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航空機内で発生した麻疹アウトブレイクの概要とその対応

公開日:2024年9月20日

(IASR Vol. 45 p155-156: 2024年9月号

東大阪市保健所は、人口約48万人の中核市保健所である。2024年2月29日、本市にて麻疹発生届を受理した。患者は感染性を有する期間に外国発の航空機に搭乗しており、接触者は国内外にわたった。本事例に関連した麻疹患者は計14名(本人含む)確認され、最後の接触者発症から4週間が経過した2024年4月12日をもって終息したと判断した。以下、本症例について搭乗者への対応を中心に報告する。

患者概要

20代男性。麻しん含有ワクチン接種歴はなし。2023年11月~2024年2月24日までアジアを中心に13の国・地域へ長期旅行をしていた。2月20日から発熱と鼻汁、2月24日に発疹が出現した。帰国当日の2月24日に医療機関を受診した。同日実施した麻疹特異的IgM抗体検査が2月29日に陽性判明、翌日3月1日に大阪健康安全基盤研究所にてreal-time PCRで陽性判明となった。

対応

2024年2月29日の発生届(臨床診断例)受理時、患者は自宅療養中であった。確定診断のための検体採取は診断医療機関に依頼した。臨床症状と海外渡航歴から、確定診断例となることを予測し、疫学調査への協力を得て接触者の特定に注力した。その結果、感染可能期間に約9時間に及ぶ外国籍航空機への搭乗が判明した。診断確定後の広域対応に備え、大阪府と患者の立ち寄り先を管轄する保健所に情報提供した。

3月1日(確定診断当日、最終接触日から6日目、潜伏期間は通常7~14日間)、「航空機内での麻疹伝播に関するリスク評価 ガイドライン(ECDC)」を参考に搭乗者全員が接触者であると判断した。航空会社への連絡は英文メールを送信し、返信を待つことになった。接触者の発症期が迫っていたため、直ちに令和5(2023)年5月12日付厚生労働省(厚労省)事務連絡「麻しんの国内伝播事例の増加に伴う注意喚起について」〔令和6(2024)年2月26日再周知〕に基づく報告をし、厚労省に搭乗者対応について相談をした。担当官からは、国際保健規則(IHR)に基づく相手国への事前通告が必要な事例であるため、厚労省が関係国と航空会社の対応を担うと回答を得た。本市では、通告が完了するまでの時間で公表の準備を進めた。この間、大阪府と厚労省との3者で頻回に電話調整をすることになった。

診断から2日目(最終接触日から7日目)、本市では、搭乗者名簿入手後の迅速な接触者対応をするため、感染症調査が未経験の職員が応援できる対応マニュアルを作成し、体制を整えた。

診断から4日目(最終接触日から9日目)、情報共有と方針決定を迅速に行うことを目的に本市と厚労省、国立感染症研究所(感染研)、大阪府でweb会議を開催した。会議では本市の課題も相談し、対応に備えた。

診断から6日目(最終接触日から11日目)に搭乗者名簿を入手した。web会議で検討し、連絡先が判明した日本人から連絡を取ることになり、本市は日本人搭乗者への電話連絡を、厚労省は日本人搭乗者へ注意喚起メールの一斉送信をすることにした。本市では、担当課職員全員で接触者の健康状態や所在地の確認を行った。対象者81名中39名と連絡が取れ、そのうち8名の有症状者が判明し、直ちに管轄保健所へ対応を依頼した。

診断から7日目(最終接触日から12日目)、外務省を通して旅券情報を入手した。搭乗者名簿で連絡が取れなかった接触者に連絡を試みた。web会議では有症状者の管轄保健所も出席し、行政検査の実施状況や公表基準を確認し、対応の統一を図った。

診断から8日目(最終接触日から13日目)は、未連絡の12名に対して、旅券情報の住所地を管轄する保健所へ接触者調査を依頼した。web会議では厚労省が外国籍搭乗者に対し、英文の注意喚起メールを一斉に送信することを決めた。この時点で陽性者が5名判明しており、三次感染例を想定した対応も情報共有した。

診断から14日目(最終接触日から19日目)、これまでの会議で対策や公表基準の共有が図れたため最後のweb会議となった。以後は、令和5(2023)年5月12日事務連絡〔令和6(2024)年2月26日再周知〕に基づき対応することを確認した。

接触者であることを情報提供できた搭乗者は発症から2~3日目に確定診断に至っている。

機内接触者の内訳

日本人搭乗者: 乗客80名

接触者調査を依頼した保健所数: 30カ所

PCR検査実施数: 14件(うち陽性者数9名)

まとめ

本事例では、三次感染例を確認することなく終息を迎えることができた。その要因の1つは、発生早期から厚労省と感染研の主導のもと、関係機関とweb会議を活用し、連携体制を確立したことにある。1保健所では調整が難しい広域的感染対策の視野に立った対策を講じることができた。その結果、保健所は接触者対応等の担うべき役割に注力でき、二次感染者の早期探知につながった。一方で、web会議開催時には、個人情報保護などの配慮を考慮すべきである。また、本市担当課では、令和5(2023)年度の予防計画・健康危機対処計画作成の過程で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応を振り返り、有事に対応するための体制や応援の在り方を検討してきたことも、職員の積極的な協力体制による短時間での接触者対応につながった。

近年のインバウンドおよび渡航者の増加により、輸入感染症発生の懸念が大きくなる中、大阪・関西万博を控え、さらなる保健所の体制強化が求められている。今回の経験から、海外を含む広域にわたる感染症対策については、早期にweb会議等を活用し、関係者間で密に情報共有して進めていくことが肝要であると考える。

謝辞: 今回の麻疹対応にご尽力いただきました各保健所や各医療機関の皆様、また多大なる支援を賜りました厚生労働省と国立感染症研究所の先生方に感謝申し上げます。

東大阪市保健所
吉田香織 石田彩瑛 松山美紀 橘 喜美子 大野桂子
北山加奈子 鷺ノ森奈芳美 松本小百合

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