に医療関連型)が発症した犬猫から検出されており、伴侶動物由来MRSAはヒトと伴侶動物の両者に対して病原性を有する可能性が高い5)。このようなMRSAの分離率は伴侶動物において著しく増加しており、伴侶動物がヒト由来MRSAのリザーバーとして機能している可能性を示している5)。
日本における最新動向
日本の伴侶動物においても、ヒトで流行しているMRSAクローンの検出が多くなっている8,9)。本邦で罹患した伴侶動物からは、3つのクローン(ST5-SCCmec2、ST8-SCCmec4、そして、ST1-SCCmec4)に属するMRSAの流行が確認された9)。毒素性ショック症候群毒素(TSST-1)やエンテロトキシンSECを中心とした毒素遺伝子の保有状況から、これらの流行株についてもヒトと伴侶動物の両者に対して病原性を有すると思われる9)。
注目すべき特徴として、本邦の伴侶動物由来MRSAはヒトや畜産動物よりも薬剤耐性化が進んでおり、多剤耐性化傾向が強いことが挙げられる10)。本邦の伴侶動物医療では、セファロスポリン系抗菌薬の使用割合が高く、多剤耐性化の一因となっている可能性があるが、実態の解明にはさらなる研究が必要である7,11)。特に、本邦の伴侶動物由来MRSAに関する研究は薬剤感受性試験による表現型の解析にとどまっており、今後はゲノムレベルでの詳細な解析が求められる。
結語
上述した知見から、伴侶動物由来MRSAはヒトと伴侶動物の両方に対してハイリスクである可能性が高く、早急な対策が必要である。
公衆衛生の観点からは、伴侶動物医療における抗菌薬の適正使用の徹底が重要である。本邦の伴侶動物医療は、自由診療かつ2020年まで抗菌薬使用の指針が存在しなかったことなどから、伴侶動物医療の現場では薬剤耐性問題の認識は不十分であった。2024年現在は、農林水産省が主体となって獣医師へ向けた啓発活動を行っており、今後の薬剤耐性対策の普及が期待される12)。
伴侶動物由来細菌の薬剤耐性対策のためには『One Health』の枠組みに基づく統合的な対策が必要であり、分野を越えた多角的な視点と総合的な対策を実施していく必要があると思われる。
注:『愛玩動物(pet animal)』という呼称は動物福祉の観点から見直され、『伴侶動物(companion animal)』という呼称へ置き換わりつつある。本稿では犬猫などの小動物に対し『伴侶動物』という呼称を用いる。
参考文献
- Day MJ, Parasit Vectors 4, 2011
- McEwen SA and Collignon PJ, Microbiol Spectr 6, 2018
- Morris DO, et al., Vet Dermatol 28: 304-e69, 2017
- National Veterinary Assay Laboratory, Report on the Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring System 2018-2019, 2023
https://www.maff.go.jp/nval/yakuzai/pdf/JVARM_Report_2018-2019.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:6.0 MB) - Loeffler A and Lloyd DH, Epidemiol Infect 138: 595-605, 2010
- Marco-Fuertes A, et al., Vet Sci 9: 208, 2022
- Makita K, et al., Front Vet Sci 8: 705648, 2021
- Sasaki T, et al., J Clin Microbiol 50: 2152-2155, 2012
- Taniguchi Y, et al., J Glob Antimicrob Resist 20: 253-259, 2020
- The AMR One Health Surveillance Committee, Nippon AMR One Health Report (NAOR) 2022, 2023
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001158348.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:3.3 MB) - Couto N, et al., J Antimicrob Chemother 71: 1479-1487, 2016
- 農林水産省, 愛玩動物(ペット)に使用する抗菌性物質について
https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/amr3pets.html(外部サイトにリンクします)
東京慈恵会医科大学大学院医学研究科
角井真名美
国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
久恒順三 菅井基行