日本におけるデングウイルス媒介蚊について
公開日:2024年8月29日
(IASR Vol. 45 p134-135: 2024年8月号)
デングウイルス媒介蚊
日本における過去のデング熱の流行で、 デングウイルスを媒介したと考えられている蚊種は、 ネッタイシマカ(Aedes aegypti)とヒトスジシマカ(Aedes albopictus)である。ネッタイシマカは世界中の熱帯・亜熱帯地域に分布し、 デングウイルスの主要媒介蚊として知られている。1931年の沖縄県のデング熱流行では、 35,000人以上が罹患し、 460人以上が死亡したとされている。蚊からウイルスを検出、 分離した記録はないが、 当時の民家周辺では、 ネッタイシマカの密度が高く、 流行への関与が強く疑われている1)。1970年代の沖縄県での記録を最後に、 日本においてはネッタイシマカの定着は確認されておらず、 絶滅したと考えられている。ただし、 近年、 国際空港でのネッタイシマカの侵入事例が相次いでおり、 それらの侵入個体から殺虫剤抵抗性遺伝子が検出されていることから、 今後、 注意が必要である2)。ヒトスジシマカはアジア原産で、 ネッタイシマカと同様に重要な媒介蚊と考えられている。卵の乾燥耐性および温帯地域では越冬のために卵の休眠性を有し、 20世紀後半に物流とともにアジアから世界中に分布を広げた。ヒトスジシマカが侵入、 定着したヨーロッパにおいてデングウイルスを媒介していることから、 温帯地域の媒介蚊として非常に注目されている。1942~1944年に長崎市を初発地として佐世保市、 広島市、 呉市、 神戸市、 大阪市において、 全体の患者数が少なくとも20万人と推定されるデング熱の大流行が起きている3)。これらの地域では、 ネッタイシマカが生息していなかったことから、 ヒトスジシマカが関与したと考えられている3)。それから約70年後、 2014年に東京都の代々木公園を中心とした流行の際には、 推定感染地と考えられる公園から採集されたヒトスジシマカ成虫からデングウイルスが検出され、 本種が実際にデングウイルスを媒介したことが確認されている4-6)。
ヒトスジシマカの分布
日本におけるデングウイルス媒介蚊種として、 最も重要なのはヒトスジシマカである。1950年代まで、 国内における分布の北限は栃木県および新潟県であったが、 温暖化にともなって分布域が北上し、 2015年には本州最北県である青森県の青森市で記録され、 翌年定着が確認された7)。現在、 北海道を除き、 日本全国に分布している。本種の定着にかかわる重要な要因としては、 年平均気温が11℃以上であることが報告されている8)。北海道でこの条件を満たすのは、 札幌市、 小樽市、 函館市の都市部であり、 2017年以降、 これらの地域を中心にヒトスジシマカの分布調査を行っているが、 2023年現在、 確認されていない。
Yangらは、 機械学習の1つであるthe random forest modelで気象・環境要因を解析し、 気候変動の進行予測に基づき、 将来、 日本においてヒトスジシマカの分布がどのように変化するかを調べた9)。それによると、 (1)ヒトスジシマカは、 日本においては森林地帯よりも都市部に生息している、 (2)気温、 都市化に関するパラメーターが分布を決める要因として重要である、 (3)現状に最も近い中道的な発展下で気候政策(温室効果ガス排出量は目標の上限)をとった場合、 気候変動や環境変化で分布は徐々に拡大し、 2030年には北海道札幌市周辺、 小樽市、 苫小牧市、 室蘭市、 函館市、 帯広市などの都市部に定着してもおかしくないことを示している(図)。航空機、 船舶、 鉄道のネットワークが発達し、 人流、 物流の多い札幌市、 苫小牧市、 函館市では、 特にヒトスジシマカの侵入監視が必要であると考えられる。
参考文献
- 宮尾 績, 海軍軍医会雑誌 20: 564-580, 1931
- 比嘉由紀子ら, IASR 41: 91-92, 2020
- 堀田 進, 衛生動物 49: 267-274, 1998
- 関 なおみ, IASR 36: 37-38, 2015
- Kobayashi D, et al., Am J Trop Med Hyg 98: 1460-1468, 2018
- 小林大介ら, 衛生動物 71: 85-90, 2020
- 前川芳秀ら, IASR 41: 92-93, 2020
- Kobayashi M, et al., J Med Entomol 39: 4-11, 2002
- Yang C, et al., PLoS ONE 19: e0303137, 2024
国立感染症研究所昆虫医科学部
比嘉由紀子 楊 超 葛西真治