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哺乳類への高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染拡大について

(IASR Vol. 45 p193-194: 2024年11月号)

鳥インフルエンザウイルスは水禽類(カモ類)を自然宿主とし、ウイルスは消化管上皮細胞で増殖して水中に糞便とともに排出され、他の水禽に伝播して野生水禽の間で循環して維持されている。1996年に中国広東省のガチョウ農場で検出されたH5N1亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルス〔以下、A(H5N1)ウイルス〕は、渡り鳥である野生水禽などを介して、2003年末以降に東アジア・東南アジア・ヨーロッパ・アフリカなど様々な地域の野鳥・家禽へ感染が拡がった1)。2020年以降、クレード2.3.4.4bのA(H5N1)ウイルスによる野鳥・家禽への急激な感染拡大が起こり、2021年には北米、2022年には中南米、2024年には南極でも感染が確認され、オセアニアを除く世界中の野鳥や家禽へと感染が拡大し、それにともない哺乳類での感染域も拡大して感染例数も増大した。

A(H5N1)ウイルスのヒト感染例は、1997年に香港で生鳥市場を介して感染した事例が初めてであり、2003年以降、野鳥・家禽でのA(H5N1)ウイルスの流行域の拡大にともない、2003年に東アジア、東南アジアで、2005年に欧州で、2006年にアフリカで、2022年に北米(米国)でのヒト感染例が報告された2-4)

A(H5N1)ウイルスのヒト以外の哺乳類での感染は、主に鳥類を捕食する野生動物を中心とした陸生哺乳類での感染例が、2019年頃までユーラシアとアフリカにおいて確認されていた。しかし北米では、2021年末に養鶏場でクレード2.3.4.4bのA(H5N1)ウイルス感染が確認されると、2022年にはアカギツネでの感染例の報告を皮切りに、以降はスカンク、クマ、ボブキャット、アライグマなどでの感染例が報告され、感染した哺乳類の種類が増えると同時に感染地域も拡大した5)。南米では2023年の始めに、クレード2.3.4.4bのA(H5N1)ウイルスに感染した野鳥を捕食して感染したと考えられるアシカでの感染例も確認され、ペルーには約10万5,000頭のアシカが生息しているが、そのうちの3.29%の3,487頭が死亡するなどの大量死をもたらした6)。以降、南米ではアルゼンチン、ウルグアイ、ブラジルにも感染が拡大し、バンドウイルカ、ハイイロアザラシ、ゴマフアザラシなどの海生哺乳類での感染例が多数報告され、いずれも大量死が確認されている。2023年10月にはアルゼンチンのValdé半島においてミナミゾウアザラシの大量死(約17,000頭)が確認された7)。南極大陸付近にあるアルゼンチンの島々では、2023年3月にミナミゾウアザラシとナンキョクオットセイでの感染が確認され、哺乳類への感染はオセアニアを除いた全世界に拡大した8,9)。2022年10月のスペインの大規模なミンク農場における感染例10)や、2023年のフィンランドの複数の毛皮農場(ミンク、キツネ、タヌキ)における大規模感染例などが報告されている4)。その他にも、飼い猫(ポーランド、韓国、米国、フランス)、飼い犬(イタリア)での感染例も報告されており11,12)、2023年にポーランドの複数地域で飼い猫が感染した例では、エサとして与えられていた鶏肉が、また、同年に韓国の2カ所の猫保護施設で感染した例では、市販の生のアヒル肉を使用したペットフードが感染源の1つとして推察された4)

さらに2024年3月下旬に、乳牛では初めてとなるクレード2.3.4.4bのA(H5N1)ウイルス感染が米国で確認され、感染した乳牛からヒトやネコなどへ感染した例も報告されている。また、2024年9月24日時点の米国における哺乳類でのA(H5N1)ウイルス感染は、乳牛を除き13種、176例の報告があり、ハツカネズミの感染例が82例と最も多く、次いで40例の飼い猫での感染が報告されている13)〔乳牛に関連したA(H5N1)ウイルス感染例の詳細については、本号16ページを参照〕。

日本では、A(H5N1)ウイルスに感染して斃死したハシブトカラスが発見された北海道札幌市内の庭園で、2023年3月に斃死したキタキツネ(アカギツネ)および衰弱したタヌキからクレード2.3.4.4bのA(H5N1)ウイルスが検出されており、これが日本の哺乳類では初めてとなる感染例となった14)。また2023年2月と4月に斃死した2頭のキタキツネからも同ウイルスが検出され15,16)、周辺地域ではハシブトガラスで遺伝的にも類似している同ウイルスの感染例が報告されており、感染した野鳥を捕食したことによりキタキツネは感染したと考えられている17)。また、2024年3月に広島県の家禽農場で発生した高病原性鳥インフルエンザの事例では、発生が確認された鶏舎の隣の鶏舎内で死亡していたクマネズミから、家禽で検出されたものと同一の遺伝子をもつクレード2.3.4.4bのA(H5N1)ウイルスが検出されている18)

A(H5N1)ウイルスの哺乳類での増殖性に寄与する重要なウイルス遺伝子変異には、PB2のQ591K、E627K/V/A、D701Nや、受容体結合能にかかわるHAのS137A、N158N、T160A等のアミノ酸変異が知られている19)。特に哺乳類から分離されたクレード2.3.4.4bのA(H5N1)ウイルスでこれらの変異を有することがあるが、現在までのところ効率的なヒト-ヒト感染は確認されておらず、ウイルス変異によるヒト感染への直接的な影響についてはまだよく分かっていない19)

A(H5N1)ウイルスは、野鳥、陸生哺乳類や海生哺乳類などの動物での感染が拡大しており、ウイルス変異によりヒトへの感染性が変化する可能性も考えられることから、今後も、感染動物とヒトとの接触機会を極力避けつつ、継続して発生動向を監視し、そのリスクを適時に評価していくことが重要である2)

参考文献

  1. 影山 努ら, IASR 36: 220-221, 2015
  2. 国立感染症研究所, 高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例に関するリスクアセスメントと対応, 2023年4月13日
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ta/bird-flu/2621-cepr/12630-h5n1-riskassess-2404.html
  3. CDC, Considerations for Veterinarians: Evaluating and Handling of Cats Potentially Exposed to Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Virus
    https://www.cdc.gov/bird-flu/hcp/animals/index.html(外部サイトにリンクします)
  4. WHO, Cumulative number of confirmed human cases for avian influenza A(H5N1) reported to WHO, 2003-2024, 19 July 2024
    https://www.who.int/publications/m/item/cumulative-number-of-confirmed-human-cases-for-avian-influenza-a(h5n1)-reported-to-who-2003-2024(外部サイトにリンクします)
  5. Cronk BD, et al., Emerg Microbes Infect 12: 2249554, 2023
  6. Leguia M, et al., Nat Commun 14: 5489, 2023
    https://doi.org/10.1038/s41467-023-41182-0(外部サイトにリンクします)
  7. Uhart M, et al., bioRxiv
    https://doi.org/10.1101/2024.05.31.596774(外部サイトにリンクします)
  8. Plaza PI, et al., Emerg Infect Dis 30: 444-452, 2024
  9. WOAH, High Pathogenicity Avian Influenza (HPAI), Situation Report 62
    https://www.woah.org/en/document/high-pathogenicity-avian-influenza-hpai-situation-report-62/(外部サイトにリンクします)
  10. Agüero M, et al., Euro Surveill 28: 2300001, 2023
  11. CDC, Technical Report: December 2023 Highly Pathogenic Avian Influenza A(H5N1) Viruses
    https://www.cdc.gov/bird-flu/php/technical-report/h5n1-122923.html(外部サイトにリンクします)
  12. Domańska-Blicharz K, et al., Euro Surveill 28: 2300366, 2023
  13. USDA, Detections of Highly Pathogenic Avian Influenza in Mammals
    https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/mammals(外部サイトにリンクします)
  14. 磯田典和ら, IASR 43: 259-260, 2022
  15. 環境省, 北海道のキツネにおける高病原性鳥インフルエンザ 遺伝子検査陽性について, 2023年6月8日
    https://www.env.go.jp/press/111118_00100.html(外部サイトにリンクします)
  16. 環境省, 北海道のキツネにおける高病原性鳥インフルエンザ 遺伝子検査陽性について, 2023年4月14日
    https://www.env.go.jp/press/111118_00099.html(外部サイトにリンクします)
  17. Hiono T, et al., Virology 578: 35-44, 2023
  18. 農林水産省, 2023年~2024年シーズンにおける高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書, 2024年7月3日
    https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/tori/attach/pdf/r5_hpai_kokunai-153.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:2.5MB)
  19. Gao Y, et al., PLoS Pathog 5: e1000709, 2009

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